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39.議会の決定

泣き崩れた王妃をそのままに兄貴と話をする。

どうせ泣いていても話は聞こえているんだろう。

そう思ってわざとここで話をする。


「それで、議会は何を言ってきたんだ?」


「お前が今言ったままのことだよ。

 さすがにリリーアンヌを王妃にというのは反対した。

 そんなことしたら議会はめちゃくちゃにされるし、

 レオルドがリリーアンヌを連れて他国に行ってしまうぞと脅してな。」


「そりゃ正解だよ。議会がそんなこと決定したら、

 議会の人間を全員潰すか、他国に行くな。」


「だろうな。それは必ず反対するから、そこは安心してくれ。

 だがな、リリーアンヌを王妃にという声を反対すると、じゃあ王妃を代えることは認めてくれと。

 あれもこれも反対するなんて、王として覚悟は無いのかと。

 つい最近まで逃げ回ってた俺ではなんの力もない。

 議会の決定を受け入れることになったよ。

 あ、リリーアンヌのことは絶対にないから、安心して。」


兄貴にそんなつもりは無いとわかっていてもにらみつけてしまう。

それに気が付いた兄貴は必死になって否定した。


「…そうか。リリーが関わらないなら、それでいい。

 王妃探しはどうするんだ?」


「レンメール国の王女を娶る話が来ている。ついでに国内の公爵家の娘も。

 どっちを王妃にするかはまだ決められていないけどな、

 王妃を娶るのと同時に側妃も一人娶ることになる。」


「二人同時か?」


「ああ。娶るのが一人だと…妃同士が争う恐れがあるからだそうだ。

 そう議会が判断した。妃が三人なら悪意も分散されるだろうと。

 あとは他国の王女ばかりを娶ると、国内の貴族の不満がたまるって言われてな。」


「ああ、それはそうだろうな。

 ジョセフィーヌ王女を娶ってリハエレール国を自国の公爵領としたところで、

 もとは他国の王女だ。国内の貴族から不満の声が出るだろう。」


「それで、公爵家から一人ずつ候補を出すと決まったのだがな、

 侯爵家からも候補を出したいと言われたよ。

 王家特有の色を持つ令嬢が二人いるとか言ってたな。」


「…俺としては侯爵家から出すのはやめておいたほうがいいと思うぞ。

 王女二人に対抗するのに、侯爵家では弱いだろう。

 側妃にするならいいけど、王妃では無理だ。」


「やっぱりそうだよな。だけど、侯爵家にはリリーアンヌの妹がいるだろう?

 しかも王家特有の色を持ってるんだろう?

 王家の色を持つなら侯爵家でも王妃でいいんじゃないかというんだ。

 リリーアンヌの妹なら優秀なんじゃないのか?」


やっぱり出たか。侯爵家の王家の色と聞いて嫌な予感がしたんだ。

あんなのが王妃になったら…この国は終わる気がする。

兄貴が今以上に妃に振り回されている未来しか見えない。


「…あれだけはやめておけ。王妃になんて無理だ。

 リリーとは正反対な女で、頭空っぽなんだぞ。

 側妃にするにも俺がリリーを娶ってるのに、妹まで王族が娶ったら他の貴族の不満がたまるだろう。

 絶対に、あれだけはやめておけ。公爵家からにしといたほうがいい。」


「そ、そうか。わかった。レオルドがそう言ったって伝えるよ。

 そしたら反対する声も出ないだろう。」


「…ひどい!もう新しい王妃や側妃を娶るって決まってるだなんて!

 リーンハルトの裏切り者!もう顔も見たくない。出てって!」


泣き崩れていたはずの王妃が、兄貴と俺を睨みつけてくる。

そんな怒るほど兄貴が好きなら、どうして頑張らなかったんだ。

兄貴だって、好きで他の女を娶るわけじゃないのに。

どうしてそれがわからないんだ。


「ジョセフィーヌ王女、残念だが、もう議会は動いてしまっている。

 こうなった原因はすべてあなただ。」


「王女…って。え?」


「あなたを義姉さんと呼んでいたのは、王女が兄貴の唯一だったからだ。

 だが、これからはそうではない。もう義姉さんと呼ぶことはないよ。

 王妃でなければ公式の場で会うことも無いしね。」


呆然としている王女をそのままに、暗い顔している兄貴に声をかける。


「何かあったら、すぐに俺に伝わるように王宮には俺の手のものを残している。

 つらいだろうけど頑張って乗り越えてくれ。

 本当にまずい時は裏から手をまわして助けるから。

 連絡を取りたい時は、赤い封筒に手紙を入れて執務室の机に置いてくれ。」


「…すまない。頼んだ。」


いいや、こちらこそ、ごめんな。王だけは代われるものがいないんだ。

一滴も王家の血が入ってない俺では、これだけは代わりになれない。

つらいことはわかっているけれど、兄貴に頑張ってもらうしかない。

その気持ちが伝わったのだろう。

少しだけ兄貴が微笑んだのを確認して、王妃の間から廊下に出て転移した。

ここはもう俺の居場所じゃない。

早くリリーのところに帰ろう。





マジックハウスに転移してみると、

ソファの上にふわっふわの雪兎が一匹乗っていた。

雪兎なのに目が緑色だ。驚いたのか、耳がピンっとたっている。

目が合って、すぐにわかった。


「リリー、なんで兎になってるんだ?」


「あら。すぐにわかっちゃった?」


どこから声が出てるのかわからないが、リリーの声は変わりなかった。


「なんで兎に変化したの?」


「おかえり、レオ。

 リリーが魔女へお礼の菓子を持って行って相談したらしい。

 シーナの格好に変化しても街で浮いてしまうからどうしたら良い?ってな。

 そんで動物に変化すればいいって言われたみたいだぞ。」


「あぁ、なるほどな~。確かにシーナに変化するよりは目立たないか。」


奥から出てきたシオンに説明されて納得する。動物に変化ね…。

すくいあげるようにリリー雪兎を抱き上げ、俺の膝の上に乗せて座る。

ふわっふわの毛を撫でると、緑色の目が気持ちよさそうにゆれる。

これはこれで癒されるけど…。


「ねぇ、リリー。兎になってもリリーは可愛いけど、

 今すごく疲れてるから、リリーを抱きしめて癒されたいんだけどな。」


「え?そうなの?ちょっと待って。」


そう言って変化を解くと、水色のワンピース姿のリリーに戻ってくれた。

ひざの上に乗ったままなのを良いことに、そのまま抱きしめる。

柑橘の花の香油に混ざって、リリーの甘い匂いがする。

気が済むまで匂いをかいで柔らかさを確かめるように抱きしめる。

ようやく落ち着いた気がして、腕の力を少し緩めた。


「ずいぶん疲れているみたいだけど、大丈夫?何かあった?」


今日のことを軍の話から、兄貴と王女に話した事までを説明する。

軍の話は普通に聞いていたが、王妃や側妃の話になると困った顔になっていく。

同情する気もあるけど、王妃の仕事の大事さもよくわかっている。

リリーも下手なことは言えないだろう。俺たちには代わってやれないことだし。


「これから王妃と側妃の候補選びになるらしい。

 今年中に婚約させるつもりなんだろうな。」


「すぐに婚約させるの?」


「結婚はさすがにすぐというわけにはいかないだろうけど、

 王妃の仕事をさせるのに婚約者の肩書で何とかするつもりなんだろう。」


「そうね…そろそろ来年度の予算を決めないといけない時期だしね。

 遅れたらその分、予算の支給も遅れてしまう。早くしないとね…。」


二年もやっていたから、今の時期がどんな状態かわかるのだろう。

困ったような苦しいような顔になっていくリリーの額に口づける。


「リリーはもう心配しなくていいんだよ。」


「うん、そうなんだけど。」


「兄貴が思ったよりもしっかりしてた。大丈夫だよ。」


「そうなんだ。」


王妃と側妃選びで貴族内の争いが増えていくだろうけど、

今のリリーにはそんなことで悩んでほしくない。


「あーお腹すいた。リリー、夕ご飯の準備手伝うから、早く作ろう?」


「仕方ないなぁ。」


仕方ないって言いながら、にこにこ準備を始めようとするリリーにほっとする。

もう王宮の争いには近づけたくない。

たとえ、それがリリーの生家のことであったとしても。






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