47.新たな留学生(リーンハルト)
レンメール国から使者が来たのは、
王女たちを留学で受け入れてから一月が過ぎた頃だった。
書簡を読んだ宰相が渋い顔をしているのを見て、何かあったなと感じた。
「何かまずいことがおきたか?」
「まずいというか、内容が気になります。
新しく三名のものを留学させてほしいと。
その中にレーンガル公爵家の嫡男もいるんです。」
「は?レーンガル公爵家の嫡男ってあれだろう?」
「そうです。魅了にかかってるという公爵家の長男です。」
「それが留学してくるって言うのか?
…もしかして、魅了をつかう令嬢も一緒か?」
「それは確認してみないとわかりませんが令嬢も来ますね…。
王女たちと面会して話を聞いてみますか?」
「ああ。早急に場を設けてくれ。」
詳しい事情は本人たちに聞いてみなければわからない。
書簡の内容だと留学の申込みだが、王女たちが来た時も許可を出す前に向こうを出ている。
今回も許可を出す前に出発してしまっていると考えたほうが良い。
こちらにつく前に何か対策を考えなければいけない。猶予はあまりなかった。
「お久しぶりですわ、陛下。」
学園に通ってる王女たちと会うのは久しぶりだった。
来た当初は晩餐などに誘うこともあったが、この国の学園は思ったよりも留学生に厳しかったらしい。
天才と言われるロードンナ国の王太子は平気そうだったが、
レンメール国の四人はそれぞれに苦手分野があるらしく苦戦していた。
そのため試験期間でもあるここ二週間ほどは、ゆっくり会うことも無かった。
王女の他に公爵家、そして初めて会う侯爵家の令息がいた。
侯爵家の令息を見て、少しだけ違和感を感じる。
銀髪紫目なこともそうだが、長身で大人びた印象を受ける。
顔つきが王女に似ている…?
「ああ、久しぶりだね、王女。
ところで、そちらの令息は初めて会うね。
紹介してくれるかい?」
「…ええ。デッセンルク侯爵家のフレッドですわ。」
「フレッドです。お会いできて光栄です、陛下。」
うーん。やっぱり違和感があるな。
普通ならこのまま見逃してもいいんだけど、今回はそれはできないな。
「ねぇ、ミランダ王女。
嘘は嫌いなんだ。誤魔化さないでくれないか?」
「…。」
「少なくとも君を妃にしなくても同盟は維持できると思っている。
その信用を裏切らないでほしいんだけど。ねぇ、君はどう思う?」
黙ってしまったミランダ王女の代わりに、侯爵令息だと名乗る男に質問する。
少しの沈黙の後、静かに話し始めた。
「申し訳ありません、陛下。」
「うん、話してくれる?君は誰だ?」
「レンメール国第一王子のフレッドです。
身分を偽って入国するなどあってはいけないことだとわかっていますが、
事情があり王子として入国できませんでした。
ミランダは一人で留学するつもりでした。
それを知った私が利用させてもらっただけですので、
全ての責任は私にあります。申し訳ありませんでした。」
「王子として動けなかったというのは、魅了絡みの問題か?」
「そうです。あの者の目的は私のようでした。
逃げたとしても逃げた先に追いかけてくる恐れがありました。
そのため居場所を公表できなかったのです。」
「そうか…だけど、それも無駄だったかもしれないよ。
マリーリアとジョージアと言ったね?
君たちの兄がこちらに向かっている。」
「お兄様が?」「兄がですか!」
「この者たちと一緒に来るそうだが、この中に魅了使いの令嬢はいるか?」
レンメール国から来た書簡を公爵家の二人に確認させる。
名前を確認したのだろう。真っ青な顔でジョージアが答えた。
「います。ジュリア・デジェル。
伯爵家の令嬢ですが、つい最近引き取られた庶子です。
魔力に目覚めたことがきっかけで貴族の子だと判明したと聞いています。」
「そうか。一緒に来る他の者も魅了されている者か?」
「おそらくそうだと思います。
それに、フレッド様がこちらに来ていることがわかったとすれば、
王宮のものが何人か魅了にかかっていると思います。
フレッド様の居場所は王宮でも一部のものしか知らないことです。
兄の力だけでは留学の許可は出せませんし…。」
「そうだな。宰相かそのあたりが怪しいか…。
さて、どうするかな…。
フレッド王子は魅了に対抗する魔術具などは持ってないな?」
「はい、少しの時間なら耐えられますが、長時間となると難しいです。
同じ学園に通ったら逃げられなくなるでしょう。
あの時はクリスティアがおかしいと思い気が付けました。
それですぐジョージアに連絡して逃げるように言ったのですが…。」
「連絡を受けてすぐ父に報告しました。
父はロードンナ国の記録を見てリリーアンヌ様のことを知っていたので、
私たちにレフィーロ国に行って助けを要請してくるようにと。
ミランダ様が留学すると言う話があったのを思い出して、
一緒に行けるようにお願いしてついてきました。
フレッド様は…国を出て身を隠す為もあるでしょうが、
おそらくフレッド様はこちらに来て何かあった時に、
ご自分が責任をとろうと思ってついてきてくださったのだと思います。」
「ああ、身分を隠してた件についてはもういい。
そんなことよりもこれからの対策を考えなければいけない。
宰相、女官長を呼んできてくれないか?」
「女官長ですか?」
「ああ。魅了つかいの令嬢が来る以上、男性は近寄らせない方が良い。
対応するものすべてを女性にしたい。もちろん護衛も女性騎士を配備しろ。
女官長にはすべて説明したうえで対応してもらった方が良いだろう。
王女とマリーリア、あなたたちにはこれから来る者と私との間に入ってほしい。
私は魅了に対抗できないから直接会うのは難しい。
だから、向こうからの要望があればまず二人が話を聞いてくれ。
それと、王子とジョージアは離宮に行くように。
王宮から近い離宮を用意するから学園は休むように。
こちらから連絡するまで隠れていてほしい。
下手に魅了されると面倒なことになる。
全員、それでいいか?」
「わかりました。
ご迷惑をおかけすることになりますが、よろしくお願いします。
このお詫びは落ち着いてから話し合わせてもらえますか?」
「ああ、わかった。全部片付いてからまた話そう。」