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60.今の幸せ

目を開けたら、レオに抱きしめられていた。

静かに、静かにレオが泣いてる。


私も同じようにレオを抱きしめ返して、ただ泣いていた。


どのくらい時間が過ぎたのかわからないけど、

泣きつかれて寝てしまっていたようだ。

それでもまだレオの腕の中に閉じ込められていた。


久しぶりに夢も見ずに深く眠ったと思う。

悪夢を見続けていたからか、精神力だけでなく体力も削られていたようだ。

しっかり眠ったからか、少しだけ元気が出た気がする。


前世の記憶が衝撃過ぎて、まだ情報が整理しきれていない。

あれが私に起きていたことなんだと、受け止め切れていなかった。

ただ思い返せば納得することが山ほどあった。


物心つかない時から私の面倒はシーナとシオンが見てくれていたけど、

どうして同じ年齢のシーナとシオンにそれができたのか。


私の貴族嫌いはどうしてなのか。


早く魔術師になって誰かを守りたいと思っていた、誰かとは。


私が連れ去られた時にあんなに三人に怒られた理由。


魔術封じの首輪をつけられそうになった時のあの絶望感。


みんな、みんな、前世の記憶に繋がっていたんだ。


「リリー落ち着いてきた?」


頭の上からレオの声が降ってくる。

もしかしたらレオはずっと起きていたのかもしれない。


「うん、眠ったら落ち着いてきた。寝不足で疲れてたのもあったみたい。」


「そうか、シーナとシオンは下で魔女と待ってるって言ってたよ。

 落ち着いたらお茶を飲もうって。」


「うん、大丈夫。レオは?」


「…ごめん、もう少しだけ待って。

 ここにリリーがいるって、わかっているんだけど、怖くて。

 俺がエミリを早く助け出せなかったから、

 ようやく見つけた時にはもう話も出来なくて。

 監禁されていた間のことも、どうやって殺されたのかもわかっていなくて。

 さっきそれを知って、苦しいんだ…。ごめん、守れなくてごめん。

 俺のせいで、巻き込まれて殺されたんだ…。」


あぁ、そうか。

私から見た前世の記憶だったから、バルが知らなったことも見えたのね。

私が刺されて殺された場面を初めて見て、もしかしたら私よりもつらいんじゃ…。



「レオ、大丈夫。リリーは弱くないわ。

 それに今は魔女じゃない。

 同じ魔術師で、ちゃんと攻撃魔術だって使えるんだから。

 もう二度と負けないわ。」


「うん…。」


「レオ、私はリリーよ。エミリじゃないわ。

 でも、そういうわけにはいかないのよね。

 私もレオとバル、どちらも愛してるもの。

 不思議な感じね?」


「複雑な気持ちだな…俺もリリーとエミリを愛しているけど、

 なんでだろう。面白くないな。」


「ふふっ。私も同じ気持ちなんだと思うわ。」


話をしているうちに気持ちが浮上したのか、

ようやく顔を見せてくれたレオに近付いてキスをする。

あぁ会いたかった。

最後に会えて本当に嬉しかったけど、でももっとずっと一緒にいたかった。

この手をこの声をこの熱を誰にも渡したくない。

私だけのレオだって、何もかもを独り占めしたい。


「もう離れない、ね。」


「ああ。」







それからもう少しだけ抱き合って、ようやくレオが落ち着いたので、

一階にいるみんなの所へ顔を出した。

暇していた魔女がシーナと一緒にパンケーキを焼いていた。

朝ごはん兼昼ご飯にするつもりらしい。


言いたいことはたくさんあったけど、すぐに言い出すのはためらわれた。

感情の渦に巻き込まれそうで、言葉を紡ぎだすことができなかった。

焼きたてのパンケーキにシロップをたっぷりとかけ、少しずつ口にする。

空腹だったのを思い出したように身体が糖分を求めていた。

みんなが黙々とパンケーキを食べるテーブルは少し異様な雰囲気ではあったが、

不思議と居心地は悪くなかった。


「お腹いっぱいになったし、そろそろ良いかい?」


「ええ。大丈夫よ。」


「もうわかっていると思うが、あれがリリーたちの前世で起きたことだ。

 おそらく傷ついてしまった魂が前世の記憶を封じたのだろう。

 だけど、仮の魔女になったり、

 レオと離れてしまったことで少しずつ綻んでいった。

 その綻びから漏れ出た記憶が悪夢になってしまったのだろう。

 はっきりと思い出した今なら悪夢を見ることは無いと思うよ。」


「そうなんだ…。悪夢を見る理由がわからなくて怖かった。

 でも、本当は実際にあったことを思い出すのが怖かったのね。

 レン、ララ、なのね?」


いつも通りの表情だけど、少しだけ心配そうにしているシオンとシーナを見る。


「そうだよ、エミリ。久しぶり。

 思い出さなくても良かったけど、

 やっぱりレンを思い出してもらえるのはうれしい。」


少しだけ口調がいつもと違うのは、レンとして話しているのだろうか。

怒りっぽくてやんちゃで、それでいてお節介なところもあって。

レンとシオンの印象は重ならないようで、やっぱり一緒だと思う。


「思い出したことが辛くてまた魔女になってしまうくらいなら、

 私たちのことは忘れたままでもいいと思ってた。

 エミリと過ごした思い出は大事だけど、姫さまが壊れたら嫌だから。」


私の作るご飯が大好きで、

甘いものをあげるとゴロゴロのどをならして喜んでたララ。

こうしてみるとララとシーナはあまり変わってない。

どうして思い出さなかったんだろうと思うくらい。



「ねぇ、聞かせてくれる?

 どうしてあの時死んだ私と三人が一緒に転生しているの?」


どうしても、これだけがわからなかった。

運命だというにはあまりに都合がよすぎる。

人間だったバルはともかく、はぐれ精霊だったレンとララまで人間に転生している。

しかも同じ時期に同じ国で。


「俺が説明するよ。」


「レオ、私が死んだ後、何があったの?」




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