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74.衝突

嫌がらせの犯人が捕まったことで落ち着くと思ったのもつかの間、すぐにまた嵐がやって来た。


「お父様に会わせてください!」


いつものように食堂で六人でいると、令息たちを引き連れたエリザがあらわれ、そう叫んだ。

もう泣いた後なのか赤い目をしてやつれた感じのエリザは、

周りの令息たちが支えてやっと立っているという状態だった。

食堂にいる他のものたちも何事が起きたのかと、こちらの様子をうかがっている。



「またお前か。

 王族に対して話しかけていい許可もらって無いだろう。

 あきらめて帰れよ。」


ジーンが呆れたように答えたが、エリザの目はレイモンドに向かっていた。

いつもならリオルに向かっているはずだが、

陛下に会いたいということはレイモンドに言うしかないと思ったのだろう。

エリザの陛下に会いたいという願いはもう一月以上待たされたままになっていた。



「王族とかそんなことはどうでもいのよ!

 どうして自分の親に会うのに、こんなに待たされなくてはいけないの!

 お母様が何かしたからって、私は関係ないじゃないの!」


ついにそんなことを発言したエリザに、周りの令息たちも驚いている。

血のつながりは確かにあるだろうが、

王族がどうでもいいという発言が許されるものではないとわかっているだろう。



「ジーン、ブラン、今すぐ衛兵に連絡しろ。

 この不敬なものを捕らえて、処罰するようにと。」


静かになった食堂の中、そう命じたのはリオルだった。

自分はもう王位継承権を放棄するが、

王になるレイモンドに命じさせるのはまずいと判断したからだった。

自分なら、どれだけ評判が落ちようとかまわない。


「リオル!どうして!?

 あなたがミーシャのわがままで結婚させられそうなのを助けようとしているのよ!

 お父様に話せば、王命を出して私との結婚を認めてくれるわ!

 あなたの運命の相手は私なんだから!」



何言ってんだこいつ、そう思ったジーンとブランの動きが一瞬遅れ、リオルの魔術を止められなかった。

何の前触れもなく凍った暴風が襲い掛かり、エリザと周りにいた令息が何人か吹き飛ばされ、

壁にぶつかって落ちた。

怒りのあまりリオルが制御しないで魔術をぶつけたのだ。

エリザたちは気を失ったのか床に倒れたまま動かない。

それでもリオルの感情は収まらず、吹き荒れ続けた風を止めたのはミーシャだった。


キラキラと光が降り注ぎ、リオルの周りを囲んだ。

糸をつむぐようにリオルを巻き込んで、繭のようにやわらかく包み込む。



「リオル、一度帰りましょう?

 レイモンド、後は頼んだわ。ジーンとブランも。

 レミリアは一緒に帰りましょう。」



そう言うと、リオルを抱きかかえるようにして転移して消えた。



「じゃあ、私も帰ります。」



続いてレミリアが転移して消えると、

食堂には頭を抱えたレイモンドとあっけに取られているジーンとブランが残されていた。



「衛兵、エリザと令息たちを拘束して王宮へ運べ。」


うなるようなレイモンドの指示に、慌てて駆け付けた衛兵たちが動いた。



「ジーン、ブラン、先に王宮へ行って父上と宰相に伝えて来てくれ。

 おそらく公爵へはレミリアが連絡に行ってるだろう。

 俺は馬車でこいつらを連れて王宮へ戻る。」










「まだ目を覚まさない?」


「ええ。リリー義母様、リオルの心はまだ傷ついたままなんですね。」


ミーシャは繭の中に入れたリオルを連れてマジックハウスへ転移した。

そこにはリリーアンヌが二人を待ち構えていた。

どうやらリオルの異常を察知したらしい。

すぐにリオルを寝かせて様子を見たのだが、目を覚ます気配がなかった。



「リオルは私たちと違って、傷ついた心を持ったまま生まれるまで二十年も待っていたの。

 私たちはすぐに転生して、シーナやシオン、レオルドと一緒にいられた。

 新しい人生に馴染んでいくのと同時に、少しずつ癒されていったのよ。


 リオルの心はまだ癒されていないの。

 けっして今が幸せじゃないというわけじゃないのよ。

 ただ、時間がかかるのは仕方ないことだから…。ごめんなさいね。」


「いえ、大丈夫です。

 どれだけ時間がかかってもいいんです。

 私がリオルの心を守っていきますから。」


「そうね。ミーシャちゃんなら大丈夫ね。」


そう言ってリリー義母様は部屋から出て行った。

おそらく夕食の支度を始めるのだろう。

エリザたちが連れて行かれた王宮は大変なことになっていると思うが、今はリオルのそばにいたかった。

目を覚ました時に、すぐ手を握って大丈夫だと言ってあげたかった。



リオルの心の傷にふれたのは出会って三年が過ぎたころだった。

多すぎる魔力をうまく制御できず、リオルが高熱を出して倒れた。

熱にうなされたのか、リオルが暴れて魔術を発動しようとした。

まずいと思って咄嗟に光の繭で包んでしまったが、

光の繭は本来は治癒魔術で、ケガか病気でなければ包みこまれることは無い。

リオルは病気ではないけれど高熱だったから、包まれたのはそのせいだろうと思った。

だけどリオルは高熱が下がっても、光の繭から出てこなかった。

治れば繭は割れて消えてしまうはずなのにと思ったが、光の繭は厚かった。

ケガも病気もしてないのにどうしてと思った時に、心の傷があることに気が付いてしまった。


光の繭が自然に終わるのを待つのは無理だと、途中で術を止めた。

その後にリオルから聞いた話は壮絶だった。


「何度も何度も…

 俺をかばおうとする母上の手を刺した刃が、俺にも突き刺さった。

 悲しそうな母上の叫びが聞こえるのに、何もできなかった。

 悔しくて悲しくて、怒りでおかしくなりそうだった。

 今でも思い出すだけで制御ができなくなるんだ…。

 頼む、ミーシャ。何かあったら俺を止めてくれ。お願いだ…。」


そう言って静かに泣き続けるリオルに誓った。

絶対にリオルが暴走した時には私が止めるからと。

リオルをこれ以上傷つける者から、この世界のどこへ行ってでも守ると決めた。




まだ苦しそうな寝息のリオルを見つめる。

それでも、もう少し眠ったら起きそうな顔色になって来た。

きゅっと手を握ると表情が和らいだ気がした。


「リオル…もう大丈夫よ。

 何があっても、私がそばにいるわ。」


声が届いたのか、リオルのまぶたが少し動いた。



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