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78.消えた馬車

「は?消えた?」


急な呼び出しで俺と父上が宰相室に行くと、深刻な顔した陛下が待っていた。

その隣で説明している宰相の顔も青ざめている。


「第二離宮へとエリザを乗せた馬車が王宮を出たのは確認できています。

 もちろん護衛と侍女を数人つけて。

 それが…馬車ごと全て消えました。

 これが囚人用の護送馬車なら、

 場所の特定と魔術封じの魔術具があらかじめ埋め込まれています。

 だけどエリザを囚人用の護送馬車に乗せることもできず、王宮の馬車でした。

 魔術封じの魔術具は使用していましたが、あくまでも簡易のものです。

 護衛している者たちが外してしまえば意味がない…。」


「それは…護衛ごと連れ去られたってことか?

 それとも護衛も全員が操られているのか?」


「わかりません。

 今は馬車の通った道を確認させています。

 まだ見つからないとは限りませんが…。

 念のため、離宮に戻っていないかも確認させているところです。

 リオル様はここにいるからいいとして、ミーシャ様は?大丈夫ですか?」


「ミーシャは母上とシオンがついてるから大丈夫だと思う。

 ブランとジーンもいるし…でも、話が終わったら俺は戻るよ。」


「あぁ、わかりました。そのほうがいいでしょう。

 何もなければいいですが、

 捨て身でミーシャ様に危害を加えに行かれると厄介です。」


確かに…最後に見たエリザは目がおかしかった。

俺との幸せな結婚を疑っていないような、狂信的な目だった。

それを邪魔していると思っているミーシャに何かしようしてもおかしくない。


「大変です!離宮が!」


文官が飛び込んできたと思ったら、その報告に誰もが耳を疑った。


離宮の使用人達がすべて倒れている。魔力を枯渇した状態で、意識がない。

そして、ジョセフィーヌ元側妃がいる部屋からの返事がない、と。


さすがに文官に行かせて確認することはできず、俺と父上で確認しに行く。

離宮の入り口を入ってすぐに異臭を感じた。

いたるところに倒れている使用人が寝かされていて、順次外へと運び出されて行く。

その顔は土気色で、ピクリとも動かなかった。

意識を取り戻せるのかどうか、これからの治療次第だろう。


奥の部屋、ジョセフィーヌ元側妃の部屋には鍵がかかっていた。

父上が鍵を壊して中に入ると、中の使用人も同じように倒れている。

その奥に、寝台の上に寝ている女性がいるのがわかった。

ジョセフィーヌ元側妃だろうか。


近づいて見ると、もう生きているようには見えなかった。

おそらくもうずっと前に亡くなっていたのを隠していたのだろう。


「…父上。」


「ジョセフィーヌ元側妃が亡くなれば、この者たちには行き場がない。

 エリザがいたとしても、この離宮は追い出されることになっていたと思う。

 だから使用人達が全員で隠していたのだろう。

 …エリザが消えたのも、これが理由かもしれないな。

 隠しきれなくなったから、エリザだけ連れて逃げたのだろう。」


「エリザは戻ってくると思いますか?」


「…あきらめることはないだろう。

 いずれ、お前の前にあらわれるはずだ。油断はするなよ。」


「はい。」






(リーンハルトside)


「ジョセ…。」


これで最後だというのに、顔を見ることすらできなかった。

エリザが消えた理由がわからない状況では、

護衛を連れて行ったとしても離宮に近付くことは許されなかった。

ジョセの遺体はそのまま離宮の裏に埋葬されることになった。

一度犯罪者となってしまえば、王族と同じ霊園に埋葬することはできない。

それに、最後の別れのためだけに王宮へ連れてくることなどできなかった。


この国の王としての最初の妃で、きっと俺個人としての最後の妻だった。

最初から側妃としていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。

俺の妃になどならなければ、もっと幸せな人生が待っていたのだろうか。


夫だった俺とはもう十年以上会っていない。

息子は辺境公爵家に養子に出され、それから会っていないはずだ。

話によると、エリザとすら会っていなかったと。


ジョセの人生はなんだったのだろう。

愛妾の娘として満足な教育も受けられずに育ち、貢物のように妃にされた。

俺の中ではあの二年間は宝物のような時間だった。

ただの男として、何も考えずにジョセとフレデリックと過ごした。

レオルドとリリーアンヌに多大な迷惑をかけて、それでも幸せな時間だった。


俺はそれを心の中にしまい込んで国王に戻った。

だけど、ジョセはあの日々がもう一度戻ってくることを望んでいたのだろう。


「…すまない…ジョセ。

 俺は…国王であることを選んでしまった。」


こんなに苦しくて、どうしようもないのに涙は出なかった。

もう俺個人としての心はどこかに置いてきてしまったのかもしれない。


キィと音がして、扉が開いた。

ノックもせずに入ってくるのは限られている。レオルドか宰相か。

振り向きもせずに放っておいたら、ソファに座る俺の隣に誰かが座った。


「…ミランダ?」


めったに執務室に来ないミランダだった。

俺の隣に座ったと思ったら、何も言わずこちらも見ない。

ただ横にいて、ふれている身体から体温だけが伝わってくる。


「…すまない。」


「いいえ。ここにいてもいいですか?」


「ああ。」







数日後、ジョセフィーヌ元側妃の病死が公表された。

あくまでも書類上で公表されただけの、ひっそりとしたものだった。

同時にエリザは精神的な疲れで療養すると学園に休学届けが出された。

その裏では、リオルに婚約を断られ暴走したことによって幽閉されていると噂された。

その噂も宰相が意図的に流したものであった。


エリザの居場所は手掛かりも無いまま、水面下で探され続けている。





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