23.侯爵領地の森(レオルド)
レイジャール侯爵地に着いたのは日が暮れた後だった。
森の中に着いた馬車から降りると、マジックハウスを設置するのにちょうどいい場所だった。
使い魔がそれも考慮して馬車を止めたのだろうか。
「リリー、馬車はどうするんだ?」
「マジックハウスの裏側に停めて置けば大丈夫だって。
知らなかったけど、馬車置き場みたいなのがあるって。」
それは俺も知らなかった。一緒に裏側にまわってみると、何もない。
「あれ?馬車置き場があるって言ったのに?」
使い魔が馬車を引っ張って、後ろをついてくる。
馬車が裏側にまわったところで、マジックハウスが変形した。
あっという間に馬車置き場と馬小屋が出てくるのをみて、
マジックハウスってこういうものだったのかと思う。
「リリー、マジックハウスってすごいな?」
「うん、もしかして、私の使い方じゃもったいないのかも?
もっといろんなことができるのかもしれない。」
「まぁ、とりあえず今はいいよ。
馬車も置けるようだし、使い魔を馬小屋に入れてご飯あげたら中に入ろう?
そろそろ雨が降ってきそうだよ。」
「そうね。」
次の日の朝、起きてからも雨は止みそうになかった。
「これは今日は本格的に降り続きそうだな…。
一旦、様子見るか。
この雨じゃ獣も出てこないだろう。」
「獣って、どの辺に出てくるんだ?」
「街の周辺が多いんだよ。
だから、街に行って聞いてみようと思ったんだが…。」
「レオと姫さんはダメだぞ。」
「なんでだよ?」
「隠れて動かなきゃいけないんだろう?
レオと姫さんの容姿じゃ、こっそりは無理だ。」
「シオン、どうして?町娘の格好ならいいでしょ?」
「…姫さん、服が町娘でも、姫さんは町娘に見えないよ。」
「…確かに。」
「そんな~。」
俺とリリーはダメだと言われて疑問に思ったが、確かにリリーは綺麗すぎて無理だろう。
町娘の姿だったとしても、その辺の貴族の娘よりずっと綺麗だ。
目立てば侯爵の耳に入ってしまうだろう。
俺たちがここにいるのがわかれば、大騒ぎになってしまう。
「とりあえず、俺とリリーは待機。
シオンとシーナは、買い物ついでに街の様子を見て来てくれないか?
何かあればすぐに連絡をくれ。」
「わかった。」「はーい。姫さま、おとなしくしててくださいね~。」
まだふくれているリリーに、シーナが念を押すと渋々頷いた。
これに関してはあきらめてもらわないとな…。
「さて、シオンとシーナが戻るまで、修行するか?」
「修行?久しぶりね。」
「ああ。姿を変える魔術を身につけておかないと、これから大変だからな。
俺たちのことを知ってるやつに会っても大丈夫なようにしよう。
そしたら町娘の格好で街に行けるよ。
…街に行ってみたかったんだろう?」
ふくれていた理由を知られて、恥ずかしそうにしているけどバレバレだ。
侯爵令嬢としても、王弟妃としても、気軽に街に行ける機会なんてない。
魔術師として森に行くのとはわけが違う。
学園時代も街にいたなんて知られたら、リリーに厳しい侯爵に叱られるだろう。
その時に叱られるのは、まずシーナとシオンだ。
もしかしたら離されてしまうかもしれない。
だから、リリーは侯爵家と学園と魔女の森、王宮しか知らない。
町娘の服を持っていたのも、それが理由だと思う。
実際に街に出てみたいと思っていたんだろう。でも、止められた。
拗ねる気持ちもわからないでもない。俺は今までも自由に街に出ているし。
「姿を変えれば行けるし、これからはいくらでも行く機会があるよ。
だから、今日は二人で修行して待っていよう?」
「うん、わかった。」
それから変化する魔術を探し、試してみたがなかなかうまくいかなかった。
髪の色や瞳の色を変えても、リリーは変わらず綺麗すぎた。
茶色の髪と目になったリリーが振り向いて聞いてくる。
「ね?これなら大丈夫?」
期待する目がきらきらして、
いつもと同じように可愛いリリーに崩れ落ちそうになる。
「…リリー、ちょっと落ち着いてお茶飲まない?」
「そうね…ちょっと疲れちゃった?」
リリーがお茶の準備をしてくれている間に考える。
何かいい手はないかな。
シオンとシーナなら問題なく行けるわけだし、何かいい手は…。
「そうだ!リリー、いい手があった。」
「びっくりした。ちょっと待って。そっちに行くわ。」
お茶を運んできたリリーをソファに座らせて、魔術の本を取りに行く。
確かこの辺にあったはず。あった。
「リリーこれだよ、これ。」
「姿写しの魔術?」
「そう。シーナとシオンそっくりに姿を変えるんだ。
髪と瞳の色は変えられないけど、姿はそっくりになる。
それで双子だってことにすれば大丈夫だと思うんだ。」
「え~そんなことできるんだ。じゃあ、お茶を飲んだら修行しましょう?」
良かった。これならリリーも街に行ける。
シーナだって綺麗と言われる容姿ではあるんだけど、リリーは別格すぎる。
まぁ、シーナに変化しても男どもは寄ってくるだろうから、
俺のそばから離れないように言い聞かせておかなきゃな…。