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35.疑問

「どうしてですか?アンジェリーナ様のどこがダメなんですか?

 リリーアンヌ様じゃなくてもいいじゃないですか。」



「はぁ?」


怒りのあまり魔力を飛ばしたようだ。

令息はひっと声をあげて、そのまま動かなくなった。


「じゃあ聞くが、その女のどこがいいんだ?

 誇れるのは髪の色だけで、礼儀知らずで厚顔だ。

 学園での成績もどうせ悪いんだろう。

 友人はいるのか?令息だけなんじゃないのか?」


思い当たることがあるのだろう。言い返すことなく令息たちの目が泳いだ。


「リリーはあの外見だけじゃない。

 学園での成績はずっと俺に次いで二位だった。教養も魔術も。

 その上、王妃代理の仕事もこなせるほど優秀だ。

 で、お前は何が誇れるっていうんだ?

 何か努力してきたのか?してないだろう。

 髪の色一つで両親から甘やかされて育ってきたお前には、何の魅力も感じないね。」


これ以上おかしなことを言って噂を広げられるのはごめんだった。

アンジェリーナの戯言を聞いた貴族が、それを本気にしないとも限らない。

王弟が新しい妻を娶るだなんて思われたら、令嬢たちが大量に王宮に押しかけてくるだろう。

もちろん王宮に俺はいないけど、それでまた王政が混乱するのが目に見える。

アンジェリーナの戯言は今に始まったことじゃない。

ここで完璧に潰しておかないと、また言い始めるに決まってる。


「侯爵家が周りからどう言われているか知ってたか?

 王弟妃に見捨てられた生家、だよ。

 お茶会にも呼ばれない、夜会でも形だけの挨拶のみだ。

 お前たちとリリーは、もう関係ないと思われてるんだよ。

 もちろん、俺とも何の関係もない。

 次にそんなバカげた話をしていたら、令息たちも含めて、つぶすよ?」



言いたいことは言ったかな、と思い、一番近くにいた令息を捕まえる。


「すみません、すみません!」


「あぁ、今何かするわけじゃない。落ち着け。

 聞きたいことがあるんだ。

 将軍の孫娘のアンヌ嬢、会ったよな?

 どこで会ったんだ?」


「え?アンヌ嬢ですか?さっき会いました。香水屋を出たところです。

 護衛だという男三人を連れて嬉しそうに歩いてましたよ。

 これからもう少し先にある川沿いのカフェに行くって言ってました。」


けっこう良い情報持ってるな。

それに免じて、令息は丁寧に降ろしてやる。


「では、俺は仕事だから行くが…これに懲りたらバカな話はするなよ?」


「「「はい!」」」


アンジェリーナはまだ呆然としていたが、令息たちは懲りたようだ。

これで少しはおとなしく…ならないかな。



川沿いのカフェを探して歩いていると、どんどん通りの人が少なくなっていった。

なるほど。

王都の街の中でも、治安の良いところと悪いところが分かれているのだろう。

さきほどのチーズパイの店は街の中心地にあったが、川沿いは街の端のほうだった。

中心から離れていくにつれ、治安が悪くなるのが閉店している店の多さでわかる。


こんな状態で、川沿いのカフェは営業しているというのだろうか?

川の近くまでくると開いている店はもう一つも無かった。

ここが川沿いのカフェかと店の前にたったが、開いているようには見えない。

ドアも締め切られているし、店の中をのぞいても人が見えない。

ここまで来たけど、開いていなくて別の店に行った?


念のため近くにいる気配を探してみる…いるな、人が。

店の二階の一室に数人がいるのがわかる。その部屋以外に人はいないようだ。

もしかして、貸し切りで営業しているのだろうか。

人の気配がする部屋の隣の部屋に転移してみる。

そこから隣の部屋の会話を聞こうとしていると、大声が聞こえた。


「もう!放しなさい!

 私は家に帰るんだから!

 あなたたち、お祖父様に言いつけたらどうなるかわかってるんでしょうね!?」


この声はアンヌ嬢だな。ここに囚われてるってことか…。


「わかってますよ、そんなの。

 でもね、こうでもしないと王都の治安は悪化するばかりだ。

 いいかげん将軍のわがままにつきあってられないんですよ。

 これが終わればちゃんと帰しますから、落ち着いてくださいよ。」


「じゃあ、なんで私が縛られてるのよ!」


「こっちだって、縛りたいわけじゃないです。

 でも、お嬢様が暴れるから、仕方なく。」


護衛で軍人が三人もついていったのに、簡単にさらわれたなと思ったが。

その軍人たちが犯人だとはな…どうしようかな。

まぁ、話せばわかりそうだから、出ていくか。



ドアをノックせずに入ると、軍人たちは驚いた顔をしたが、動きはしなかった。

中央にソファーが置かれていて、そこにアンヌ嬢が座っている。

手足を縄のようなもので縛っているようだが、とても元気そうだ。

俺が入ってきたのを見て、アンヌ嬢が即座に反応して叫んだ。


「ちょっと、どういうことなのよ、ショーン!

 こいつら私を縛って帰さないんだけど!」


「ショーンさん、すみません。どうしても我慢できなくて…。

 責任は俺たち三人が取りますから、

 ショーンさんは見なかったことにして帰ってください。

 ここにいたら、ショーンさんまで巻き込んでしまう。」


あぁ、そういえばショーンの格好のままだった。

他の軍人たちは知らず、この三人の勝手な行動だったわけだ。

ショーンは軍人たちに慕われている存在なのだろう。


「話はだいたいわかったんだが、確認していいか?」


「「「はい。」」」


「お前たちがアンヌ嬢をさらったのは、軍を動かしたいから。

 軍を動かして、王都の治安をなんとかしようと思ったから、で良いか?」


「はい、そうです。」


「心あるものたちで王都を見回りしたりしましたが、限界で。

 子どもが攫われたり、女性がひどい目にあったりしているんです。

 なのに、何度言っても将軍は軍を動かしてくれなくて…。」


「だから、アンヌ嬢をさらって、将軍を動かそうと?」


「はい。孫娘のためなら、どんなわがままでも聞くらしいと。

 ですが、アンヌ嬢を傷つけるような真似は一切しておりません。」


「してるわよ!縄で縛ってるじゃない!」


それくらい我慢しなよ。全然平気そうだし。

この軍人たちが言ってる傷っていうのは、そういう意味じゃないよ。

でも、この軍人たちも甘いな…貴族じゃないんだろうな。


「さて、事情はわかったことだし、先に言うぞ。

 俺はショーンじゃない。」


「「「「え?」」」」

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