27.追跡(レオルド)
「レオ、落ち着け。」
「…ああ、わかってる。」
目の前で黒い布に包まれてリリーが消えた。
どこかへ転移させられたのだろう。
おそらく、リリーはわざと逃げなかった。
犯人の魔術師に会うためだろう。それはわかっている。
それでも、俺の目の前でリリーが連れ去られたことに腹が立って仕方ない。
「ジョエル、リリーの行き先はすぐわかる。一緒に来るか?」
「もちろん。犯人はうちの国の者だろう。
僕が一緒にいたほうが、後々のことを考えたらいいと思う。」
確かに、この国でリリーをさらったとしても犯人がロードンナ国の者なら、
すぐさま処罰するのは難しい。
だけど、その場を王太子であるジョエルが見ていたと証言したら、処罰しやすくなるだろう。
相手が魔術師ならなおのこと。
「転移してリリーがいる場所に行くことは出来るけど、
それだと相手に逃げられるかもしれない。
場所はわかるから、こっそり近づいて様子をうかがう。」
「…いいのか?今すぐ転移していきたいんじゃないのか?」
「そりゃそうだよ。だけど、リリーだって魔術師だ。
自分の安全は確保できる。
それよりも、こんなことが何度もあったんじゃ俺の心臓がもたない。
この一回で確実に相手を捕まえたいんだ。」
今すぐにでも転移したい気持ちをおさえるので精いっぱいだ。
転移を使わないように押さえつけている腕が痛いが、その痛さが無かったら冷静でいられない。
勢いのまま転移してリリーを連れて帰りたい。
だけど、リリーは考えがあって、わざと捕まったのだろう。
それを台無しにするのはダメだと思う。
…もちろん、これが終わったら、きっちり説教はするけれど。
「…シオン、あれって大丈夫なのか?
レオめちゃくちゃ怒ってるよな?」
「姫さんが悪いから仕方ない。
さっさと終わらせて、姫さんに説教しないと。」
「あ、シオンも怒ってるのか…。」
「もちろんです。姫さまにはきっちりお話ししないといけませんね。」
「…。じゃあ、早く迎えに行こうか?」
つながっている糸をたどる感覚でリリーの居場所へと近づいていく。
たどり着いたのは、街の中心地に近い宿だった。
ジョエルがそれに気が付いて、力なくつぶやいた。
「うわ…僕たちが使ってる宿だよ。
どこまで馬鹿なんだろう…。」
どうやらロードンナ国から来た一行が使っている宿らしい。
ここの一室にリリーがいる。二階からリリーの気配がするので間違いない。
ロードンナ国の魔導士がさらったのが発覚したら、すぐにでも戦争になりかねない事態なのだが、
どこまで予測して動いているのだろうか。