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11.待ってる時間

「リリー、もう少しだけ待ってて。

 この跡が消える前に迎えに来る。

 …逃げないで待ってて。」



そう言われてから、レオを待つ時間は長く感じた。

それでも、一昨日までのつらい時間とは全く違った。

レオが他の令嬢を抱いていない。私を裏切っていなかった。

それがわかった今は、早くレオに会いたかった。


誤解して逃げた私が悪いのか、

誤解されるような真似をしたレオが悪いのかはわからない。

でも、誤解だった、そのことだけが大きかった。

レオに問い質すこともできずに逃げてきたくせに、

早くレオの口から誤解だよって聞きたくて仕方がない。


レオは、今でも私の、私だけのレオ?

会って聞きたかった。

抱きしめて、そうだよって言ってほしかった。



時間はただ過ぎていくけど、今の私にできるのはお茶屋の準備だけ。

レオが好きだった具沢山のトマトスープ。

レオが好きだった焼きたてのスコーン。

レオが好きだった鶏肉のサンドイッチ。

作るたびに、レオとの思い出があふれるようだった。

ここ二年は忙しすぎてレオに作ってあげる時間も無かった。


どれも、レオが喜んですごく食べてくれたもの。

気が付かないうちに、レオが好きなメニューだらけだった。


レオから逃げていたつもりだったけど、本当は待っていたんだろうか。

私が逃げても迎えに来るって言ってくれていた。

だから、レオなら迎えに来れる魔女の森にきたのかもしれない。


側妃を迎えたって聞いて、悲しかったし寂しかった。

レオに裏切られた気持ちでいっぱいだったけど、

心のどこかでは、私が逃げたら迎えに来てくれるんじゃないかって。



一人でいると時間が過ぎるのが遅いな。

静かな部屋で、私が調理している音だけが響いてる。

午後のお茶の時間にもまだ早いし、お腹もすいていない。

これが終わったら、何をしていればいいんだろう。



スコーンの生地をオーブンに入れて、焼き始める。

私にできるのは、いつも通りの作業をして待つこと。

もう王宮は出てきてしまっているし、私から戻ることはしたくない。

待つしかできないけど、その間にできることは限られていた。


気が散ってしまって、魔術書を読んでも少しも頭に入ってこない。

会話する相手がいれば少しは気が紛れるのに、二人ともいなかった。

シオンは買い出しかしら。シーナもどこにいるのか見えない。

いつもなら必要以上にそばにいようとするのに…。

一人でいると暗いことばかりを考えてしまう。



あぁ、もう。泣きそう。

自分でここに逃げてきたのに。

こんなにもレオと離れていることがつらい。


家の中にいるから気持ちが暗くなるの?少し外に出たら気も晴れる?

気分を変えなきゃと思って、顔をあげようとした時、

後ろから、そっと抱きしめられた。



「待たせて、ごめん。リリー。」


そう言われて、後ろから抱きしめられて、泣きそうになる。

何も聞かずに逃げたのは私で、側妃のことも誤解ならレオが謝る必要なんてない。

それでも胸がいっぱい過ぎて、もう何も言えない。


振り返ると、藍色の目が私を見つめていた。

つらい、かなしい、そんな目で。

正面から抱きしめ返すけど、泣いてしまって声にならない。


「ごめんね、リリー。

 俺は、リリーだけだよ。

 それでもつらい思いさせてごめん。

 でも、もうそんな思いも絶対にさせないから。」


私が話せないうちに、謝り続けるレオ。

そんなに謝らなくても、もう誤解だってことはわかった。

私こそ信じられなくてごめんって言いたいのに、泣きすぎて何も言えない。

ぎゅうぎゅうにレオを抱きしめて、大丈夫って伝える。

レオもいつも以上に強く抱きしめて、わかってるって伝えてくれる。


ごめん、

ごめんね、

言わなくても、伝わってる。



どうしてレオに何も言わないで王宮を出てきてしまったんだろう。

こんなにも離れられないってわかっているのに。


「ようやく、抱きしめられた。

 リリー好きだよ。キスしてもいい?」


そう言われて見上げた先には、泣いているレオがいた。

友達になるのを拒否した時以上に悲しい目をしたレオに、そんな目をさせたのが自分だと気づく。


「レオ、レオ、ごめんなさい。

 大好きなの。離れたいなんて、少しも思ってない。」


あぁ、よかった。

そう聞こえた気がしたけど、唇をふさがれて抱きかかえられた。

あとから考えたら、どうしてシーナとシオンはいないのか。

どうしてレオが私の部屋を知っているのか、疑問はあったけど。

それでも、その時はもう、どうでもよかった。

レオが私のものだって、早く実感したかったから。






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