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38.王妃の仕事

振り返ってみると王妃の間の扉が開いて、王妃が立ってこちらを見ている。

後ろにいる女官たちがおろおろしているのも見える。

一か月と少ししかたってないのに、以前見た王妃とは違い、

栗色の髪はボサボサ、目にはクマが出来て、泣いた跡が頬に残っている。

そういえば二人目を身ごもってるんだったな。

まだ初期だからか、お腹は全然目立っていないけれど。


「…兄貴、王妃の間には何の用があって来たんだ?」


「…王妃が仕事をせずに泣いてばかりで困ってると女官から苦情が来て…。

 何とか説得しようと思ってきたんだ。」


「はぁぁぁぁ。なるほどね。タイミング悪い時に来たな…。」


「レオルド様!聞いてますか!?」


自分を無視して話し続けている兄貴と俺を見て苛立ったのだろう。

もともとはたれ目がちな目が、つり上がっているように見える。


「義姉さん、聞いてるって、もしかしてさっきの戯言?」


「戯言って、ひどい。私は真剣にお願いしてるんです!

 このままじゃつらいので、リリーアンヌ様を返してください!」


あ、まずい。そう思ったときには遅かった。

怒りのあまり魔力をぶつけてしまったようだ。

王妃だけじゃなく、後ろにいた女官たちも腰が抜けてしまっている。

これは…一度きっちり話をしないとダメだな。


「兄貴、とりあえず中に入って座っていいか?」


「…あぁ、すまない。」


「…俺が何を話すか、わかって言ってんの?」


「わかってる。…好きに言ってもらっていい。

 もう隠してる状態じゃないんだ。」


あぁ、これはもうそういう状況なのか。議会から話が来たってところかな。

とりあえずまだ座りこんでいる女官たちはほっといて、王妃の間の中に入る。

王妃は兄貴が抱き上げてソファまで連れて行った。

俺はその後をついて行って、向かい側のソファに座る。

お茶…は出てきそうにないから、もう話してしまうか。



「義姉さん、さきほどの発言だが、何を考えて言った?」


「何をって…?」


何で怒られてるのかわからないって顔してる。

本当に、この人は何も考えていないんだな。


「まず第一に、王妃の仕事は代理に任せていいものじゃない。」


「それは知ってるわ…でも。」


「第二に、リリーアンヌは俺のものであって、

 王宮のものでも義姉さんのものでもない。」


「そんな…身内じゃないの。」


あー怒鳴りたい。でも、まだ待て。ここで泣かれたら話にならない。


「義姉さんは、王妃の仕事を人に任せるってことが、

 どういうことか理解している?」


「ダメなの?だって、妊娠中なのよ?」


「確かに、王の子を生むのは妃の仕事でしょう。」


「でしょう?」


「ええ。妃のね。王妃である必要はない。」


「…え?」


「おそらく、近いうちに義姉さんは側妃に落とされる。」


「え?」


ここまで言われてもどうして?って顔してるけど、

やっぱりこの人を王妃にしちゃダメだったんだろうな。


義姉さん、ジョセフィーヌ王女は、隣国リハエレール国の第二王女だった。

リハエレール国はもとはレフィーロ国の辺境伯領地だった。

レフィーロ国に反発して何代も前に独立した小国だ。

だが、もともと大きくない辺境地で王が貴族を増やした結果、

王族が貴族たちを管理できなくなった。

貴族たちが私腹を肥やした結果、民が流出していくようになったのだ。

そこで、レフィーロ国に戻りたいと前国王から申し出があった。


リハエレール国を無くしレフィーロ国に吸収合併するために、

第二王女が兄貴に輿入れする形になった。

当初の予定では側妃として受け入れるはずであった。

第二王女は愛妾の娘だからか王族教育を受けていない上に、

気弱で人の上に立てるような令嬢ではなかった。

だが、一目でジョセフィーヌ王女を気に入ってしまった兄貴が、

反対する議会の声も聞かずに王妃にしてしまった。

俺としても王妃以外娶りたくないという気持ちがわかるがゆえに、当時は反対しなかったのだが…。

こうなると、議会の声が正しかったと認めるしかなかった。



「子どもを産むのは、王妃じゃなくてもいい。側妃でも公妾だってかまわない。

 つまり、王妃の仕事をやらずに人任せにして、

 子どもを産むことしかしていない義姉さんは、近いうちに側妃に変えられる。

 そして、兄貴は新しい王妃を娶ることになるだろう。」


「そんな!嫌よ!」


「嫌って言っても、だって王妃の仕事しないじゃないか。」


「だから、王妃の仕事はリリーアンヌ様が代理でしてくれれば…。」


まだわかってないのか。


「あのな、今陛下が仕事している状況で、リリーを王妃代理にしてみろ。

 リリーを俺と別れさせて陛下の王妃にって期待されることになるぞ。」


「え?どうして?」


「王妃の仕事をしているのがリリーなら、

 リリーが王妃で良いじゃないかって思うだろう。

 国民も王宮のものも、みんなそう思ってるんだからな。」


「…そんな。」


「義姉さんがそうやって他の者に任せようとするから、

 議会だって遠慮せずに王妃を探してくるだろう。

 だって、子どもを産むのは他の妃でもいいけど、

 王妃は変わりがいないのが普通だからな。

 王妃自ら、王妃の仕事をするのは自分じゃなくてもいいだなんて、

 そんなことを言う王妃はこの国ではいらないんだよ。」


「…そんな。リーンハルト、そんなことないわよね?」


すがるように兄貴に問いかけるけど、兄貴は目をそらしたままだ。

その姿に俺の話が本当だと気が付いたんだろう。

今度は俺のほうにすがるように見てくる。


「お願い!助けて!レオルド様なら議会を黙らせられるでしょう?

 嫌よ、私以外の妃なんて。」


「無理だよ。俺はもう王弟じゃない。貴族の中の一人だ。

 議会の決定に反対するような力は無いし、反対する理由もない。」


「どうして?どうして反対してくれないの?」


「じゃあ、どうして仕事もしないで泣き暮らしている王妃が、

 他の者たちに認められると思ってるんだ?

 それなら側妃になって、ずっと後宮にいればいいって思うだろう?

 義姉さんが王妃の仕事をしないことで、

 国中の孤児院や救済院や修道院が困ってるんだぞ。

 それを考えたことも無いだろう?最初から王妃に向いてなかったんだよ。

 もうあきらめて、側妃になって静かに暮らしなよ。」


「…そんな!嫌よ!」


「じゃあ、今から毎日王妃として仕事できるのか?」


「…。」


「あれも嫌これも嫌じゃ、王妃は務まらないんだよ。」


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