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王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!  作者: gacchi(がっち)


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30.お詫びのパイ

ジョエルがマジックハウスに戻ってきたのは、

次の日のお茶の時間で、私はいろんなパイを焼いているところだった。


「ちょうどいい時に来たわね、ジョエル。もうすぐ最後のパイが焼きあがるわ。」


「ん?なんでこんなにパイばっかりあるの?」


「四人の好きなパイ…レオのミートパイ、シーナの南瓜キャラメルパイ。

 シオンのアップルチーズパイ、ジョエルのベリーカスタードパイ。」


「ベリーカスタードパイあるの?それは嬉しいけど…。

 もしかして、三人にめちゃくちゃ怒られた?」


「うん…。もう少しでお茶の準備終わるから、みんな呼んできてくれる?」


「わかったー。」





テーブルに好きなものを好きなだけ各自で取って食べられるように並べ、

人数分のミントティーを入れる。

全員が席に着いたところで、ジョエルから昨日の話を聞く。


「で、全員処刑対象になるのか?」


「おそらくね。

 これだけ証拠がはっきりしているし、一歩間違えたら戦争になってた。

 減刑は難しいだろうね。」


「公爵と側妃だっけ。それは認めたのか?」


「二人とも何一つ認めなかったけど、

 エヴァンが話し合いするときに魔石でやり取りしていたらしくて、

 それが全部エヴァンの部屋から出てきた。」


「なんで手紙じゃなくて魔石だったんだ?」


「裏切られる可能性というか、切り捨てられるかもって思ってたんじゃないかな。」


「なるほどね。簡単に切り捨てられないようにしてたのか。

 で、動機はわかったのか?」


ちょっと待ってとジョエルがパイを持ち上げて大きな口でかぶりつく。

頬をふくらませてもぐもぐ食べているジョエルが、なんだか小動物に見える…。

皿の上のパイが何切れかあっという間に消えていく。

ジョエル、もしかしてお腹すいてる?

昨日のことが終わった後、今までずっと後処理してたのかしら。


「…リリーだよ。側妃はリンドー公爵の娘なんだが、王女しか生まなかった。

 それとリンドー公爵の縁者には、僕の婚約者にできるような令嬢がいなかった。

 リンドー公爵の息子夫婦の子は男だけだった。


 だから、他国のリリーに目を付けたんだ。

 他国の王族以外の貴族を正妃にする場合、

 その後見になるという理由で公爵家の養女になるという慣例がある。

 リリーを養女にした上で正妃にして、今度こそ権力を握りたかったんだろう。

 あの魔力封じの首輪は王宮の宝物殿で厳重に管理されていたものだった。

 側妃が盗み出したらしい。手を貸した文官も捕まえてある。

 …そうまでして、権力を欲しがる気持ちが僕には理解できない。」


「そうだな。俺にも全く理解できない。」


私やシーナ、シオンもうんうん頷く。

そこまでして、というよりも権力を欲しがる気持ちが理解できない。

権力なんて持って、何をしようというのだろうか。

…もしかして。



「ねぇ、ジョエル。

 もしかして、リンドー公爵は戦争しようとしていた?」


「…よくわかったね。そうだよ。

 ロードンナ国の一部の貴族は戦争して国を大きくしようと考えている。

 魔術師が多い我が国なら、簡単に他国を制圧できるだろう、なんて言ってね。

 制圧した後に国を治めていくのが、どれだけ難しいか考えもしない。」


「やっぱり…だから、こんなに強引な手を使ったのね。

 私のことも欲しかったのかもしれないけど、

 私を正妃にすることで国同士の争いにしたかったのね。」


「そんなことで俺たちに手を出すとは…。」


あ、またレオの機嫌悪くなった。

ミートパイ食べた時はちょっと口元緩んでたのに。

みんなの好きなものを作ろう期間は長くなりそう…。



「で、この後は国に戻って後処理の続きか?」


「うん、せっかくだから、その周りの貴族たちも一斉に処罰しようと思って。

 貴族が力を持ち過ぎたんだよ。

 おかげで、平民たちが暮らしにくくなっている。

 王家の力を強くしたいわけじゃないけど、

 平民を虐げる貴族をすぐに処罰できるくらいには、僕は力を持っていたいんだ。」


「ジョエルらしいわ。

 そうね、持ち過ぎた力は制御するのが難しいけれど、ジョエルなら大丈夫だわ。」


「そうだな。俺たちは権力から逃げてしまったけど、

 そういう使い方なら悪くないと思うよ。」


「二人はもう王宮には戻らないの?」


「俺たちは居ない方が、この国が正常になると思う。

 それに、俺たちは王族じゃなくても魔術師として力を持ってる。

 何かあれば魔術師として動くよ。」



「ああ、そうだな。今回みたいに、でしょ。」


「そうよ。だから、もし何かあれば相談してね。

 友達なんだから。」


「ありがとう!…頑張ってみるよ。

 そうだな、逃げていた婚約者選び、さすがにこれで逃げられなくなりそうなんだ。

 四人に紹介できるような令嬢を探してみるよ。」


「楽しみにしてるわ。」


「まぁ、リリーみたいなのはいないだろうけど。」


「姫さまみたいな令嬢はいませんよ。」「いないな。」


「俺のリリーは特別だからな。」


レオ、そこでそんな風にいうのは反則です。

もう何も言えなくなってしまって、目の前のパイを頬張る。

たぶん顔が赤くなっちゃってるけど、気にしたら負けな気がする。



お腹いっぱいになるまで食べたジョエルは満足そうに帰って行った。

私たちも魔女の森に戻らないと。

お茶の後を軽く片付けてマジックハウスをしまう。

魔女の馬車に乗って帰るつもりだったけれど、どこにも見当たらない。

どうやら魔女の馬車はマジックハウスをしまうと、一緒にしまえるようだ。


「じゃあ、転移して帰ろう?」


「うん。」


レオと手をつないで魔女の森へと転移する。

後からシーナとシオンも転移して来る。


いなかったのは数日だけなのに、なんだか久しぶりに戻ってきた気がする。

また同じ場所にマジックハウスを設置すると、ようやく落ち着いた気持ちになった。


「なんだか、疲れちゃったね。」


「大量にパイを食べたから夕ご飯はいらないよね。

 じゃあ、もう寝ようか。」


そう言いながら、レオは私の身体をひょいと抱き上げた。

え?と思ってると、そのまま二階の部屋に連れていかれた。

…説教の続き?とか思っちゃダメだった。


ジョエルの正妃にって話、かなり気にしていたんだ。

思ってた以上にレオの気持ちがゆらいでいたみたい。

苦しそうな顔できつく抱きしめられて、背中のボタンをはずされていく。

ここにいるよ、私はレオのものだよって、何度も言いながら。

お互いを確かめ合って、深く眠った。




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