13.朝、目覚めたら
目が覚めたら、抱きしめられているままだった。
こんな気だるさの中でレオを感じて起きるのは、いつぶりだろう。
息がかかったらくすぐったいかな、なんて思うほど近くにレオの素肌がある。
どうしよう、レオを起こしたくない。
でも、顔が見たい。
どうにか身をよじって、顔を出す。
そこには笑いをこらえたレオの顔があった。
「やだ。起きてたのなら、腕をゆるめてよ。」
「だめ。俺の腕の中に、ずっと閉じ込めておきたい。
逃げていいって言ったけど、捕まえるって言ったよ?」
「もう…ごめんってば。
逃げないよ、もう。
だから、意地悪しないで?」
昨日のレオは泣きながら私を抱いた。
そんなことは今まで無かった。それだけレオを傷つけたのだと思った。
私が寂しかった以上に、レオが寂しかったのかもしれない。
そんなのは思い上がりかもしれないけど、そうとしか思えなかった。
「意地悪じゃないよ。
抱きしめていちゃだめ?リリー。
俺の腕の中に、いてほしいだけなんだ。」
そんな風に言われたら、もうダメだ。
こんなに好きな人に、そんな風に言われて、逆らえる人なんているんだろうか?
「わかった。
このままでいいよ。
でも、私もレオの顔が見たいから、すこしだけ緩めて?ね?」
腕は緩めてくれたけど、そのままキスされて、ちっとも顔が見れなくなった。
でも、何も抵抗する気なんてない。
息苦しくても快感が過ぎても抱きしめる腕の力が強すぎても。
レオが隣にいてくれる。それ以上に理由は無かった。
良かった。良かった。ただ、そうとしか思えなかった。
あまりの安心感で、昨日の夜にいつ気を失ったのかもわからない。
起きたら、レオがいた。
レオがいた。
それが、ただうれしかった。
お昼もとっくに過ぎて空腹が我慢できなくなって起きたら、
シオンとシーナがご飯を準備して待っていてくれた。
「ようやく起きたか~。」
「遅いです~姫様。お腹すきましたよ~。」
どうやら二人ともお昼ご飯を食べずに、私たちが起きるのを待っていてくれたらしい。
「ごめんごめん。じゃあ、食べながら話そうか。」
レオがそう言って、みんなで席に着いた。
話したいことは多いけど空腹には勝てず、用意してもらったご飯を食べることにした。
シーナとシオンが用意してくれた昼ご飯が半分になった頃、
ようやくお腹も落ち着いてきたのかレオが話し始めた。
「それで、王宮は出てきたから、もう帰らなくていいよ。」
「え?」
王宮を出てきたって、レオ?
「ちょっと遅くなったけど、予定通り公爵になってきた。ギルギア公爵。
だから、リリーも今の身分は公爵夫人ね?
で、もう頭きたから後宮の扉も粉々にぶっ壊してきた。
もう二度と閉じこもれないようにね。
今ごろは国王と王妃に仕事するように、
文官や女官が必死で説得してるんじゃないかな。」
「え?…ええぇ?」
理解が追いつかない。
え?側妃の件が誤解なのは聞いたけど、これらは初耳なんだけど。
「レオ様、説明が雑過ぎです。
姫さまにもわかるように説明しなきゃダメですよ~。」
シーナがのんびりとレオに注意する。
あれ?シーナが驚いていないってことは、シーナとシオンは知っていたってこと?
「レオ?なんだかよくわからないから、最初から説明し直して?
側妃のことが誤解だったのは聞いた。
でも、何がどう誤解だったのかは聞いていないわ。」
「あぁ、そうだな。そこからか。
あの日、俺は出かけていて私室にいなかった。
でも、文官たちに説明するのがめんどくさかったから、
身代わりでジョンを置いていったんだ。
たまたまその日に伯爵家が雇った侍女が媚薬を盛って、
ジョンが罠にはまってしまった。
起きたら隣に女が寝ていて純潔を散らした跡があるって、
真っ青になって俺に報告にきたよ。
で、実際に抱いたのがジョンでも俺の私室だし、
ちゃんと証拠集めないとまずいなって。
謁見室にうるさそうな貴族たちみんな集めた上で、
その令嬢に相手がジョンだったって証言させて、
侍女が薬盛ったことも証言させた。
伯爵と令嬢は捕まえて牢に入れてある。
おそらく二人は処刑で伯爵家は取りつぶしだな。」
「え?処刑なの?」
「あぁ、ジョンに媚薬盛っただけじゃなく、リリーにも盛ってたんだ。
避妊薬を四年間。毒薬じゃないから気づけなかった。」
「避妊薬…。」
「…姫さま、避妊魔術かけてますよね?」
「うん。でも、ほら、公表してないから。」
「たとえ、薬が効かなかったとしても王弟妃に薬を盛るのは重罪だからな。
ここで処罰を軽くして、王妃に盛られても困るだろう?
リリーに効いていなくても、今後の王弟妃のこともある。
見せしめの意味もあるだろう。」
「…そっか。そうよね。私じゃなかったら大変なことよね。」
国王と王妃に子どもが生まれて落ち着くまで、私たちは子どもを作るつもりが無かった。
だからずっと避妊魔術をかけていた。
女官に知られるとうるさいから、こっそりと。
「そんなに側妃になりたかったのかしら。」
「いや、それだけじゃないと思う。覚えてないか?伯爵家のミリナ。
あの魅了の子だよ。
リリーを恨んでいるようだった。」
「あの令嬢!?」