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62.願い事は

「リリー。今度はちゃんと俺が、俺たちが守る。

 そのために一緒に生まれ変わって来たんだ。

 子どものことは悲しいよ。

 だからきっと子を作ることから逃げてきたんだと思う。

 子が出来たら思い出してしまうから。」


「はい、そこでストップ~。」


今まで話を聞きながら焼き菓子をもしゃもしゃ食べていた魔女が、

いい笑顔で会話を止めた。


「ねぇ、レオ、シオン、シーナ。

 転生の術を使ったときに、願ったことは何?」


「願ったこと?四人で同じ時期に近くの場所で生まれ変わる。」


「それ、正確?きちんと文言覚えている?」


「えーっと、この陣に入っている者を全員同じ時期に近くの場所で転生させよ。

 でしたよね~?」


「あぁ、シーナが言ってるのが正しい。」


魔女が全員の顔を見渡して、にっこり笑った。


「正解。さて、その陣の中にいたのは何人?」


「は?」


全員が全員の顔を見渡して、数え始めた。


「エミリ、バル、レン、ララ…だよな。」


「え…うそっ。」


私は気が付いてしまった。うそ、そんなことあるの?


「リリー?何か気が付いたの?」


「だって…うそ。本当に?ねぇ、本当?あの子もいるの?」


「あの子って、子どもか!」


「ふふふ~正解です!あの時エミリの中にいた子も一緒に転生しているわ。」


「どこにいるの!」


「どうやらその子は精霊に好かれている子だったようだね。

 生まれ変わる時に一人だけ別な願いをしたようだよ。

 生まれ変わるなら、また同じ両親から生まれたいと。」


「え?」


「リリー、もしかして、今?」


「いるの?ここに?あの子がいる?」


そういえば王宮を出てから避妊魔術をかけてなかった。

妊娠していてもおかしくない。そっとお腹に手をあてる。

あの時のエミリとバルの子の魂がここにいる?

今度こそ、ちゃんと産んであげられる?

手の上に手が乗せられた。レオの大きな手がそっと私の手に重なる。

私の手ごとお腹を包みこむように、そっと。


「今度こそ、守る。守ってみせるから…。」


そうつぶやいたレオの声は間違いなく涙声で。

それを聞いてる私の視界も、もう潤んで何も見えなくなった。




「記憶の封印を解いたのはその子よ。

 思い出してほしかったんでしょうね。

 とても強い魔力を感じるわ。いい魔術師になりそう。ふふっ。

 産まれてくるのが楽しみね~。」


「わ、私、産婆の勉強してきます!」


「お、ちょっとまてシーナ。気が早い。

 その前に姫さんの体調を元に戻すのが先だ!」


「良いおじさんとおばさん付きで、良かったわね~。」










「産まれたんですか!」


「ああ、男の子だそうだ。

 元気な黒髪で緑目の。リオルと名付けたそうだよ。」


久しぶりのレオルドからの手紙は、

リリーアンヌが男の子を無事に出産したという報告だった。

二人は未だに公爵領に戻っておらず、こうして時折報告の手紙をくれる。

問題があれば王宮へ来るつもりなのだろうけど、ここしばらくは問題も無かった。

議会とは度々揉めてはいるが、宰相と二人でなんとか抑えられていた。

あと半年もすればミランダ王女を王妃として迎えることになるし、

それによって側妃問題も一時棚上げとされていた。


「レオルド様は公爵領に戻られるのでしょうか?」


「わからないな。王政が安定したら戻るって言ってたんだろう?」


俺はその場にいなかったけど、謁見室で貴族たちにそう言って出ていったと聞いた。

それが本当なら、そろそろ戻って来ても大丈夫だと思うが…。


「…もしかしたら、リオル様が産まれたことによって、

 しばらくは出て来られないかもしれません。」


「どうしてだ?」


「レオルド様は王家の血を引いていませんが、

 リリーアンヌ様のお祖母様は王妹です。

 つまり、リオル様は王家の血を引いているんです。」


…忘れてた。

レオルドがあれだけ国王にと望まれたのに固辞していた理由の一つが、

レオルドには一滴も王家の血が流れていないことだった。

それには貴族たちも文句のつけようがなかった。

さすがに王家の血筋でないものに国王になれとは言えない。

だけど、レオルドの子が王家の血を引いているなら、また騒ぎだすものがいる。

リオルを国王にして、レオルドが後見になればいいと。


「しまったな…リリーアンヌが王家の血筋だったのは忘れてた。

 リリーアンヌ自身は公爵家の色だし。」


「リリーアンヌ様は公爵家の色でも、

 妹のアンジェリーナ様は王家の色でしたでしょう。

 かなり王家の血が濃く出ている家系なはずです。

 そもそも公爵家には何代も降嫁しているのですから。」


「そうだよなぁ。

 そうか…産まれたことは公表しないでおいた方が良さそうだな。」


「ですね。下手したらエリザ王女との婚約とか言い出すものが出ますよ。」


「あぁ、それは絶対に避けたいな。」


ジョセフィーヌが半年前に産んだのは王女だった。

第一王子フレデリックに続く第一王女エリザだが、立場は微妙なものだ。

王妃から側妃に落とされたジョセフィーヌは俺と会おうとはせず、

そのまま離宮に移ってしまった。

フレデリックは王宮から出ることは許されないため、

乳母や女官たちが面倒を見ている。

離宮に移ってから産んだエリザに関しては、王女だったこともあり、

ジョセフィーヌのいる離宮で育てさせている。

今のジョセフィーヌからエリザを引き離すのは無理だと判断したせいでもある。

第一王子のフレデリックにしても、ミランダ王女が王妃となり子を産んでしまえば、

王位継承順位は王妃の子の方が上だ。

たとえミランダ王女が産んだのは王女であっても、その王女が第一位となる。

王子を生むことがあれば間違いなく王妃の子が次の王太子になる。


ジョセフィーヌ側妃はもちろん、フレデリック王子、エリザ王女の立場は、

今後の王妃と王妃の子によって左右される、不安定な位置にあった。

もしリオルと婚約できれば、レオルドが後見だとみなされる。

エリザ王女との婚約を望むのはあり得る話だった。



「レオルドとリリーアンヌに関する話は一切非公表で。

 本人たちが表舞台に戻ってきたときに、自分たちで公表すればいい。

 レオルドにもそう伝えよう。いいな?」


「はい。それが一番いいと思います。」














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