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63.王宮にて(リーンハルト)

「お茶会?」


「ええ。ハンネル公爵家のアンジェラ様と。」


「それはかまわないけど、アンジェラ嬢は一応側妃候補だって知ってる?」


王宮の中庭でお茶会をしたいとミランダにお願いされて、断るつもりは無かったが相手が気になった。

ハンネル公爵家のアンジェラは側妃候補の一人だ。

ミランダとは学園での友人だというのは報告されていたが、

王宮に呼ぶほど仲が良いとは知らなかった。

他の側妃候補ジェンガル公爵家のリランダは侯爵家の嫡男との婚約が決まり、側妃候補を降りている。

もう一人の側妃候補、ニジェール公爵家のジェニファーはまだ13歳ということもあり、

アンジェラが側妃候補の最有力なのは間違いなかった。


「知ってますわ。アンジェラ様にその気はないようでしたけど、

 本人の気持ちなど大した問題ではないでしょうね。

 それは議会が決めることでしょうし。

 アンジェラ様は陛下に許可をいただきたいことがあるそうですわ。

 陛下に直接お会いするのは難しいでしょうし、夜会で話せる内容でも無かったので、

 私とのお茶会の時に少し話すくらいならかまわないかと思いまして。」


「許可?…ミランダはアンジェラ嬢のお願いをかなえてほしいってことかな?」


「かなえるかどうかは陛下がお決めになることですが、

 話を聞くくらいなら良いのでは?」


「まぁ、いいよ。わかった。

 ずっとは無理だけど、お茶会の途中で顔出すから。」


「ありがとうございます。」



少し雲った空の下、中庭の東屋にお茶の用意がしてあった。

宰相に話して少しだけ仕事を抜けて顔を出すと、ミランダがアンジェラ嬢と楽しそうに話している。

学園での友人とは聞いていたが、本当に仲が良いらしい。

近付いた私に気が付いて二人が席を立つ。

淑女らしく礼をして待つ姿は二人とも文句のつけようがない。

王女と公爵家の令嬢、育ちや教養というものは何気ない時にわかるものだと思う。

ジョセフィーヌには最後まで身に付かなかったな…。


「顔をあげて楽にして。お茶の途中で邪魔して悪いね。」


声をかけて席に着くと、二人も席に着いた。

アンジェラ嬢の緩く巻いた銀髪がふわっとゆれる。

緑色の目が少しつりあがっているが、きつく見えないのは話し方がおっとりしているからだろう。


「夜会以外で話すのは初めてだね、アンジェラ嬢。

 ミランダと仲が良いようでうれしいよ。留学して編入だからね。

 苦労していると思うから助けてくれるものがいると心強いだろう。」


「いいえ。ミランダ様には助けなど必要なさそうですわ。

 むしろ私の方が助けていただいていますもの。」


「そうか。で、お願いがあるって聞いたけど?」


仕事を抜け出してきたのだから長居するわけにはいかない。

それに長居すれば、それなりに揉め事にもつながる。

話を聞いたらすぐに戻ろう。


「王宮内の魔術具を研究したいので、見て回っても良いでしょうか?」


「ん?」


「私、魔術具の研究が趣味ですの。

 王宮内にはたくさんの魔術具が設置してあると聞きまして。

 その魔術具たちを直接見て術式を研究してみたいのですわ。」


うっとりするように目を輝かせて話すアンジェラ嬢にあっけに取られていると、

ミランダが呆れたように説明してくれる。



「アンジェラ様は魔術具や魔術にしか興味が無いのです。

 ご自分が側妃候補だということもわかってはいるのでしょうけど、

 それよりもレンメール国の魔術について知りたかったようで、

 私に声をかけてこられたのですわ。」


「魔術具の研究…ねぇ。なるほど。」


「見て回るだけですので、許可いただけませんか?」


それはかまわないのだけど、どうしようかな…。

他意はなさそうだけど、きちんと説明して釘を刺しておいたほうがいいかな。


「アンジェラ嬢、まず言っておきたいのは、見て回っても無駄だよ。」


「え?」


「王宮内の魔術具は見えないように設置されている。

 もし設置されている魔術具を発見できたとしても、

 中の術式は見えないように隠す術式が施されている。

 しかも、作動するには権限を持った者の許可が必要だ。

 おそらく見学したいという理由で許可は下りないだろう。」


「術式が隠されているのですか?」


「そうだ。悪用されないように、すべて隠してあるし譲渡することも無い。」


「陛下、今、許可が下りないだろうとおっしゃいました?

 権限は陛下にないということですか?」


初耳だったようでミランダも首をかしげて質問してきた。

そういえばミランダも知らないのか。


「王宮内の魔術具はほとんどがレオルドの作ったものだ。

 一部リリーアンヌの物もあるがな。

 作動する際にはレオルドに連絡が行く。

 その上でレオルドが許可しなければ作動しないようになっている。

 勝手に動かそうとした研究者がいたそうだが、動かなかったと報告されている。」


「王弟殿下が作られているのですか?」


「今はギルギア公爵だがな。そうだよ。」


「どうして術式を公表したり、陛下に権限を渡さないのでしょうか?」


「悪用されないため、だそうだ。それと俺は権限はいらないと断った。

 レオルドが判断してくれた方が助かるしな。

 王族に権限を持たせると、将来愚王が誕生した時に取り返しがつかなくなる。

 レオルドは自分が死んだら動かないものしか作らないと言っていた。

 俺もそれでいいと思っている。」


「…そんな。せっかくの魔術具が。後世に残すべきです!」


「どうして?」


「え?だって、素晴らしい魔術具ですよ?それが無くなってしまうだなんて…。」


「じゃあ、アンジェラ嬢は自分の意思とは無関係に拘束されて力を奪われ、

 幽閉されることになったらどうする?」


「…助けを求めます。」


「誰に?」


「え?…お父様でしょうか?」


「うん、でも公爵家の令嬢の一人くらい幽閉しても、

 それが俺だったら咎められないよね?」


「…それは、そうかもしれません。」


「公爵家の令嬢ですらそうだ。じゃあ、平民をさらってきたらどうなる?」


「…誰も問題にしないと思います。」


「そうだろう。

 王宮内にある魔術具っていうのは、そういう危険のあるものばかりだ。

 俺が自由に使えるようになったら誰も止められない。

 だけど、レオルドが許可しなければ使えないものなら、俺を止めることができる。

 そのかわり王宮にいないレオルドは使う意味がない。これなら安心だろう?

 どこにいるかわからないレオルドを脅して奪おうとするものもいないだろうし。

 術式がわからなければ複製することもできないだろう?」


「…。」


「アンジェラ様の負けですわね~。

 ここまで危機管理されていれば無理ですわね。

 あきらめて楽しくお茶いたしましょう?」


「はい…。」


うなだれてお茶を飲むアンジェラ嬢に少しだけ可哀そうな気もするが、

それでも無理なものは無理だ。

これはレオルドが魔術具を作りだした時の誓約でもある。

絶対に後世に残したりしない、悪用される可能性があるなら残さないと。

便利な魔術具ではあるが、同時に恐ろしいものであるのはよくわかっている。

俺としても他の者が使うことがあればこれほど恐ろしいものはない。

レオルドだから信用して任せているのだ。


「あと、アンジェラ嬢が王宮に来たりミランダと仲良くしていると、

 他の者はアンジェラ嬢が側妃になりたがっていると誤解するだろう。

 二人とも自分の行動がどう見られているか考えるのも大事だよ?」


「え。…そうですわね。申し訳ありませんでした。」


「私がミランダ様にお願いしたばかりに…申し訳ありません。」


「うん、今回はいいよ。次から気を付けて。

 それじゃ、俺は仕事に戻るから。」


反省したらしい二人を置いて、執務室に戻る。

宰相は休憩も入れずに書類と格闘していたようだ。

申し訳ないので、少し休んできてもらうことにした。


一人でいる執務室にも慣れてきた気がする。

書類も減って来たし、ミランダが王妃になってくれれば全て解決するだろう。

ミランダの学園卒業まであと二か月になって、結婚式の準備も整いつつあった。


そんな安心から油断していたのかもしれない。



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