75.目覚め
目を開けると寝かされていて、自分の部屋にいるようだった。
寝台の横にミーシャが座っているのを見て、何が起きたのか思い出した。
そうか。また俺はあいつの言動に我慢しきれずに暴走してしまったのか…。
ミーシャへと顔を向けると心配そうな顔で俺を見ている。
「また暴走したのか…俺。
すまない。ミーシャに助けてもらってばかりだな…。」
声をかけると、きゅっと手を強く握られた。
いつから手をつないでいてくれたんだろう。
視線を合わせると、泣いていたのかミーシャの目は赤かった。
起き上がってミーシャを抱き寄せるとサラサラの銀髪が指にからんでくる。
少し乱してしまった髪を指でとかしながら撫でると、俺の胸に頬をすり寄せてくれた。
「リオルが暴走する時は私が止めるって約束したでしょう。
我慢しなくていいわ。
あれは怒るのも無理ないから…。」
そう言われて思い出すと、また腹が立ってくる。
どうして一度もまともに会話していないのに、運命の相手だなんて言えるんだ。
最初から拒否されているのに、どうして自分を愛してくれていると思い込めるんだ。
どう考えてもエリザのことが理解できない。
「あれは…人の形をした化け物だな。
少しも話が通じない。
入学当初からずっとあんな感じだった。
ここ最近特にひどいけど、入学当初はミーシャがいないから…
ジーンとブランが盾になって逃がしてくれていたんだ。
ホント…一言も好意を示したことがないのに、
どうしてあんな誤解ができるのか理解できない。」
「…もしかして、同じように操られているのかしら。
この間の嫌がらせの令嬢たちのように…。
エリザが操っているのかと思ったけど、
もしエリザ自身が操られているのだとしたら?」
「魔術具か…その可能性もあるな。
父上に聞いてみよう。
それで、あの後はどうなったんだ?」
暴走して思いっきり魔力を解き放った記憶がある…
あんなのをぶつけられたら、間違いなく怪我くらいはしているよな。
「レイモンドに後をお願いしたから、私もわからないわ。
エリザと令息たちは王宮に連れて行かれて調べられていると思うけど。
あれだけ不敬な発言を公の場でしてしまったのだから。
一人ずつ幽閉部屋に入れられてるんじゃないかしら。
レオ義父様ならわかるんじゃない?
幽閉部屋に入れたなら申請が来ているはずでしょう?」
「あぁ、それもそうか。」
「あ、リリー義母様が心配してた。
異常を察知して公爵家から飛んできたらしいわ。
動いて大丈夫ならリビングに行きましょう?」
「ああ。わかった。」
リビングに顔を出すと、母上だけでなく父上もいた。
服が外出着なのを見ると、王宮から戻って来たばかりなのだろうか。
「あれ?父上もいるの?」
「やっと目覚めたか…リオルを迎えに来たんだよ。
すぐに動けそうか?」
「ああ、大丈夫だけど、迎えに来たってどうして。」
「エリザはお前のために行動したと言っている。
お前は一応王族だろう?お前の指示であれば不敬罪は難しい…って暴走するなよ。
そんな指示してないことはわかってるから。
だけど、調べる側としてはお前からも話を聞かないといけないだろう。
一緒に王宮に行って、兄貴と宰相と話すだけだ。」
「…わかった。」
あの時のことを話すのは苦痛ではある。気持ちを落ち着けて話せるだろうか。
だけど話さなければエリザの処罰が決められないのであれば仕方ない。
ミーシャを見るとうなずいてくれている。一緒に行ってくれるつもりなのだろう。
「待って。行く前に軽く食べていって。
お腹すいてたら、よけいに怒りやすくなっちゃうんだから。
ほら、座って。三人とも。」
そう言いながらスープを運んできた母上にすすめられ、三人でテーブルについた。
帰りがいつになるかわからないし、軽く食べておくのは必要かもしれない。
母上は軽くと言ったのに、どんどん出てくる料理に苦笑いしながら感謝して食べる。
暴走して倒れた俺や光の繭を発動して疲れているミーシャのために、いろいろと作ってくれたのだろう。
薄くスライスされたハムが重なったサンドイッチをかじりながら、
聞きたいことがあったのを思い出し父上に話しかけた。
「父上。幽閉部屋の申請って来た?」
「ん?ああ、来たよ。六人分。
エリザと令息五人。令息たちは話を聞いたら帰すけどね。
親に来てもらって説明した後で引き取ってもらうことになるはずだ。
エリザはそのまま幽閉するだろう。」
「そうか…幽閉中に魔術具で操られているか検査することって可能?」
「幽閉部屋に入れたままだと少し難しいな。
それに王宮内では魔術具の使用制限かかってるから、検査はできないよ。
一度制限を切ってから検査しなきゃ正確にはわからないけど、王宮内の制限を切る気はない。
そうするとエリザを違う場所に連れて行って検査しないといけないな。」
「そうか…制限が邪魔するのか。」
「…エリザが操られている可能性があるのか?
ジョセフィーヌ王女みたいに?」
「その可能性があるかなって。
この前の令嬢たちがそうだったように、
もしかしたらエリザ自身が操られてるんじゃないかって。
あまりにも話が通じないし、思い込みが激しすぎるから。」
「…そうか。その可能性があるのか。
王宮に行って、一度宰相と話してみるか…。」