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66.地位

「おかえりなさーい。」


宰相室から転移して帰ると、リリーが夕ご飯を作っている最中だった。

リオルはシオンが抱っこしてあやしていた。

俺が帰って来たのがわかると、リオルが手を伸ばしてくる。

シオンから受け取って抱っこすると、ご機嫌そうにきゃっきゃと笑う。


テーブルにグラタンを運びながらリリーが尋ねてくる。

手が空いたシオンもキッチンからスープを運んできている。

どうやらもうご飯は出来ていたけど、俺が帰ってくるのを待っていたようだ。




「突然王宮に行ったと思ったら一度戻ってくるし、

 シーナだけ連れて行くからどうしたのかと思ったけど、

 何かあったの?シーナは?」


「ああ。緊急過ぎて説明する時間が無かったんだ。心配させてごめん。

 兄貴の側妃候補だった令嬢がジョセフィーヌ王女に刺されたんだ。」


「えっ。」


「シーナが治療しているから命は助かるだろう。

 だけど、肩から背中にかけて大きな傷が出来てしまった。

 どうやったって傷が残るだろうな。

 シーナにはしばらく王宮に残って治療を続けてもらっている。」


「傷が残るなんて、そんな…じゃあ、その令嬢は側妃として?」


「ああ。おそらくそういうことになると思う。兄貴もそう言ってた。

 ミランダ王女も納得していたよ。

 ジョセフィーヌ王女はミランダ王女を切ろうとしていたらしい。

 それを令嬢がかばって切られたそうだ。

 自分をかばうような令嬢なら側妃として迎え入れたいって。

 兄貴が王妃以外に側妃も娶らなきゃいけないのも知っていたそうだ。」


「そう…レンフィールの王女だったわよね。

 つらいでしょうね…。」


「そうだな。だけど、それに関しては俺たちは何も言えない。

 それで、相談なんだけど。」


「相談?何?」



「…ご飯食べてからにしようか。」



何も知らずに腕の中で眠り始めたリオルを見て、お前はどう思う?って聞きたくなる。

リオル自身が精霊に望んで俺たちのもとへ来たとしても、おそらく前世の記憶は無いだろう。

俺たちのように想いに引きずられたりしないのなら、そのほうがいい。

それでも貴族として生まれて来たからには、どうしたって制限がかかってしまう。

魔術師になるなら、貴族をやめてもいいんだけどな。


それもリオルが大きくなってから決めることか。

俺もいつ貴族をやめてもいいと思っていたけど、兄貴たちを見捨てるのも難しかった。

リリーを失うようだったら間違いなく逃げるとは思う。

ただ今のように隠れていられるなら、貴族でいることに何の問題も無かった。


…リオルが王位継承権を持っても、ここに隠れている間は大丈夫だろう。

ミランダ王女が王妃になって王子を産むまでの間。

だけど、もし王妃が子を産めなかったら。


いや、今考えても無駄だな。





「それで、相談って?」


食事が終わり、お茶をいれてからソファに座る。

シオンは部屋に戻ってしまった。相談を聞かない方が良いと思ったんだろう。

俺としては別にいてくれても構わなかったんだけど。



「ジョセフィーヌ王女があんなことをしてしまったからには、

 処罰しないわけにはいかない。

 だけど、どこまで公表できるかわからない。

 第一王子のフレデリックがいるからだ。

 今、王位継承権を持っているのはフレデリック王子とエリザ王女だけだ。

 公爵家をたどれば王家の血筋がいないわけじゃないが、それは最終手段でしかない。

 フレデリック王子とエリザ王女を廃嫡すると、王位継承権を持つ者がいなくなる。

 それは議会が許さないだろう。」


「そうね…もし今すぐ陛下に何かあったら、

 フレデリック王子を国王にするしかないものね。

 だけど、ジョセフィーヌ王女がそんな状態じゃ誰が後見できるのか…。」


「そうなんだ。ジョセフィーヌ王女では無理だし、

 今回のこともジョセフィーヌ王女をそそのかして襲撃させた黒幕がいる。

 おそらく旧リハエレール国の貴族だったものたちだ。

 どうやらロードンナ国の者と手を組んでいるらしい。

 ミランダ王女が王妃となって子を産む前に何とかしたかったのだろう。」


「まだ狙われるかしら、ミランダ王女。」


「今のままならな。」


「…それを相談したかったの?リオルね?」


ここまで話せば気が付いただろう。

すやすやと寝ているリオルを見ると、夢でも見ているのか少し笑っている。


「リオルに王位継承権を持たせてもいいか?」


「…王妃に子が産まれるまで?」


「ああ。できれば二人産まれるまで。

 リオルがいる限り王妃だけが狙われることは無いだろう。

 宰相と話してきて、それが一番いいんじゃないかと思う。」


「それまでは隠れて住むってことよね?」


「もちろん。今まで通り。」


「んんー。…仕方ないかぁ。

 ねぇ、リオル。ちょっとだけ偉くなるけど、ごめんね?」


「物心つく頃には元に戻ってるよ、きっと。」



俺もリリーも、こんなことは望んじゃいない。

だけど少しの間、名前を貸しておくくらいはしても良いと思う。


「よし、明日シーナの様子を見に行くついでに、兄貴と話してくるよ。

 早めに言っておいた方がジョセフィーヌ王女の処罰を決めやすくなるだろうから。」


「わかったわ。」





数日後、レフィーロ国第一王子フレデリックと第一王女エリザの廃嫡が決まった。

フレデリックは伯父である辺境公爵家当主に引き取られ、エリザは離宮に残された。

ジョセフィーヌ側妃がミランダ王女を襲ったことは公表され、

ジョセフィーヌ側妃は側妃から外され、身分を失った上で離宮に生涯幽閉とされた。

行き場の無いエリザはそのままジョセフィーヌと離宮で暮らすことになる。

せめて娘だけは一緒に暮らせるようにとの配慮だったが、

この決定が後に後悔につながることになる。



レフィーロ国の者たちは王宮で起こった事件に眉をひそめたが、

同時に発表されたことへの喜びで事件を忘れていく。


誰よりも国王へと熱望されたレオルド王弟殿下とリリーアンヌ妃の息子、

リオル王子が王位継承権を持つことが発表されたからだった。

レオルドとリリーアンヌも一時的に王族に戻ることになり、王弟と公爵を兼ねることになった。


大騒ぎで喜ぶ民衆の前にレオルドたちが姿を現すことはなかったが、

民衆からの支持が変わることは無かった。







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