24.連絡(レオルド)
リリーがシーナに変化できるようになった頃、街に行ったシオンから連絡が来た。
白い小鳥がマジックハウス内に飛び込んできて、俺の前で止まり小さな紙に変わった。
開いて中を確認すると、リリーにも伝える。
「リリー。街でシオン達がジョエルに会ったそうだ。
俺たちと話したいと言ってるから、マジックハウスに連れて来ていいかと。」
「ジョエルが?一人で来ているわけじゃないわよね?」
「違うだろうな。さすがに王太子が他国に一人で来たりしないだろう。
お忍びだとしても、数人の護衛は連れているはずだ。」
「ここ、魔術師以外入れないわよ?」
「…そうだった。じゃあ、ジョエルが一人で来れるならいいって返事するか。
無理なら、後日どこかで会うってことで。いいか?」
「うん。ジョエルだけなら久しぶりだし会いたいわ。」
ロードンナ国の議会のこともあるし、ジョエル以外には会いたくないよな。
俺も会わせたくないし、今は会わない方がいいと思う。
返事を小さい紙に書いて折り畳み、鳥にしてシオンに飛ばす。
ジョエルだけで来るのは難しいだろうから、会うのは後日かな。
と、思っていたのに、シオンとシーナはジョエルを連れて帰ってきた。
「やぁ、久しぶりだね。リリー!会いたかったよ!」
学園時代とあまり変わらない容姿のジョエルが笑顔で入ってきた。
それをリリーも満面の笑みで迎え入れる。
「一人になれると思ってなかったわ。よく来れたわね!
ジョエル、久しぶり!」
「あー大変だったよ。一人しつこいのがいてさ。
シオンとシーナに手伝ってもらわなかったら、一人にはなれなかったよ。」
思い出したのか、うんざりといった顔になる。
後ろから入ってきたシオンとシーナもそれに頷いている。
「あれはしつこかった。」「ホントです~。」
三人ともぐったりしている様子から、本当に大変だったのだろうと思う。
それを見て、すぐさまリリーがお茶の用意をし始める。
お茶と一緒に小さく巻いたクレープも出してくれた。
「あ、なになに、これ。可愛いし食べやすそう。いただきます!」
お茶を飲んでクレープを食べると、ジョエルも落ち着いたようで話し始めた。
「先日レオに会って話をしたんだけど、それは聞いた?」
「うん、聞いたわ。」
「ごめんね、嫌な気持ちになったでしょ。
しかも、そのあと王宮で大変だったって聞いて。
それも謝ろうと思ったんだ。本当に申し訳ない。
僕はレオとリリーの仲を邪魔する気なんて、まったくないから。
それだけは安心して。ただ、議会の一部が本当にうるさくて。
リリーを女神様みたいに思ってるようなんだよ…。
この前の側妃事件の結果、リリーは避妊薬を飲まされていたってことと、
レオは子どもが出来なくても離縁する気はないって手紙書いてくれたことで、
ほとんどの者はあきらめてくれたよ。」
「ほとんどの者は?全員あきらめたわけじゃないってことか?」
「うん、議長でもあるリンドー公爵と何名か。
自分たちにちょうどいい年齢の令嬢がいないんだ。
他の貴族の令嬢が正妃になるくらいなら、リリーをってことなんだと思う。」
「くだらないな。」
「まったくだ。まぁ、議会の決定はこれで断れたから大丈夫だと思う。
ただね、この侯爵領の事件おかしいんだ。」
「おかしい?」
「ああ、三日前に侯爵領に着いて調べているんだが、
そもそもこの事件はロードンナ国の領地でも起きていた。
だからと言って、僕が出てくるような事件じゃない。
それなのに僕が行くことになっていた。どうやら議会の力が動いている。
事件はレイジャール侯爵領と隣り合っているレガンナ伯爵領で、
大きな獣が現れて街の人を襲い始めたという報告だった。
それでレガンナ伯爵領で調査しようと思ったら、
僕たちが着いた途端、獣はレイジャール侯爵領にだけ現れるようになった。
これでは僕らがレガンナ伯爵領の獣をレイジャール侯爵領に追い出したように見えてしまう。
まずいと思ってこちら側に調査に来たんだ。
もちろん、こちら側に来るときに王宮には連絡をしてあるよ。」
「そうだったのか。ジョエルも大きな獣を調査しに来ていたのか。
この三日間で、何かわかったことはあったか?」
「まず、人の住んでいない地域には出ない。」
「普通、逆だろう?」
「ああ、そして怪我はさせるが死人は出ていない。
それに、ある程度暴れると消えてしまうらしい。」
「消える?」
「かなり大きな獣だという話だが、何の獣かわからないんだ。
それに消えてしまうから、目撃談だけだとまったくわからない。」
「…人が関わっている?」
「おそらくは魔術師、もしくは魔女だね。」
「消える獣か…だが、麦が荒らされているってことは実体はあるんだろう?」
「そうなんだよね。調査すればするほどわけがわからない。
どこに出るかわからないから、待ち伏せするのも難しいし罠もはれない。」
「どうしようか…。」
その時、バンッとドアを開ける大きな音がして、男性が一人飛び込んできた。
「ジョエル様!やっと見つけました!」
お付きの者だろうか。
ジョエルに向かって説教を始めたのを見て、こっそりリリーに聞く。
「なんであいつは入ってこれているんだ?」
「…魔術師なんじゃないの?
ほら、お茶屋にするつもりだったから、魔術師なら誰でも入ってこれるの。」
「それ、まずくないか?」
「そうね…あの人帰ったら設定を変えておくわ。
なんだか、関わっちゃいけないような気がするの。」
「俺もだ。多分、さっき言ってたしつこい奴って、あれだろう。」
こそこそ話をしていたのが聞こえたのか、男性がこちらに気が付いた。
同時に目を輝かせて近づいてくる。
「あなたは!もしかしてリリーアンヌ様では!?
そういうことでしたか。ジョエル様との逢瀬だったのですね!」
「は?」
「いやいや、やはり素晴らしい。
このマジックハウスもリリーアンヌ様が所有されているのですな。
やはりロードンナ国の正妃にはリリーアンヌ様がなるべきです。」
「切り捨てていいか?」
リリーの前に出て、男の視線から隠す。
一瞬で現れた氷の剣に男も驚いて後ずさる。
「レオ、申し訳ない。これはすぐに引き上げさせる。」
「ジョエル様!?」
「エヴァン、レオルド王弟殿下に失礼だ。下がれ。」
「…これはこれは、王弟殿下でしたか。失礼しました。」
「エヴァンと言ったか、俺のリリーに近づくなら次は容赦しない。
切り捨てられる覚悟で来い。
同じ魔術師なら、力の差くらい見極めているのだろう?」
「…ええ、それはもう。
ですが、リリーアンヌ様は王妃になるのが相応しいお方。
その意見を変える気はありません。」
「エヴァン!いいかげんにしろ。僕はリリーを王妃に迎える気はない。」
「どうしてですか!これほど素晴らしい方は他にいません。
ロードンナ国に迎え入れるべきです!」
「無理だ。離縁する気が無いものをどうやって。」
「ですから、リリーアンヌ様にお願いすればいいでしょう。
リリーアンヌ様だって、王弟妃より王妃のほうが良いに決まってます。」
「「「「はぁ?」」」」
何だこの男は。確かにしつこい。そして、理解できない。
振り返ってリリーを見ると、あきらかに困った顔をしている。
「リリー、この男の話を聞くか?」
「嫌です。絶対に嫌です。
私はジョエルと結婚する気はありません。
ロードンナ国に行く気もありません。」
「なぜですか!?素晴らしい未来が待っているんですよ?」
「レオがいない未来など必要ありません。
もしレオが亡くなったとしても私もあとを追って死にます。
他の人に嫁ぐことなんて、絶対にありえません!」
「そんな!」
崩れ落ちる男の首根っこを捕まえて、ジョエルが引きずっていく。
「ほらほら、帰るよ。
なんで、僕にもその気がないって言ってんのに、
振られたみたいになってるんだよ。
ホントいいかげんにしてくれない?地味に傷つくんだけど。」
「あ、ごめんね、ジョエル。」
「いや、いいよ。リリーが悪いんじゃないから。
僕がこいつらを制御できないのが悪い。レオにも悪かったな。
もう帰るよ。何かあれば連絡するから~。」
ジョエルはそのままドアを開けて、帰ろうとする。
エヴァンがあきらめていないのか、「リリーアンヌ様ぁ~」と叫んでいたが、
バゴンと音をたててジョエルに後ろから頭を殴られていた。
そのまま引きずるように、帰って行ったのだが…。
「リリー、とりあえず、マジックハウスの設定はすぐに変えよう?」
「ええ、そうね。私たち以外は誰も入れないようにするわ。」
あぁ、もう、ものすごく疲れた気分だ。