61.それから
「レオ、私が死んだ後、何があったの?」
「あの時、俺たちはあの領主の娘の後をつけて、
エミリが監禁されている場所を見つけた。
何とか結界を壊して中に入ろうとしたのに、どうしても壊せなくて。
そうこうしているうちに結界が消えて、
中に入ったらエミリが血だらけで倒れていた。
もう何もできない状態だった。
会話もできず手を握りしめたけど、エミリは力尽きていた。」
ああ、だから結界が消えた時に三人が飛び込んできたんだ。
すぐに意識が無くなって、そのまま死んだのは予想していた。
「俺たちは復讐することも考えたけど、それよりもエミリにもう一度会いたかった。
もう一度会って、今度こそは守り抜くって決めた。
エミリを精霊の森の泉まで運んで、転生の魔術をしたんだ。
俺とレンとララの命を使って。」
「えっ。」
「俺たちはエミリを失ってまで生きる気はなかった。
そのくらいなら、命を使って四人で生まれ変わる方を選んだんだ。
精霊たちの力も借りて、同じ時期、
近い場所に生まれ変われるようにと願った。」
「四人で生まれ変わる…同じ時期に。」
レオの言葉を受けて、シオンが自分のことを話し始める。
そういえば、二人のことを聞くのは初めてだった。
「俺とララは双子として近くの街に産まれた。で、すぐに捨てられたんだ。
でも俺たちは最初から記憶があったから、
精霊に頼んで五歳程度の大きさまで成長させてもらって、
すぐにエミリを探しに出たんだ。
見つけた姫さんは侯爵家ではあまり大事にされていなかった。
だからすぐに侍女と侍従として入り込んで、一緒に暮らすことにした。
侯爵家の人間はあまり関わってこないから、記憶操作するのは簡単だったしな。」
「そうそう。侯爵家に入り込んだあとで妹が産まれると、
もうこちらには一切関与してきませんでしたしね。
姫さまのお世話がしやすくて良かったとも思いますけど。」
「そんなに早くから一緒にいてくれたのね。
たしかにずっと両親から放置されてたから、
使用人達もあまり側にいなかったものね。
アンジェリーナが産まれてからは尚更。いないものだと思われてたし。
二人がいなかったらどうなってたかわからないわね。
シオン、シーナ、一緒にいてくれてありがとう。」
「ふふっ。いいんですよ。ララの時はエミリに拾ってもらいましたからね。
少しだけ恩返ししただけです。」
「まぁ、俺たちもこっちでの親には捨てられてたわけだから、
姫さんのとこに転がり込んでただけだしな。」
知らない間に守られていたことを知って、泣きそうになる。
侯爵家で一人だったことはあまり記憶にない。
多分、そのくらい小さい時から二人が守ってくれていたから。
一緒にいるのが当たり前だなんて思ってたくらい一緒にいてくれた。
「レオも最初から記憶あったの?」
もしかして、十歳で森で会ったときにはもう記憶があったってこと?
「俺の記憶が最初に戻ったのは、母親が死んだときだ。
死んだ母親に泣いてすがっている父親を見て思い出した。
俺も誰かの死で泣いてすがっていたって…。
その時はまだエミリを思い出したわけじゃなかった。
だけど、強烈に誰かを求める気持ちと、強くならなきゃって気持ちがあって。
魔術師になって、ずっといろんなところへ探しに行った。
誰を求めているのかわからなくて、でも、探さなきゃいけないって思ってた。
リリーに会えて、その気持ちが落ち着いたけど、
まだリリーがその人だとはわかってなくて。
少しずつ思い出せたのは、リリーに告白する手前くらい。
リリーと結婚したいって思った時に、エミリと結婚していたことを思いだした。
全部を思い出したのは、王宮を出てリリーとここで暮らすようになってから。
離れていたのがつらくて、ようやくリリーに会えたと思ったら、
ぶわっと記憶が流れ込んできた。
それで、前世あんな風にエミリを失ったことを知ったんだ。」
王宮から出て、私の所へ戻って来た日。
思い出した。泣きながら私を抱いていた日。だからだったんだ…。
あの後からずっと私を離さないとは思ってたけど、
私がレオから離れたせいだと思っていた。
ずっと前世の記憶を抱えて苦しんでいたんだ…。
「…思い出さなくてごめんなさい。
レオが苦しんでいたのに気が付かなくて…。」
「いや、それはいいんだ。俺たちは無理に思い出させる気は無かった。
あんなにつらい思いをさせたのはバルのせいだし、
俺たちはエミリを助けられなかった。
記憶の中だとしても、もう一度苦しい思いをさせたくなかった。
悪夢のことが無かったら、そのまま思い出させずにいたと思う。
苦しかっただろう?痛かっただろう?助けられなくてごめん…。」
「ううん…私もバルを、レンとララを苦しめてしまってごめんなさい。
自分の身も子どもの身も何一つ守れなかった。
無力な自分が苦しかったの。
リリーになってから魔術を学ぼうと思ったのはきっとそのせいね。
今度こそ大事なものを守れるようになりたかったんだわ。」
そっと手をお腹にあててしまう。大事な大事な、バルとの子を守れなかった。
必死にかばったけど、何の抵抗もできずに殺されてしまった。
あの時、エミリは生きることをあきらめてしまっていた。
子を守れなかったから、せめて一緒に死んであげようと思っていた。
「リリー。今度はちゃんと俺が、俺たちが守る。
そのために一緒に生まれ変わって来たんだ。
子どものことは悲しいよ。
だからきっと子を作ることから逃げてきたんだと思う。
子が出来たら思い出してしまうから。」