17.回想 魔女の力
「兄貴たちが俺を探している?」
「はい。今日の昼休みにあの令嬢と一緒に教室までこられて。
側近候補の令息たちも一緒でしたよ~。
レオルド様の名前を呼んでいたのですが、
私が相手をするのはまずいと思って、すぐに隠れました。
その後、他の者に声をかけて聞いていたので間違いないです。」
「魅了の令嬢と一緒にか…。
王太子の指名式の準備とか、そういうのはあるだろうけど、
そういう理由じゃないだろうな。
兄貴が直接探しに来る必要など無いだろうし…。」
「明日以降、どうしますか~?」
「シーナも学園に行かない方が良さそうだな。
王宮に連れていかれて、人質のような状態になっても困る。」
私の修行が始まって一週間が過ぎていた。
魔女の魔力を受け止めても、
自分の足で歩いてマジックハウスに戻れるようになっていた。
体力が根こそぎ持って行かれるのは変わらないが…。
身体の中の魔力を体力に変換できるようになっているらしい。
なんだかよくわからないけど、適応能力ってすごい。
「魔女が言うには、魔力量はもう十分らしいの。
明日からは違う修行になるそうだし、あと少しだと思う。
シーナが危険な目にあうのは嫌だわ。
レオを探してどうするつもりなのかは気になるけど、学園は休んで?」
「わかりました~。明日からは姫様の修行にお供しますね。」
あら、なんだかうれしそう。
やっぱり学園に一人で通うのは大変だったのかな。
あれから婚約破棄騒動が増えて、学園内の雰囲気は最悪らしいし。
令嬢の魅了を封じた後、いろいろと元に戻れるのか心配…。
私とレオの結婚式は二か月後に予定されている。
この件が無事に終わって、女王の体調が持ちこたえてくれることが条件だけど。
もし女王の体調が悪化するようなら結婚式は延期になる。
延期になるようなことがあれば、その隙に邪魔が入るかもしれない。
最悪の場合、魔術師になって二人で逃げる。
その約束があるからか、今はあまり心配していない。
「ねぇ。魔女の森に探しにきたりしないわよね?」
「魔術師じゃないと入れないし、
魔女が許可しない限り追い出されると思うよ。
何か心配なの?」
「うん。その令嬢の魔力量を考えると、
魔術師としても才能あるんじゃないかと思って。
入ってこれないならいいけど、ちょっと心配で。」
「心配なら明日修行の時に言ってみたら?
他の人を入ってこれないようにしてほしいって。
封じるために修行しているんだし、その前に令嬢に来られたら困るでしょ?」
「うん、そうだね。お願いしてみる。」
「この森に人が入ってこないようにすればいいの?いいわよ?
修行が終わるまで、誰も出入りできないようにしておくわ。
このクレープいいわね。フルーツとカスタードクリームの相性抜群!」
今日の差し入れも気に入ってもらえたようで良かった。
焼き菓子が好きなようだけど、こんな風に近くにいる時にしか出せない物も食べてほしい。
せっかく仲良くなれたのだから、これが終わっても焼き菓子を差し入れに来ようと思う。
「良かった。これで少し安心しました。」
「ねぇ、リリー?
どうしてリリーはそんなに不安で、逃げたがっているのかしら?
レオはそんなに不安にさせるような男なの?
私は基本的に男は嫌いだけど、あれはリリー以外見えていないから嫌いじゃないわ。」
「…私以外見えていない?」
「そう見えるわね。
まぁ、どう言われてもリリーがそう思わなければ意味が無いのだけど。
いつかレオから逃げたくなったら、この森に住んでもいいわよ。
さて、今日の修業で終わりにするわよ。」
「え?あと二日あるのに?」
「ええ。残りの二日はリリーの身体の変化を待つ時間。
シーナは外に出ていてくれる?すぐに終わるわ。」
「姫様に何をするんですか?危険はありませんか?」
「私の名を教えるだけよ。魔女が名前を教えるのは弟子にする時。
名を教えたものにしか名を呼ぶことは許されないし、
弟子になった時点で身体は魔女の魂を持つことになる。
あくまで弟子だから、リリーが本気で望んで修行しなければ本当の魔女にはならないけどね。
仮の魔女ってところかしら。
封じるための目を持つためにどうしても必要なのよ。」
「わかったわ。シーナ、ちょっと外で待っていてくれる?」
「…わかりました。」
まだ心配そうな目をしたシーナに、外に出ているようにお願いする。
心配なのはわかるけど、どうしても必要だと言われたらそれを信じるしかない。
魅了を封じない限り、私たちはこの森から出られない。
それはそれで楽しいかもしれないけど、やっぱりそれは困ると思うから。
シーナが外に出行くのを確認して魔女に向き直る。
「それで、何をすればいいの?」
「聞くだけよ。ただ、聞いた後は倒れると思うわ。
ちゃんとマジックハウスに送り届けるから安心して?
二日くらい寝て、目覚めたらもう魔女の弟子になっているから。
魅了の封じ方は起きた後に説明するわ。
じゃあ、いくわよ?
私の名はレベッカ。孤高の魔女。癒しの森を持つもの。
リリーアンヌ、あなたを私の弟子と認めるわ。」
その瞬間、光の渦に巻き込まれ流されていく。自分の手足すら見えない。
思考だけが残り光のその先へと連れていかれる。
これは何?私はそこに連れていかれているの?
大丈夫だから。そのまま流されて行きなさい…魔女の声が聞こえる。
魔女レベッカ、名前を聞くだけでこんなことになるとは。