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28.誘拐犯

小さな部屋の中に転移させられて、まず人の気配が周りに無いか確認した。

周囲にはいなそうだが、部屋の外には何人かいそうだった。

下手に出ていくよりは、ここで待っていた方が良さそうだ。

そのほうが言い逃れができないだろう。


半刻ほど待っただろうか。

部屋のドアが開いたと思ったら、数人が中に入ってきた。

その先頭にいた人物を見て、脱力してしまう。


「…エヴァンだったかしら?」


ロードンナ国の魔術師が犯人だとは思っていたが、それがエヴァンだとは思っていなかった。

まさか、そこまで愚かではないと思っていたのだが…。

予想を裏切る愚かさに、一瞬迷ってしまう。

ロードンナ国がこんな状態だとは…ジョエルは大丈夫なんだろうか。


「リリーアンヌ様、お目覚めでしたか。

 無理に転移させてしまったので、意識を失っているかと思っていましたが、

 さすがリリーアンヌ様ですね。耐性がおありでしたか。」


「まず、どうして私を転移させたのかしら?答えてくれる?」


当たり前の質問だと思うのに、エヴァンは心底疑問だという顔をする。


「この国はリリーアンヌ様の居場所ではありません。

 正しい場所へお連れするために転移したのです。」


「正しい場所?」


「はい。ロードンナ国の王妃、という居場所です。

 あなたは王弟妃などという何の役にも立たない地位にいていいはずがない。

 国王の正妃となって、初めて本当の価値がわかるのです。

 ここ二年程は王妃となられたのかと思って安心しておりましたのに、

 王妃代理だっただけなどと…

 どこまでリリーアンヌ様を馬鹿にする気なのか。」


二年の王妃代理は、ただの代理だ。

なのに、周りには代理だと思われていなかった。

おそらくレオを国王に、私を王妃にしたい貴族たちが、

あえてそういう噂を流したのだろう。

そしてその数が多かったからこそ、それが真実だと思われてしまっていた。


だけど、他国でそのことをこんな風に考えているものがいるとは…。


「私は王妃でいたいなど、一度も思ったことは無いわ。」


「リリーアンヌ様が思うか思わないかではないのです。

 正しいか、正しくないか、の違いなのですよ。」


もうエヴァンが何を言いたいのか、まったく理解できない。

どうして私のことなのに、私の意思は必要とされないのだろう。

こうした貴族的な考えが大嫌いだからこそ、王妃という立場を望まないというのに。


「あなたは王妃になるべく生まれたお方だ。

 それを王妃にしないなどと…ありえません。」


「エヴァン、あなたの意見はそうであっても、私は王妃にならないわ。

 ここから帰らせてもらうわね。」


もう話にならないし、これ以上付き合っていても仕方ない。

犯人もわかったことだし、帰ってレオとジョエルに何とかしてもらおう。

すると、エヴァンは後ろにいた者たちに合図を出した。

二人が部屋の外に出ていく。何をする気なのだろう。


「リリーアンヌ様が帰られると困るのですよ。

 ですから、自発的にここに残られるようにしましょう。」


「…何をする気なの?」


「簡単です。

 リリーアンヌ様がおとなしくロードンナ国に一緒に行くと言うまで、

 あの獣を外に放ちます。」


「え?」


「今まで、あの獣には人を傷つけることが無いように制限をかけておりました。

 その制限をつけずに、外に放しましょう。」


「そんなことをしたら被害が出るわ!」


「そうですよ?リリーアンヌ様のせいです。

 早く承諾してくれないと、何人死ぬかわかりませんね。」


「…っ。」


なんてことを。

私がロードンナ国に行くというまで獣をけしかけるというの!?

あの大きな獣が人を襲うようになったら、どのくらい被害が出るか予想できない。

こんな街中で、人を襲い始めてしまったら…。

血の気が引いていく…どうしよう。どうしたいい?

私が危なくなっても転移して帰れば終わりと思っていたのに、

街の人を人質に取られて、身動きが取れなくなっていく。


「わかってもらえましたよね?

 お優しいリリーアンヌ様が街の人間を見捨てるなんてできませんよね。」


心からの笑顔を見せて、エヴァンが近づいてくる。

何か手に持っているのが見えた。


「…それは何?」


「これですか?魔力封じの首輪です。

 転移してどこかに行かれたら困るので、

 これをつけておとなしくしていただきます。

 もちろん、王妃になる方に危害をくわえるような真似はしませんので、

 そのことはどうかご安心ください。」


何をどう安心しろと言うのか。

エヴァンが近づいてくるが、対抗策が思いつかない。

だけど、あの首輪をはめられたら、逃げることもできなくなる。

今すぐ逃げてしまいたい。でも逃げたら獣が人を襲う…。どうしたら。

思わず目をぎゅっと閉じて、つぶやく。


「…レオ…助けて、レオ。」



「遅いんだよっ。」


ぎゅっと抱きしめられたと思ったら、その匂いに安心して力がぬける。

レオが来てくれた。目を開けると、レオとみんなが部屋に来ていた。


「レオ!」


抱きしめられていた腕がゆるんで、離されたと思ったら、涙をぬぐわれた。

レオを見上げると、あきらかに目が怒ってる。


「もっと早く呼べよ。」


「だって…。」


「ホントですよ、姫さま。もっと早くに呼んでください。」


「…シーナ。」


「泣くくらいなら、早く呼べばいいのに。」


「シオン…みんな、ごめんなさい。」


三人とも怒ってる。かなり怒ってる。

勝手に囮になったりしたから、後で怒られるだろうとは思ってたけど、

無事に帰ればいいだろうと軽く思っていたのだ。

それがこんなに窮地におちいるとは思わなかった。


「さて、話は聞いていたけど、ジョエルもういいよな?」


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