29.捕縛
「さて、話は聞いていたけど、ジョエルもういいよな?」
「いいよ。もう証拠はそろったから。捕まえちゃって。」
後から部屋に入ってきたジョエルを見て一瞬だけエヴァンの表情が変わったが、
それでも堂々と自分は関係ないと言い張った。
「何のことですか?ジョエル様。
私はただリリーアンヌ様を王妃にお迎えする話をしていただけですよ?
ねぇ、リリーアンヌ様?」
まだ私への脅しは有効だと思ったのだろう。
余計なことは言うなという意味なのか、私に向かってにこにこと話しかけてくる。
そうだ、先ほど脅されたことへはまだ何も解決できていない。
私がロードンナ国に行かなければ、この街の人々に被害が出る。
もしエヴァンの脅しが本当なら、この街だけでは済まないかもしれない。
そのことに思いついて青ざめていると、レオが大丈夫だと私の背中をなでる。
レオはエヴァンへ厳しい顔を向けたまま言い放った。
「まだ、何も知られていないと思ってるのか?
お前の手下たちは全員捕まえて、すでにロードンナの牢に転移させたぞ。
この国の者たちを害するために獣を街に放った罪でな。」
「なんですとっ。何の証拠があって!」
「あの獣から魔術の痕跡が見つかったよ。
あれはネズミを巨大化させていただけだな?」
「…そうだったのですか。獣はネズミでしたか。
ですが、その魔術は私とは関係ありませんよ。」
「さきほど、リリーを脅していただろう?
部屋の外から全て聞いていたし、あの会話は魔石に記録してあるぞ。」
「…っ!」
もう言い逃れできないと思ったのだろう。
エヴァンが転移する気配がわかった。
だが、転移は出来ない。
ここにレオが入ってきた時点で、シーナの結界が張られているのを感じていた。
シーナの許可がなければ、勝手に外には出られないようになっている。
「…どういうことだ!?」
「お前はもうどこにも行けないよ。」
レオが手をかざすと、さきほどエヴァンが持っていた魔力封じの首輪が宙に浮いた。
そのままシュッと消えると、エヴァンの首におさまった。
首輪は一瞬強く光り、エヴァンの魔力が封じられていく。
「…うぁ…あぁあああ。」
魔力のほとんどを吸われて、強い喪失感で立つことも難しくなったのだろう。
膝から崩れ落ちるようにエヴァンが座り込んだ。
レオがそんなエヴァンの頭を掴んで、上を無理やり向かせる。
「お前に指示を出したのは誰だ?
こんな魔力封じなんて魔術具、用意できるのは誰だ?」
今までいろんな魔術具を見てきたが、魔力封じの首輪は初めて見た。
話に聞いたことはあっても、伝説の物だと思っていたくらいだ。
ただの魔術師が簡単に用意できるものではない。
「言えないなら、少しずつお前の身体を凍らせても良いんだが?」
レオが少しずつ魔力を流していくと、エヴァンの指が一本ずつ色が変わっていく。
一気に凍らせることも簡単にできるのに、脅すためにじわじわと凍らせているのだろう。
右手の肘上まで凍り付いた時、エヴァンが悲鳴を上げた。
「…ひぃっ。わ、わかった。話します!
指示していたのは…リンドー公爵と側妃様です。」
リンドー公爵は予想していたけど、側妃も?
「そうか、そのことは後で証言してもらうぞ。
シーナ、結界を解いてくれないか?
エヴァンもロードンナの牢に転移させるから。」
「はーい。どうぞ。」
シーナの結界が無くなると、ジョエルが転移の術をかける。
すぐにエヴァンの姿も見えなくなった。
エヴァンが消えたことにほっとして力が抜けると、レオが私の身体を支えてくれる。
心配そうに顔をのぞきこんでくるのを見て、終わったんだと実感した。
「リリー、大丈夫だった?
部屋の外で会話は聞いていたから、
乱暴なことをされていないのはわかっていたけど。」
「そうなんだ…みんな部屋の外にいたんだ。」
だから早く呼べ、だったのね。
あんなに悩んだ私が馬鹿みたいだわ。
「さて、リリーにはちゃんと説教しないとね。」
「え。」
レオが笑顔だけど、怒りの冷気がただよってるのか見える。
シーナに助けを求めようと思ったら、同じような笑顔だった。
え?と思って、シオンを見る。
そして、シオンまでも冷気をただよわせているのを見てあきらめた。
「…ごめんなさい。」
「話はマジックハウスに行ってからにしようか。
ジョエルはどうする?」
「リリーへの説教に僕は興味ないから、こっちで後処理しておくよ。
明日には終わると思う。そしたらマジックハウスに顔出すから。」
「了解。」
そのままレオに抱き上げられ、転移させられる。
目を開けるとマジックハウスで、それからのことは思い出したくない。
ただ、これからは勝手に囮になったりするのはやめようと、固く誓った。




