37.立て直し
よし、令嬢の誘拐の件に関してはもう解決ってことでいいな。
軍人たちに指示を出した後は、すぐに将軍の執務室に転移して戻る。
急に俺が現れたせいで副将軍が後ろに倒れたけど、仕方ないんだよな。
廊下に転移すると、他の者に見られてもっと騒ぎになりかねない。
「ただいま。副将軍、ちょっとショーンというものを呼んでくれないか?」
「は、っはい!すぐに呼びます!」
転移してきたのが俺だとわかって安心したのか、嬉しそうに部屋から出て行った。
まもなく執務室にショーンを連れて副将軍が戻って来る。
とりあえず疲れたからソファに座って、二人にも座ってもらう。
「さっきはありがとう、助かったよショーン。」
「いえ、こちらに帰って来られたということは無事に解決しましたか?」
「ああ、大丈夫。アンヌ嬢は侯爵家に送り届けるように言ってきたよ。
護衛についていた軍人たちも無事だ。安心していい。」
「わかりました。」
「さて、大事な話はここからだ。
陛下から、将軍の任命権ももらってきてある。
ちゃんとした任命は後でいいから、今はとにかく少しでも早く軍を動かしたい。
王都の治安の悪さを一刻でも早く何とかしなきゃいけない。
だから、副将軍?」
「はい?」
「副将軍に将軍を任命するよ。」
「ええ!?」
「だって、今から他を探してる場合じゃないんだ。わかるだろう?」
「ええ。確かにそれはそうです。」
「一人でやるのは大変だろう?だから、ショーン?」
「え?俺ですか?はい?」
「うん、君は将軍補佐に任命する。」
「ふぇ?」
「ショーンは軍人たちに詳しいだろう?
人が少ない中で配置しなきゃいけない。
それには軍人たちをよく知っている人間が必要だ。
ショーンの仕事は将軍の補佐として配置を決めることと、
軍人を増やす部署を統括すること。わかった?
簡単に言うと、人事と新しい軍人を募集してね、てこと。」
「は、はい。」
二人とも思ってもいなかったのだろう。任命されてカチコチになってしまっている。
「一刻も早く王都の治安を戻して、民を守らなければいけない。
これ以上の犠牲者を出すな。わかったな?」
「「はい!」」
王都の治安の悪さを思い出したのだろう。顔つきが変わった。
この二人に任せておけば大丈夫かな。
とにかく、今は動かなければいけない。
「じゃあ、任命書は置いていく。
陛下に報告に行くから、後は各自で動いて。」
「あの!レオルド様は将軍にならないのですか?」
「ああ、俺が一時的に将軍になったのは、
元将軍よりも上の立場にならないとダメだったから。
邪魔なものを排除して、軍を正常に動かせる人に任せようと思っていた。
最初からそのつもりで陛下から任命書をあずかってきたんだ。
俺はここには戻ってこない。二人に任せるから、しっかり頑張ってね。」
「「は、っはい!」」
すぐに兄貴に報告してリリーの所に帰ろうと、王宮に転移する。
兄貴の周りに他の者の気配がなかったから、てっきり執務室に一人でいるのだろうと思ったのに、
転移した先は王妃の宮の廊下だった。
「うわっ。」
「あ、ごめん。いるのがここだと思わなくて。執務室にいると思ってたよ。
軍の件終わったから、急いで報告したかったんだ。」
驚いて後ろに下がろうとして転んだのだろう。
廊下の絨毯の上に座り込んでいた兄貴に手を貸して立たせる。
「なぁ、転移するときに前触れとか何かないのか?」
「今度考えておくよ。で、報告して良いか?」
「ここでか?」
周りを見ると、王妃の間の目の前だった。
ここから執務室まで戻るのも大変だよな。人に見られるのは嫌だし。
座りたくても王妃の間には入りたくないし。ここでいいか。
「悪いけど、ここで報告させてよ。簡単にするから。
将軍は捕まえて侯爵家に軟禁してある。家族も一緒にね。
あとで証拠書類が届くから、裁判のほうはそっちで何とかして。
で、新しい将軍は副将軍に任せてきた。
さすがに一人じゃ無理だと思って補佐を一人付けたよ。
任命は王都の治安が落ち着いてからにしてくれ。
他の役職のものも変えなればいけないだろうが、その辺は後で。
将軍と一緒になって私物化していた者の名前も一覧にしてあるから。
それらを排除したら人が本格的に足りなくなりそうだから、
軍人を募集する部署も将軍補佐に任せてきた。」
「ああ、わかった。済まなかったな。」
「いや、兄貴も意外とちゃんと王政の仕事をしていたようだし、
全部を見るにも限界があるだろう。
今回の件はロードンナ国の問題も絡んでたしな。
気が付いても、対処は難しかったと思うぞ。」
「ロードンナ国が?」
「ああ。軍部を止めていたのはロードンナ国の公爵が将軍をそそのかしていた。
内乱か戦争か、どちらかを狙っていたようだ。
軍部だけじゃなく、境の侯爵領地まで貴族の手のものが入り込んでた。
騒ぎが広がる前に止められて良かったよ…。」
「そうか。助かったよ、ありがとう。」
これで俺の仕事も終わりかな…じゃあ、リリーの所に帰るか。
そう思った俺に聞こえてきたのは、王妃の声だった。
「レオルド様!助けてください!お願い、リリーアンヌ様を返して!」