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64.凶行

いつもなら静かな王宮内を、慌ただしく衛兵たちが行ったり来たりしている。

医術室に運び込まれたアンジェラの肩は、ざっくりと切られていて意識が無かった。

付き添うと言い出したミランダに私室に戻るよう命じ、公爵家に連絡を飛ばした。


「俺のせいか…。」


「今はそんなこと言ってる場合じゃないです。

 医術士じゃ間に合わないかもしれません。万が一のことも覚悟して下さい。」


「…ああ。」


ジョセフィーヌがアンジェラを刺した。

王妃になるミランダと側妃候補のアンジェラが、

王宮内でお茶していることをどこからか聞いたのだろう。

離宮から抜け出し、中庭にいる二人のもとへ短剣を持って行ったらしい。


二人とも銀髪だから、どちらがミランダかわからなかったのだろう。

どちらが王女か、そう尋ねたらしい。

とっさにアンジェラがミランダをかばい、

ジョセフィーヌの短剣がアンジェラの肩から背中にかけて切り裂いた。


近くにいた侍女の悲鳴を聞きつけ衛兵たちが駆け付けたが、

ジョセフィーヌは側妃であり、

衛兵たちが命令なしに取り押さえられるものではない。

その場にいたミランダは王妃になる予定ではあっても、今は他国の王女にすぎない。

自国の貴族であるアンジェラは意識を失っている。

そのため衛兵が一度指示を仰ぎに執務室に戻り、

宰相から指示を受けるという無駄な時間が必要になってしまった。

その間もアンジェラから血が流れ、医術室に運ばれた際には重体の状況だった。


アンジェラを刺した後のジョセフィーヌは呆然としていて、一人で歩ける状態ではなかった。

女官たちに担がれるように運ばれ、近くの宮の幽閉部屋の中に入れられた。

幽閉者をジョセフィーヌに設定して許可を求める。

すぐにレオルドに申請が届いているはずだ。

…来てくれないだろうか、レオルド、頼む。

祈るような気持ちで幽閉部屋の前で許可を待った。



「兄貴!幽閉部屋の申請がジョセフィーヌ王女ってどういうことだ!?」


転移してきたレオルドを見て、思わず気が緩みそうになる。

レオルドの両肩に手を置いて、すがるように叫んだ。


「…ジョセフィーヌがアンジェラ嬢を刺した!血が…大量に流れてしまって重体だ。

 何とか助けられないだろうか!」


「…事情は後で聞く。ちょっと待って。連れてくる。」


それだけ言うとレオルドの姿が消え、一分もしないうちにまた転移して現れる。

その隣には見覚えのある女性を連れていた。


「シーナ嬢!良かった!あなたが来てくれたなら助かる!

 レオルド様、シーナ嬢をお借りしていいですか!」


連れていた女性を知っているらしい宰相が叫んで、レオルドに許可を願った。

この女性は医術士なのか。


「ああ。シーナ、宰相について行ってくれ。頼んだ。」


「了解です~。」


バタバタと宰相と女性が医術室に向かっていくのを見て、少しだけ期待する気持ちが芽生えた。

…助かるだろうか。運び出された時の血まみれの身体が目に焼き付いて離れない。

あんなに血が流れて…頼む、どうか助かってくれ。



「それで、何があった。

 ジョセフィーヌ王女の幽閉は許可したから、執務室に行こう。

 廊下で話すのはまずいだろう?」


「ああ。」


一瞬のうちに景色が変わったと思ったら目の前が見慣れた机で、

レオルドと一緒に執務室に転移したのがわかった。

こんなに簡単に移動できるのか…。


「それで、何があった?」


「ああ。ミランダがハンネル公爵家のアンジェラ嬢とお茶をしていた。

 中庭の東屋だ。学園の同級生で仲が良いらしい。

 ミランダが王宮内に人を呼んでお茶をするのは初めてのことだった。

 一度くらいは良いかと思って許可を出したのだが、

 アンジェラ嬢は側妃候補だし次からは人目を気にした方がいいと注意したんだ。

 二人でお茶をしていたら噂になるだろうと思ったから…。

 まさかジョセフィーヌが聞きつけて短剣を持ち出すとは思わなかった。

 …ミランダを刺そうとしたらしい。

 それをアンジェラ嬢がかばって、肩から背中にかけてザックリ切られている。

 その場に衛兵へ指示できる立場の者がいなかったから、

 衛兵は指示を聞きに執務室まで来て、それからアンジェラ嬢を医術室に運んだ。

 治療までに時間がかかってしまった分、流れた血の量が多くて。

 助かるかどうかわからない。」


こんなことになるとは思いもしなかった。

ジョセがそこまで思い詰めていたなんて。

ずっと離宮に閉じこもっているのは心配していた。

だけど仕事が忙しくて、最近は訪ねていくことすらしていなかった。


「そうか。さっき連れてきたのはシーナだ。

 リリーアンヌの侍女で魔術師だが医術に詳しい。

 王宮の医術士よりも腕はいい。シーナなら助けられると思って連れてきた。」


「ああ。リリーアンヌの侍女か。そういえばいたな。

 侯爵家のときからいる、とても優秀だという侍女だな。」


「リリーとは姉妹のように育っているし、信用もあるからな。

 それで、助かると思って次の手を考えたほうが良いと思う。

 公爵家には連絡したのだろう?公爵と話す前に考えておいた方が良い。」


「…それはわかってる。助かったら、側妃にするしかないな。

 あれほどの傷を負ってしまったら他に嫁げないだろう。

 俺が許可した王宮内での事件で、切りつけたのはジョセだ。

 責任を取れるのは俺だけだろう…。」


「そこまでわかってるならいい。…ミランダ王女は大丈夫そうか?」


「かなり取り乱していたよ。自分をかばって友人が刺されたんだ。

 取り乱さない方がおかしいだろう…ミランダが王女だとしても、まだ十八歳の令嬢なんだ。」


「だが、すぐに王妃になる令嬢だ。

 …側妃を娶ることに反対しそうか?」


「多分しない。王女として生まれ育っている。

 側妃の重要性はよくわかっていると思う。

 嫌だと思っていたとしても、表向きは反対しないはずだ。」



「…そうか。少しミランダ王女と話してきても良いか?

 兄貴はこの後ハンネル公爵と話さなければいけないだろう?」


「…ああ、ミランダが落ち着いていたら話してやってくれ。」



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