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55.異変

身体が動かない。顔も持ち上げられそうにない。

見えるのは古ぼけた板の天井?背中に冷たくて固い感触がある。

もしかして床に倒れているんだろうか…。


指先にぬるっとした感触があるのは、血が出ているのかもしれない。

どこから?身体のあちこちが痛んで、どこをケガしているのかもわからない。


どうして動けないんだろう。

それに、この周りに感じるのは結界?

見えるのは小さな古ぼけた部屋。粗末な机と椅子と寝台?

小さな部屋の床に寝ているのはどうしてだろう。

人の気配は結界のせいだろうか、まったく感じることができなかった。


ふと自分の首から魔力が流れて出ているのを感じる。

首に巻き付いた何かが魔力を吸って、それがこの結界を維持しているらしい。


ここはどこ?

レオはどこにいったの?

シーナとシオンは?


力がどんどん抜けていく。

魔力が底を尽きかけて、結界を維持するだけの魔力量では無くなった。

結界が薄くなって消えた瞬間、この部屋に飛び込んできたものがいた。



…だれ?顔がぼんやりとしか見えず、判別できない。

男性なのは体格でわかるけど、知っている人なのだろうか。

それに顔を舐めてくるのは猫?二匹の猫が見える。

男性が一生懸命何かを叫んでいるのに、何も聞こえない。

猫の鳴き声すら聞こえてこなかった。



その時、どこかで女性の高笑いが聞こえた。

楽しくて仕方ないといったような笑い声。

どこかで聞いたことがある気がするのに思い出せない。


何か大事なものを失った気がするのに、

その大事なものが何だったのかわからない。

とても、とても大事なものだったはずなのに…。


記憶を探ろうとする間もなく、意識は消えて、

何もかもが見えなくなった。




「リリー!リリー!」


「…レオ?」


「大丈夫か?ずいぶんうなされてて、起こしても全然起きなくて。」


「うなされてた?」


周りを見ると、いつもの部屋だった。

どんな夢を見ていたのか全く思い出せない。

だけど素肌はじっとりと汗をかいていて、

いつもさらさらとしているはずの掛け布が張り付いているように感じる。


「覚えていないならそれでいい。心配した…。」


くるまっている掛け布ごと抱き寄せられたから、レオの胸に額をつける。

何も覚えていないのに、不安だけが残っていた。

レオと離れていた感覚が残っているような気がして、もう少し近くにいたい。


「レオ、もう少し強く抱きしめてて?」


「ああ。」







あぁ、またここだ。

もう何度もこの部屋に来ている。

倒れている時もあるし、起きている時もある。

同じなのは、首に巻き付いている魔術具が結界を張っていることと、

どうやっても魔術具が外せなくて、だんだん力が弱まっていくこと。


夢だと気が付いても、この部屋にいると落ち着かない。

気持ちがざわついて、早く目を覚ませばいいと願う。

どうしてか目が覚めれば夢のことは忘れてしまう。

嫌な気持ちだけが残って、レオにしがみついても不安が消えない。



扉が開いて誰かが中に入ってきた。

この部屋に来るようになって初めてのことだ。


顔が見えないけど、小柄な女性と老人。

小柄な女性が老人に何か命令をしたと思ったら、老人が短剣を出して…

私の腹部に切りつけた。何度も何度も。

床に崩れおちて全く動けなくなるまで、執拗に刺され続けた。


そして一人取り残されて扉が閉まる。






「…レオ。」


「大丈夫…じゃないよな。」


また私が起きるまで声をかけ続けてくれていたのだろう。

少し枯れたようなレオの声が、かなりの時間呼びかけてくれていたと気が付く。

見るからに心配そうな顔になっているレオに大丈夫だと言いたいのに、

もう強がりも言えないほどに気持ちが弱くなってしまっていた。



「…怖かった。知らない女性と老人が現れて、お腹を刺されるの。」


初めてだった。夢の記憶がしっかりと残されていた。

ここ何度も繰り返し見ていた夢の記憶が全て残されていた。

そのせいもあって、ついさっき殺されたばかりだと身体が感じている。

震えが止まらなくて、抱き寄せてくれるレオにしがみついた。



「…リリー。ゆっくり息を吐いて。吸っちゃダメだ。

 ゆっくりでいいから、落ち着いて息を吐いて…。

 ダメか…。」


「んっ。」


息を吸えなくなって苦しくなっているのに、レオに口をふさがれた。

口の中をむさぼられるかのようなキスに、うまく息が吸えない。

苦しさの限界が来た頃にようやく離してくれたら、息が吸えるようになっていた。


「大丈夫じゃないよな…。」


抱き寄せてくれるレオに安心したいのに、どうしても安心できないでいる。

またレオと離されるんじゃないかって不安がこみあげてきて…また?

いつそんな思いをしたのだろう。

王宮を出た時だって、離れたのは自分からで、離されたわけじゃないのに。

…なんだろう。少しも落ち着いてくれない。



トントンとノックの音が聞こえる。

この部屋にいる時にノックされるのはめずらしい。

シーナもシオンも私たちが二人でいる時は邪魔しないようにしてくれている。

何か緊急のことでもあったのだろうか。


「どうした?」


「魔女が来ている。話があるそうだ。降りて来れるか?」


「ああ。着替えてから降りるから少し待たせてて。」


シオンの声だった。魔女レベッカが来ている?

こんな朝早くから何かあったのだろうか。

なるべく待たせないようにと二人とも急いで服を着た。









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