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25.大きな獣

大きな獣の捜索は困難かと思われたが、

数日後、話を聞きに行った住宅地で遭遇することになった。


もうすぐ夕方になる時間、住宅の横にある馬小屋を突き破るように大きな獣が現れ、

住民に話を聞いていた私たちにも、その音と悲鳴が聞こえてきた。

逃げてきた住民たちを避けながら馬小屋にたどり着くと、

黒い毛でおおわれた赤い目の大きな獣が、手当たり次第に体当たりして建物を壊している。

自分の身体が傷ついているのに気が付いていないのか、獣の身体のあちこちから血が出ていた。

大きさは馬よりもはるかに大きい。これほど大きい獣は見たことが無かった。



レオに目配せすると、すぐにうなずいて鳥を放つ。

シーナとシオンとは別れて行動していた。

私とレオは、シーナとシオンに変化していても目立つと言われてしまった。

双子というのも無理があるだろうと。

シーナとシオンは双子なのに似てないじゃないと言いたかったけど…。

そのため四人一緒に行動するとより目立つだろうと、二組に別れて行動していた。


何かあった時に転移で合流できるようにと、お互いの位置は確認し合っている。

レオの鳥が届いたのだろう。シーナとシオンが転移してきた。


「レオ、こんな獣を今まで見たことあるか?」


「いや、無いな。しかも、目が正気じゃなさそうだ。

 こっちを認識していないと思う。」


「俺もそう思う…どうする?

 このまま暴れさせとくのはまずいよな。」


「凍らせよう。とりあえず、確保して調べたい。」


「わかった。」


レオとシオンが二手に分かれ、両側から氷凍の魔術をぶつけていく。

私とシーナは獣が逃げられないように、左右と後ろに土の壁を作り出していた。

暴れていた獣も体温が下がったためか、動きがだんだん遅くなり、止まった。

もう少しで凍り付く…と思ったときだった。

どこからか大きな黒い布が飛んできて、獣にくるりと巻き付いていく。


「…っ。なんだ!?」


黒い布が獣の身体全体に巻き付いたと思ったら、

急にすべてが消えて見えなくなった。一瞬の出来事だった。


「え?消えた?」


近づいて見ても獣のかけらすら無かった。

土の壁の中に凍った跡はあったが、毛すらも残されていなかった。


「もしかして、獣を転移させた?」


「獣を操っている者か?

 転移させて、また他のところで暴れさすつもりなのか?」


わからないことだらけだった。

結局、何の獣かもわからないし、操っている人もわからない。

飛んできた黒い布の正体もつかめず困り果ててしまった。




「レオ、獣はどこだ!?」


崩れかけた馬小屋の隙間からジョエルが入ってきた。

レオから連絡を受けて来たのだろう。

だが、ジョエルが到着して時には、もう獣の姿は無かった。


「獣は…消えた。」


「消えた?」


「そうなんだ。

 黒い布が飛んできて獣を包んだと思ったら、その布ごと消えてしまった。

 獣を転移させたのではないかと思うんだが…。

 凍り付いて弱っている獣を転移させる理由がわからないな。」


ジョエルが来たことで、レオと私の変化は解いていた。

シオンとシーナの顔が二つずつ並ぶと、中身はレオと私だとわかっていても話しにくいからだ。


「黒い布か…なんとなくわかってきた気がする。」


「心当たりがあるのか?」


「ああ。だけど、今ここで話すのはまずいな。

 あとでマジックハウスに行ってもいいか?

 エヴァンをまいてきているんだ。ここに来られるとまずい。

 とりあえず、ここは撤収しよう。」


エヴァン…あぁ、それは会いたくないわね。


「よし、撤収しよう。」


全員で頷いて、すぐに撤収しようとする。

だが、少し遅かったようだ…。


「ジョエル様!お一人で行動するのはおやめくださいと…。

 リリーアンヌ様とご一緒でしたか!

 逢瀬でしたら、言ってくださればよかったのに。」


飛び込んできたと思ったらまくしたて、私を見て笑顔になるエヴァンにうんざりする。

そっとジョエルから離れて、レオの後ろに隠れる。

何も言わないで転移すればよかったのに、つい言い返したくなってしまう。


「逢瀬ではありません。

 獣が出たので、確保しようとしていただけです。」


「獣?いないじゃないですか。

 恥ずかしがらなくてもいいのですよ?

 ジョエル様に会いたかったのでしょう?」


「違います!」


あぁ、もう。この人の思考回路、絶対におかしい。

レオがイライラしているのがわかる。

でも、一応他国の王太子の側近。勝手に処分したらまずいし…。


「…レオ、帰ろう?もうここにいたくない。」


「リリーアンヌ様、ジョエル様と一緒に宿に行きましょう?

 いい宿とは言えませんが、ジョエル様と一緒のほうが安全でしょうから。」


何を言ってるんだろう?さすがにジョエルが怒りだしてしまった。


「エヴァン、いいかげんにしろ!国の争いに発展させるつもりか!」


「ジョエル様が弱気なのが悪いのです!」


まったく話を聞いてくれそうになかった。

無言でレオの服を引っ張ると、そのまま転移してマジックハウスに戻る。

その後すぐにシーナとシオンもマジックハウスに戻ってきたが、そのまま全員でソファにぐったり座る。


「ああ、もうやだ…疲れた。」


「同感…もう会いたくないね。」


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