表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/93

26.黒い布

ジョエルがマジックハウスを訪ねてきたのは、深夜になってからだった。

おそらくその日のうちに話しに来るだろうと思って待っていたが、

ここまで遅い時間だとは思っていなかった。

みんなが眠そうな顔をしているのを見て、眠気覚ましのお茶の準備を始めた。


「ごめんね、こんなに遅い時間に。…なかなか抜け出せなくて。」


「ああ、あの男がしつこかったんだろう?

 もうマジックハウスには入れないように設定してあるし、

 入れない人間には見つけることもできない。

 ここにいる間は安心していいぞ。」


「はぁぁ。良かった。少し休ませて…。」


よっぽど疲れているのだろう。

ジョエルはソファに横たわると、そのまま顔だけ上を向けて話し始めた。


「黒い布が獣に巻き付いて消えたって言っただろう?

 黒い布を使う魔術の話は聞いたことがあるんだ。

 リンドー公爵の下に、黒い布を使う魔術師がいるって。

 実際にその魔術師を見たことは無いが、いることには間違いない。」


「じゃあ、今回の事件はその公爵が裏で関わっているってことか?」


「ああ。僕がここに来たのも議会の誘導だって言っただろう?

 もしかして、今回の件の目的はリリーかもしれない。」


「私?」


急に話を振られ、用意していたお茶をこぼしそうになる。

シーナに慌てて支えられ、お茶のセットを渡す。


「僕を無理にでもこの国に来させる用事なんて、

 リリーのこと以外無いだろう。」


「俺とリリーなら事件の対応に来ると予想されてたってことか?」


「多分ね。

 この国の魔術師は少ないし、二人が気にする可能性は高い。

 実際に二人は来ただろう?

 それに王宮から出てるから、今ならリリーを狙えると思ったんじゃないかな。」


「そうか…

 じゃあ、次はそんなことを考えないように、

 その魔術師を徹底的にたたかないとな。」


ねらいは私…。この事件も?

獣が暴れた馬小屋を思い出す。ぼろぼろに崩れた屋根。傷ついて倒れていた馬。

もう少し逃げるのが遅かったら、人が傷ついていたかもしれない。

それが全部、私を隣国に連れて行くために仕組まれていた?


「…許せない。」


「あ、やばいな。リリーが怒ってる。」


「姫さん、こういうの嫌うからな…。」


「…姫さまから目を離しちゃダメですね。おそらく暴走しますよ。」


「え?僕、言わない方が良かった?」


早く見つけて捕まえないと。

自分のことが原因で傷つくのは許せない。

それに、意思を無視してジョエルの正妃に迎えようだなんて。


絶対に捕まえて、そんな考え全部つぶしてやるんだから。






「姫さま~本当に変化しないで行くおつもりですか~?」


「そうよ。だって、私が目的なんでしょ?

 私がいたら獣が出てくるんじゃない?

 このまま探して歩くよりも早いわよ。」


「それはそうだろうけど。獣が出た後は後ろに下がれよ?」


「わかってるわ。獣が出たらレオとシオンに任せるから。」



昨日とは違い、私とレオは変化せずに街に来ていた。

と言っても、街の中心に行くと侯爵家に知られる可能性がある。

街はずれの人が少ないところをねらって動いていた。


夕暮れが近づき、今日は獣とは遭遇できなかったとあきらめかけていた時、

通りがかった馬車の後ろから急に獣が姿を現した。

昨日とは毛の色が違うし、大きさも違う。

目の前にいるのは黒い目で茶色の毛が長い獣だった。大きさは馬くらいだろうか。

昨日とは違う獣がいるとは思わなかった。一体、獣は何匹いるのだろうか。


「リリー、下がって!」


「姫さん、シーナと一緒にいて!」



レオとシオンに同時に下がるように言われる。

そんなに下がってって言われると、邪魔にされているようで少し面白くない。

私って、そんなに頼りないのかしら。

一応は魔術師として幼少の頃から修行しているのに。

まぁ、攻撃魔術は確かに得意ではないけど…。


シーナと一緒に獣から少し遠ざかる。

獣を見ると、昨日とは違ってあまり暴れる様子はない。

レオとシオンに凍らさせられて、今回の獣は完全に凍り付いた。

近づいて見ても大丈夫だろうか?せめてどんな獣なのかは知りたい。


「昨日とは毛の色が違うのよね…。」


「目の色も違いましたよね?違う獣の種類なんでしょうか。」


シーナと二人で観察していると、ジョルノが来たらしい。

レオに話しかけて、獣の様子を聞こうとしている。

私たちもそちらに行って話を聞こうと歩きだした時に、レオに叫ばれた。


「リリー!危ない!」


身体の周りに黒い布がぐるぐると巻き込んでこようとしてる。

気が付くのが遅かったか、視界を遮られてしまった。

逃げるか迷ったが、そのまま黒の布に巻かれることを選んだ。

転移させられた先には、きっとその魔術師がいる。

私が目的なのだとしたら危害を加えられることも無いだろう。

黒の布に巻かれた先から、魔力が吸われて行く。

ふわっと身体が浮いたと思ったら、真っ暗な視界の中、転移する感覚だけがわかった。




転移した先はどこかの宿の中のようだった。

寝台と机、ソファが置かれただけの小さな部屋。

人の気配は無い…。

帰ろうと思えばすぐに転移して帰れるのだけど、

ここに連れてきたのは誰か、それを確かめなければ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ