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33.脅迫

さて、これからのことを副将軍と話し合わなきゃなと思って待っていると、

副将軍が荒々しく執務室に飛び込んできた。


「レオルド様、大変です!こんなものが。」


副将軍から渡されたのは一通の手紙だった。あまり質の良くない、平民が使う封筒だ。

手紙?と思って中を開いて読んでみて、思わずため息をつく。


「無視していいか?」


「…気持ちはわかりますが、これも軍の仕事です。」


「そうだよなぁ。…仕方ないか。」


手紙にはレイハバル家の令嬢を預かっている、

無事に帰してほしければ言うことを聞け、と書いてあった。

言うことを聞けというわりには、どうしてほしいかが書かれていない。

次の連絡が来るまで待てということなんだろうか。



「副将軍、さきほど外で見たんだが、

 令嬢が護衛として何人か貸せと言っていた。

 あれも元将軍の孫娘だと思う。よくあることなのか?」


「はい。軍が動いていないため王都の治安が悪くなっています。

 街に買い物に行くと言って何度か連れて行っていました。

 レオルド様が見たのは、妹のアンヌ様でしょう。」


なるほど。元将軍のせいで治安が悪くなったから、護衛が多く必要になったと。

三人は連れて行ったはずなのに、それで攫われることがあるんだろうか?


「とりあえず、これじゃ何の手掛かりもないな。

 次の連絡が来るまで待つか。

 あ、この件が解決するまで、俺が将軍だという話は広めるな。

 極秘扱いで頼む。」


「わかりました。極秘ですね!」


なぜかうれしそうにしている副将軍に、ちょっと出てくると言って執務室から外に出た。

騒がれないようにもう一度シオンに変化しているが、

リリー付きだったシオンのことがわかるものもいるのだろう。

シオンの姿を見てあきらかに驚いて顔色を変えた者もいる。

…シオン、軍に何かやったな?

侯爵家からリリーの護衛としてついてきた、シオンへのやっかみはすごかった。

王弟妃の護衛は軍がするという慣例を無視しているのだから、仕方がないことではあったが。

それがいつの間にか静かになった。

シオンの腕前を見て納得したのだろうと思っていたのだが。

数人はボコボコにしたんだな…。



探しているものはすぐに見つかった。

さきほど令嬢に我がままを言われていた軍人だ。

護衛を貸した時のことを聞こうと思って探しに来ていた。



「ちょっと良いか?」


声をかけると振り返り、シオンの姿を見て驚いて顔色が悪くなる。あれ、こいつもか。

空き部屋に誘導して、中に入って変化を解く。

シオンじゃなく俺だってわかれば安心するだろうと思ったのに、余計に顔色が悪くなっている。

どうしてだ?


「俺が誰だかわかるな?ちょっと聞きたいことがあるんだ。」


「は、っはい。なんでしょうか?」


「アンヌ嬢に護衛をつけたな?その時の様子を教えてくれないか?

 あ、軍の規定違反とか、そういうのはどうでもいい。

 責めるつもりは無いから、あったことをそのまま教えてくれ。」


「責めないんですか?」


「うん、今はどうでもいい。それに責められるのは将軍だ。

 君や護衛についた者を処罰する気は無いから、安心していいよ。」


「…そうですか。わかりました。

 あの後、訓練していた若いものを三人つけました。

 訓練場には十人ほどいたのですが、彼女が顔のいいものを選んで…。

 拒否することを許さず、半ば無理やりに連れて行ってしまいました。

 街で買い物をしてくると言ってました。数時間で帰ると。

 ここ一か月で五回ほどこういうことがあったので、またかと言った感じです。

 断ったらお祖父様に言いつけると言われると、私たちも弱くて…。

 顔のいい者を連れて行きたがるので、周りに見せびらかしたいのもあるんでしょう。

 敵対している侯爵家の令嬢に対抗しているという噂もありました。」


「敵対してる侯爵家の令嬢?」


「…リリーアンヌ様の妹様です。」


「…あぁ、なるほどね。そういう対抗ね。わかった。」


あの妹には関わりたくないな。

今回の件とは関係ないと思うが、もしかしたら行き先にいたりするのか?

そしたらシオンの変化してもダメだよな。

ふと目の前の男に気が付いて、そうだと思う。


「頼みがあるんだが。」


「なんでしょうか?」


「君に変化して街を歩いてきてもいいか?

 俺がこのまま行くと大変だし、シオンでも騒がれそうなんだ。」


「あぁ、それはそうでしょう。わかりました。」


「じゃ、令嬢が行ったと思う場所を教えてくれないか?」


「地図に書き込みますので、お待ちください。」





丁寧に地図に書き込みをして渡してくれた軍人はショーンという名だった。

長く軍人をしているようで、将軍は昔はああじゃなかったんですと呟いた。


「ああじゃなかった、とは?」


「奥様がいた頃は仕事熱心だったのですが、遠征中に亡くなりまして。

 息子さんに責められたそうです。将軍のせいで短命だったと。

 そのせいか息子さんの子どもたち、孫娘ですね、その二人の我儘は何でも聞いてしまうんです。

 …それでも、こんなにひどいことはなかったんですが、

 一か月前から人が変わってしまったようです。」


一か月前…俺たちが王宮から出てすぐということだな。

ロードンナ国の公爵と手を組んだこともそうだが、孫娘二人を側妃に、か。

何を考えてそうなったのかはわからないが…間違いなく処刑されるだろうな。

きっとそのことを理解してショーンは後悔しているのかもしれない。


「間違った方向に行きかけた時に誰かが止められたら、なんて思うなよ?

 誰でも間違うことはあるかもしれないが、間違ってはいけないこともある。

 王都の治安が悪化しているのなら、そのせいで被害を受けたものも多い。

 このまま放置していれば内乱がおきただろう。」


「そうでしたか…私の知っている将軍は、もういないんですね。

 王都は治安の悪さで人は減っていますが、破落戸は増えています。

 お気をつけて…。」


「あぁ、ありがとう。行って来るよ。」


快く許可してくれたショーンに変化して王都に転移する。

一か月とは全く違う街の雰囲気に、足を止める。

街にいるのは店の関係者か、数人の護衛を連れている貴族だけだった。

大通りから少しはずれた場所では破落戸が酒飲みをしている。

まだ昼間だというのに、場末のような状態になっていた。

そんな状態だからか、昼間だというのに薄暗い雰囲気を感じさせている。


「こんな状態で、よく令嬢が外出する気になったな…。」


よく行く場所を見ると、お菓子の店、紅茶の店、宝石店…。

令嬢本人が行かなくても良さそうなものだが…。

一番最初に書いてあった、チーズタルトの店に行って見る。

ここは二か月前にできた店で、店内でお茶をするのが流行っていると。

中に入ると店員が声をかけてきて中に案内される。

男一人で入店して怪しまれるかと思ったが、この状況下ではお客が少なくて困っているのだろう。

若い男の店員が笑顔で席に案内してくれた。

店員が男っていうのも、この状況下で営業を続けていられる要因だろうか。

店内にいる少ない客はほとんどが令嬢で護衛付きだった。

護衛付きでもこの店に来たいと思わせる何かがあるのかもしれない。


とりあえず座って紅茶を頼む。

おすすめのチーズパイを一切れ注文すると、店員は頷いて去っていく。

運んできてくれた時にでも令嬢の話を聞いてみようと思っていると、

騒がしい団体が店の中に入ってきた。



…嫌な令嬢が来たな。

リリーの妹のアンジェリーナだった。







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