48.迎え入れる(リーンハルト)
女官長との打合せを終え、離宮の手配も済んだ。
魅了使いの令嬢と令息たちの扱いについて、
もう一度相談しようとフレッド王子の部屋を訪ねた。
「こんな夜遅くにすまない。
だけど明日には王子たちは離宮に移ってもらうことになる。
その前に相談があったんだ。」
「相談ですか?」
「ああ。魅了使いの令嬢たちが着いたら、王宮ではなく西の離宮に招こうと思う。
あそこは王宮をそのまま小さくした形になっている。
訪れたことがない者なら王宮だと誤魔化せるだろう。
そして謁見は翌日だと伝えた上で、食事やお茶に遅効性の睡眠薬を混ぜる。
眠らせた上で、一人ずつ別の区画に幽閉しようと思う。
この国は施錠や拘束がなくても部屋から出られない幽閉部屋があるんだ。
一度令嬢から離してしまえば、他の二人には会うこともできるだろう。」
「とりあえず令嬢と離して、魅了の力を弱めるってことですか?」
「ああ。どのくらい時間がかかるかわからないけどね。
そこで、一人ずつ幽閉するための罪状が必要になる。
いくらなんでも何もなく他国の貴族を幽閉するわけにはいかない。
フレッド王子が身分を偽称していたことを使わせてくれないか?
レンメール国の書簡では王子は侯爵家の子息ということになっていた。
だから、身分が確認できるまで一時的に幽閉されている、ということにする。
そのため後から来た書簡も信用性が無い。
だから幽閉して身分を確認するっていう説明をしたい。
かまわないだろうか?」
「ええ、その件に関しては、
陛下のお好きなように処罰していただいてかまいません。」
「ありがとう。そのお礼と言っちゃなんだが、
王子はこの件で協力してくれるために敢えて偽称していた、
こちらもその偽証については前もって知らされていた、
ということで処罰しないことにする。」
「よろしいのですか?」
「うん。だけど、手伝ってもらうよ?
王子とジョージアにも幽閉した後の令息二人と面会してもらいたい。
俺たちでは令息が魅了されたままなのか確認できないからね。
当初の予定では王子たちは離宮に離れていてもらうつもりだったけど、
令嬢たちが到着するまでは後宮に一時的に隠れてもらっていて、
幽閉後はこちらに戻って来てもらいたい。
協力してくれるかい?」
「協力も何も…我が国のことでこちらにご迷惑をおかけしているんです。
いくらでも使ってください。」
「わかった。じゃあ、よろしく頼むよ。」
「…あの、レンメール国からの書簡をもう一度見せてもらえませんか?
もっとはっきりした罪に問えるかもしれません。」
「ん?書簡に何かあるのか?
じゃあ、後で宰相に届けさせよう。」
「ああ、宰相、どうだった?」
先ほど王子に言われた書簡の件で、
宰相に頼んで王子の部屋に届けて見てもらっていた。
「ええ。国王の印が違っているそうです。
最初の王女の時の書簡と比べたら違いがわかると言われました。
王子が国を出る時に魅了使いの危険性はわかっていたそうで、
国王が王子に印を隠すように言ったそうです。
印は王子しか知らない場所に隠してあるそうです。
書簡には違う印が押してありました。」
「国王の印の偽称か。これなら重い罪に問えるな。
…それにしても、身分偽証の件だけでなんとかできるのに、
わざわざ手の内を明かすとは。
フレッド王子か。王太子になった後で苦労しそうだな。」
「王女といい、あの国の王族は素直過ぎるようですね。」
「そうだな。素直過ぎるよな。
まぁ、ロードンナの王太子みたいな可愛げのない奴よりか付き合いやすいか。」
「ロードンナの王太子ですか…
まぁ、あの方はレオルド様たちがいれば無茶はしてこないでしょう。
他の国へは容赦ないみたいですけどね。」
レオルドがいればか…まぁ、仲良さそうだもんな。
俺とは話が合わなそうというか、向こうも俺とは合わないって思っていそうだった。
今回の魅了の件もわが国で抑えられなかったらロードンナにも影響が出るだろう。
それは絶対に避けなければいけない。
「とりあえず、これで幽閉するまでは何とかなりそうか。
女官長には申し訳ないが、そこまでは指揮してもらうしかないな。
大丈夫そうか?」
「ええ。リリーアンヌ様の指導が行き届いていますから、
女官たちは強いですよ。」
「確かに女官たちは頼もしいな…。」