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57.薬屋の魔女

「街ではそういう姿になってんのか…。」



精霊の森では誰にも会わないからと姿を隠していなかったが、

街に戻れば隠さないわけにはいかない。

腕輪をくるっと回すと私にとっては見慣れた老婆の姿に変わった。

エミリの銀髪は白髪に、目の色は濃い菫色から黒に変わっているはずだ。

これは薬屋の魔女の姿だ。



「ええ。この姿は私を拾ってくれた薬屋の魔女の姿なの。

 私自身も魔女に弟子入りして魔女になっているから、

 あの姿のままで薬屋の魔女を名乗っても良いんだけど、

 ちょっとあの姿だと信用されにくいでしょう?」


「信用って言うか、まぁ子どもだと思われて終わるな。」


「でしょう?魔女になったのが10歳の時だったから、成長が遅いのよ。

 成人の姿まで成長すれば成長は止まって、

 そこから数百年はそのままの姿でいるそうよ。」


私を拾ってくれた魔女も、家の中では綺麗な黒髪の若い姿だった。

お店を続けているうちに年を取らないのを不思議がられるのが面倒で、

腕輪で少しずつ老けさせていった結果、この老婆の姿になったらしい。


「数百年ね…。じゃあ、エミリは見た目の姿のままの年齢じゃないんだな?

 見た目だと、15歳くらいに見えるけど。」


「もうすぐ20歳になるわ。」


「じゃあ、俺とそんなに違わないのか。俺は22歳だから。」


「そうなんだ、近いのね。

 さぁ、ここがお店よ。中に入って。」


薬屋の裏口のドアを開けて中に入る。

帰って来たのに気が付いたのか、二階から走って降りてくる音が聞こえる。


「おかえりなさい!」「遅いよ!」


とびかかってくるのを抱き留めて、ごめんと謝る。

お腹をすかせていたのか、ご機嫌斜めなようだ。



「…エミリ。それはどんな生き物なんだ?いま、話してたな?」


ドアから入ってすぐのところで、中に入るのをためらっているバルに、

やっぱり驚くよねと思いつつ説明してなかったのを謝る。


「この子たちははぐれ精霊よ。あの泉の近くて拾ってきたの。

 産まれてすぐ亡くなった黒猫に、精霊が入り込んでしまっている状態なの。

 その状態では精霊の森では生きられないっていうから、ここで一緒に暮らしてる。

 レンとララよ。

 レン、ララ、新しくここで生活するバルよ。泉のとこから拾ってきたの。

 みんな一緒ね。仲良くできると思うわ。」


「はぐれ精霊、か。初めて会ったよ。レン、ララ、よろしく頼む。バルだ。」


「おーよろしくな。」「ララよ。よろしくね。」


なかなか相性は良さそうだ。

何と言っても、全員が精霊に飛ばされて泉のほとりに落とされた過去が一緒だ。

似た気質を持っていると考えて間違いないだろう。

仲良くなれるはずだと思ってはいたが、思った以上に仲良くなれそうだ。

バルはもうレンを肩にのせて店の中を案内されている。


「ララ、ご飯を作ろっか。今日は豪華にしようね!」


「わーい!」








バルと恋仲になるのは、そう時間がかからなかった。

ずっと長年一緒に暮らしていたように、二人と二匹の生活は楽しかった。



たまに精霊の森に薬草を摘みに行って、店で処方する。

バルは処方された薬を配達したり、店番をしたりして手伝ってくれていた。

表向きは遠方に住んでいた魔女の孫が、

一緒に暮らすことになったとして周りに受け入れられていた。

そんな暮らしが半年過ぎて、このまま幸せな日が続くんじゃないかと思っていた。



「身ごもった?」


「そうみたい。」


「俺とエミリの子ども…子ども…。

 …幸せ過ぎて、もうどうしていいかわからない。」


「うん。」


静かに涙を流して抱きしめてくれるバルに、足元で騒ぎ立てて喜ぶレンとララに、

産まれてくる子も絶対に幸せになれるなって思った。




「店番は俺がやるから、少し落ち着いて座ってて。」


「体調は大丈夫。でも、確かに最近腕輪の調子がおかしいの。

 変化の術がうまくかからないっていうか…。」


「多分、身体の中に二人分の魔力があるから、

 そのせいで変化がかかりにくいんじゃないかな。

 とりあえず、変化するのはやめてそのままでいればいい。

 俺の妻だって公表して、魔女は旅に出てるとでも言えばいいんじゃないか?

 それならその姿のままで店番しても大丈夫だろう?」


「そうね、そうしようか。

 バルのことが大好きなお客さんたちには悪いけど。」


「あぁ、あれな。最近うるさくなってきたからちょうどいいよ。

 幼馴染と結婚したとでも言っておくから、後で話し合わせて。」


「ん、わかった。」


バルはそのままの姿で店番をしていたため、早くからバル狙いのお客さんがいた。

表向きは魔女の孫だったため、それを迷惑がることもできない。

少しだけモヤモヤしていたのもあったけど、これでちゃんと私との関係を公表できる。


バルを独り占め出来た気がして、単純に嬉しかった。

これが、この後どうなるかも知らずに。






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