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34.妹

…嫌な令嬢が来たな。

リリーの妹のアンジェリーナだった。


同じ両親から生まれた姉妹だというのに、ちっとも似ていない。

リリーが銀髪緑目なのに対して、アンジェリーナは金髪碧眼だった。


リリーたちの祖母が公爵家に降嫁した王女なので、

王家の金髪を受け継いだアンジェリーナは大事に育てられている。

リリーが銀髪なのは、降嫁した先の公爵家特有の色だ。

公爵家生まれだが茶髪だったことで評価があまり高くなかった母親が、

侯爵家当主で茶髪の父親のところに嫁いでいる。

娘は二人とも両親に似なかったが、末の娘が王家特有の色を持って生まれたことで、

親子の力関係がいびつなものになっていた。


リリーが生まれた時に銀髪だったことが、茶髪だった夫妻の劣等感を刺激してしまったのだろう。

親としての必要最低限のことすら関わらずに、リリーはシーナとシオンに育てられたようなものだ。

その後両親との亀裂は妹が金髪で生まれたことで確実なものになった。

侯爵家はアンジェリーナ至上主義というか、妹のために存在する家になった。


確かに、王家以外に生まれた金髪の令嬢を求める家は多い。

おそらく兄貴が側妃を選ぶ際には候補に上がってくるだろう。

ただし、姉のリリーが俺と結婚していることから、

実際にはアンジェリーナが選ばれることはないと思っている。

一つの侯爵家から王家に二人も同時に嫁いだら、貴族間の力関係を歪めてしまうだろう。

それを他家は黙っていない。


本人はそれを理解しているのかいないのか、まだ婚約者を決めていないようだ。

リリーとは仲が悪くほとんど会うこともないが、

会えばいつもアンジェリーナがリリーに食って掛かってる印象しかない。


「もう、さっきのアンヌ様、最悪じゃなかった?

 何あの護衛たち。あれって軍人じゃないの?」



どうやら、アンヌ嬢に会ったらしい。

アンジェリーナの周りにいる令息たちが、慌ててアンジェリーナのご機嫌をとろうとする。

周りの令息たちは取り巻きだろうか。

今年学園に入ったそうだから、学園内で出会った令息なのだろう。

同じ学園にいたはずの俺が顔を知らないということは、

俺たちが卒業した後で入学した令息たちだと思われる。


アンヌ嬢について他にも話さないかと聞き耳を立てているが、

会話がどんどん流れて行って、なかなかアンヌ嬢の話にはならなかった。


「お姉さまがいけないのよ。」


話題がリリーの話になり、思わずそちらを向きそうになる。

ショーンの姿を借りてるとはいえ、不審な態度になってはまずい。

落ち着いて話を聞こうと紅茶を一口飲む。


「いくらなんでも四年も避妊薬飲まされていて気が付かないって、間抜けすぎるでしょう?

 だから子供ができないんだわ。

 レオルド様がお可哀そうすぎる。

 そんな妻なんて、変えてしまえばいいのよ。」


あぁ、またか。俺とリリーが婚約した頃、侯爵家に挨拶に行ったことがあった。

妹が一人いて、仲が良くないとは聞いていたが、

まさか初対面で婚約者を変えろと言われるとは思わなかった。


「私のほうがレオルド様に相応しいわ。

 だって、王家の色を持っているんだし、若いし。

 私なら子を生んでさしあげられるわ!」


こういう理由だったな…と脱力する。

リリーと仲が悪いのも納得する。リリーは貴族らしい考え方をしない。

自分の髪が銀髪だから妹に負けるとは思っていない。

だけど、妹のほうは髪の色一つで姉に勝てると思い込んでいる。

話がかみ合うわけがない。


「今度、お父様のほうから伝えてもらいましょう。

 それがいいわ。レオルド様もお喜びになるでしょう。」


あーもう限界だ。残っていたチーズパイを飲み込んでしまう。

席を立って、ずかずかとアンジェリーナの席の前に立つ。


「なんだ、お前は!」


アンジェリーナの周りにいた令息が三人立ち上がって、

突然現れた俺からアンジェリーナを守ろうとする。

それを無視して、変化を解いた。

令息たちが驚きで動きが止まったのが見えた。

次の瞬間、その令息たちを押しのけてアンジェリーナが前に出てきた。


「レオルド様!お会いしたかったです!

 え?私に会いに来てくれたんですか!?

 もしかして、やっぱり私が良いって、迎えに来てくれたとか!?」


もう殴っていいかなと思うけど、何とか我慢して冷静に伝えようとする。


「アンジェリーナ、その勘違いまだしてたんだな。」


「勘違いですか?」


心底わからないと言った感じで首をかしげている。


「俺は侯爵家と縁を結びたくてリリーと結婚したわけじゃない。

 リリーだから選んで結婚したんだ。子どもなんてどうでもいい。

 別れることなんて一生ないし、

 アンジェリーナと結婚しなおす可能性は全くない。」



「え?」


何を言われたのか理解できないって顔してる。

聞きたくないことは聞かないふりするんだよな…

いや、本当に聞こえてないかもしれないな。


「俺は金髪なんて好きじゃない。王家の血も必要じゃない。

 貴族らしさとかホントどうでもいい。

 優秀で可愛いリリーがいれば、他の令嬢なんて全部どうでもいい。」



「…どうでもいい。」


これは聞こえたようだ。ふるふると震えているのは怒りか?

よろけたところを支えた令息が思わずといった感じで声を上げる。


「どうしてですか?アンジェリーナ様のどこがダメなんですか?

 リリーアンヌ様じゃなくてもいいじゃないですか。」




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