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51.あなたは誰(ミランダ)

目が覚めたら知らない部屋だった。

昨日、レフィーロ国の王宮について、夕食を食べて部屋に戻ったところまでは覚えている。

疲れてたから、知らない間に寝ちゃってた?


起きあがって部屋の中を見ると、王宮なのに質素なつくりの部屋だった。

寝台とテーブルとソファが2つ。クローゼットが壁に備え付けてある。

あとは何一つなかった。おかしくない?書き物用の机すらない。

客間にしてはいろいろとおかしい。

何より、昨日はあんなに張り付くようにいた女官は一人もいなかった。


「誰かいないの?」


誰からの返事もなく、あたりは静まり返っている。

とにかくクリスティアかゲイルの所に行こう。

部屋から出ようとして扉にふれると、いや、ふれようとしたのにさわれなかった。


え?今、扉の取っ手を掴もうとしたよね?

どうして?見えるのにさわれない?


扉を開けようとして取っ手を掴もうとするのに、するんと通り抜ける。

この扉は内側に開く型だから、取っ手を掴まないと開けることができない。

何度か試してみて開かず、他に何か別な物でひっかければと思ったが、

物も通り抜けた。


じゃあ、窓は?

ここが何階なのかわからないけど、とりあえず外の人に声をかけられれば。

そう思って窓を開けようとしたが、窓にもさわれなかった。

どうなっているの?


「誰か!ここを開けて!クリスティア!ゲイル!助けて!」


何度も叫んでみたけど、返事は聞こえなかった。

この部屋の外に声が届いているのかも怪しかった。

どう考えても、ここは普通の部屋じゃない。

昨日のゲイルの言葉を思い出した。

王弟と王弟妃はすごい魔術師だし、この国には優れた魔術具もある。

そういうたぐいのものなんだとしたら、どうあがいても外に出れるわけがない。


しばらくはあきらめきれずに色々と試していたが、すべて無駄に終わり、

力尽きてソファに座り深く沈みこんだ。

誰かがここに来るのを待つしかなさそうだ。



どのくらい時間が過ぎたのか、ガチャっと扉が開く音がした。

扉が開いたと思って振り返ったが、扉は閉まったままだった。

聞き違い?そう思った次の瞬間、目の前に知らない女性が現れて驚いた。


「えっ。誰!」






目の前に現れた女性はあきらかに女官とは違った。

質のいい黄色のドレスを身にまとった銀髪の令嬢が、

何の感情も見せない紫の目でこちらを見ていた。


「誰なの?どうして私はこの部屋に閉じ込められているのか知ってる!?」


今まで何もわからずに閉じ込められていた苛立ちを思わずぶつけてしまう。

この人が閉じ込めたんじゃないかもしれないけど、

出られないこの部屋に急に入って来たからには何か知っている。

そう思ったから聞いたのに、その令嬢は少しだけ不快だという表情をした。

え?この人に何か悪いことした?


「私が話す前に話しかけるなどありえません。まさか礼すらないとは…。

 ですが、あなたとは話をしなければいけないので、一旦許します。

 名乗りなさい。」


命令しなれている話し方だった。

もしかして身分の高い令嬢だったのだろうか。

だけど、そんなこと言われても知らない人なんだもの。しょうがないじゃない。


「ジュリア。ジュリア・デジェル。レンメールの伯爵家のものよ。」


「本当にレンメール国の貴族?」


「そうだっていってるでしょう?」


「おかしいわね?自国の王女も知らない貴族なんて。」


「え?」


「レンメール国第一王女のミランダよ。

 私の顔も知らないのに伯爵家の令嬢だなんてありえないわ。」


「そ、そんな。王女様?」


王女様!?こんなところにどうして王女様がいるの?

王族なんて会ったこともないし、

この王宮に来るまでは、王子様だけじゃなく王女様がここにいることも知らなかった。


「まぁ、いいわ。

 あなたが伯爵家の令嬢だというなら、それで話を進めましょう。

 私はこの国に妃候補として来ています。

 そんな時に留学だと偽って不法入国してきた、

 貴族を名乗る者たちがいると聞いて確認に来たの。」


「偽って不法入国なんてしてない!」


「レンメール国から送られてきた書簡の国王印が違っていました。」


「え?…そんなの知らない!」


「知ってるかどうかはこの後調べられるでしょう。

 ですが、国王印の偽造も書簡の偽造も不法入国も大罪です。

 私が身分の確認ができたクリスティアとゲイルと違って、あなたの身分は保証できません。

 貴族かどうかもわからないので、この部屋に幽閉ではなく牢に入れられることになります。」


「牢!どうして!嫌よ!」


「仕方ないでしょう?処刑されてもおかしくないほどの大罪です。

 あなたがどこの誰かもわからないのですから、牢に入れて調べてもらわねばなりません。」


「ジュリア・デジェル、デジェル伯爵家のものだって言ってるじゃない!

 クリスティアとゲイルに聞いてくれたらわかるでしょう?」


「クリスティアとゲイルも同じ罪で幽閉中です。

 幽閉中の者の証言は信用されません。

 …それに、自国の王女も知らない伯爵令嬢なんているわけないわ。」


「だって、それは引き取られたばかりだから…。」


「そんな言い訳が通用するわけはありません。

 この後は牢に入れられて調べられ、最悪処刑されることになります。

 貴族だというなら、おとなしく罪を受け入れなさい。いいわね?

 逃げようだなんてしないことよ?」


「嫌です!私、本当に伯爵家の令嬢なんです!助けて!」


「助ける理由がないわ。」








泣きわめくジュリア・デジェルを置いて部屋の外に出る。

空間認識が違うのか、ジュリアはずっと私とは違う方に向いて叫んでいる。

扉も普通に開くのに、その存在に気が付いていないようだ。


それにしても、令嬢というには少し貧相な…。

慰問で会う孤児院の子どもとあまり変わりないように見える。

少なくともクリスティアの好みとは違うようなのだけど、

それでも操られてしまうほど魅了の力が強いのだろうか。

陛下に言われるままに脅したが、

牢から逃げ出そうとすれば間違いなく処刑されるだろう。


…穏やかな優しい陛下だと思っていたのだけど、違ったのだろうか。

レンメール国に聞こえて来ていた評判は情けない陛下という話だった。

一人の王女に骨抜きにされて、側妃だった者を王妃に変え、

王弟にすべてを任せて遊び惚けていると。

やっと陛下として表に出てきたが、議会の言いなりになっていると聞いていたのに。

全然思っていたような方ではなかった。


もしかして、私がジュリア・デジェルを愚かな礼儀知らずの令嬢だと思うように、

陛下にあんな願いを口にした私は愚かな王女だと思われていないだろうか。

今になって考えると恥ずかしくてたまらない。

王妃の仕事はできると豪語したくせに、学園の課題一つ満足にこなせていない。

こんなに教育水準の高い国だなんて知らなかった。

女官から聞く王妃代理だった王弟妃様のこともそうだった。

私に同じことができるだろうか。今は王妃になる自信なんて少しも無かった。



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