表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/93

10.回想 二人の約束

私とレオが仲間から恋人に変わったのは、

学園の二年目が終わろうとしていた頃だった。


なんとなく、お互いに意識している気はしていた。

だけど、私には王子の恋人になるのは気が重かった。

名ばかりの王子とは言え、王子は王子だ。

恋人になっても、結婚できるとはかぎらない。


レオにいつ婚約者ができるかわからない。

そして私も、いつ親が婚約者を決めてくるかわからない。

そんな状況で恋人になるのは、無責任な気がしていた。


「リリーが好きだ。」


飾り気も何もない、とても素直な一言だった。

マジックハウスでご飯を作っている隣で、笑顔で言われた。

その言葉に何を返せばいいのかわからず、困ってしまった。


「言われて、困るのか?」


眉が下がった顔で、そんな風に聞かれると、また困ってしまう。


「どうして、そんなことを言うの?」


「言いたかった。言わないと、何も始まらない気がして。」


何も始まらない…何かを始めたいというの?


「…困るというか、どうして言われているのか、わからないの。」


「リリーは俺のこと好き?」


「…好きよ。」


「それは、シーナやシオンへの好きと一緒?」


「違うわ。」


嘘をつきたくなくて素直に答えたら、レオの手が私の頬にふれる。

レオのほうに顔を向けられたが、どこを見ていいかわからない。


「ねぇ、俺の事ちゃんと見て。答えて。

 俺を好きって、男として見てくれてる?」


見つめられて、息が止まる。

好きだって、私も好きだって、言ってしまえばいいのに、怖い。

一人に決めてしまって、裏切られるのが怖い。


「好きだ。リリー。

 俺とずっと一緒にいて欲しいんだ。」


「ずっと?」


「そう、ずっと。俺と、結婚してくれないか?」


泣きそうになる。恋人でもない、自分から好きだと言う勇気もない。

でも、これほど大事に想う人は、二度と現れないと思う。

そう思ったら、言葉がこぼれていた。


「うん。好き。大好き。レオと結婚したい。」


気が付いたら、抱き上げられて回っていた。

え?回ってる?なんで?


「うれしい!ありがとう!」


目が回りそうになって、ようやく普通に抱きしめてくれた。

抱きしめられている腕の中が暖かい。

もうここから出たくないくらい、幸せを感じる。


「どうして、急に言ったの?」


少し落ち着いて、ソファに移動して話を聞く。

告白も求婚もうれしいけど、急すぎて何かあるんだと思った。


「十五歳になると、結婚できるだろう?あと半年だ。

 だから俺に婚約の申込みがひっきりなしに来ているんだ。

 女王には好きな相手を選んでいいと言われているんだけど、

 実は…リリーの家からも婚約の申込みが来たんだ。」


「え?うち?お父様がしたの??」


知らなかった。

シーナやシオンからレオの話は聞いていると思ってたけど、

私に何も言わずに婚約を申し込んでいるなんて。


「そう。シーナとシオンに聞いたら、リリーは知らないって言うから。

 俺が侯爵に返事を出したら、そのまま婚約しちゃうだろ?

 リリーが俺の事好きなのか、確かめてから返事をしようと思って。

 断られなくて良かった…最初、なかなか答えてくれないから…。

 ねぇ、何を悩んでいたの?」


そうか…私が好きだってわかったら、もう婚約の話になるんだ。

なんだか安心したけど、もう一つの心配はまだあった。


「あのね、婚約できるかもわからないのに、好きって言って、

 そのあと婚約者がお互いにできたら困るって思ったの。

 あと、やっぱりレオは王子だから、他にも娶るのかと思って。

 私はそういうの耐えられそうにないな…って。」


レオの顔が一瞬で青ざめたのがわかった。

今、まずいこと言ってしまった?


「リリー。ちゃんと説明してなくてごめんね。

 俺が名ばかりの王子って言うのは本当。王家の血が入っていないんだ。

 女王の王配だった父と、その父の公妾だった母との子なんだ。」


知らなかった。

あまり社交界に詳しくないのもあるし、噂話を聞くような相手もいない。

名ばかりの王子って言ってたのは、こういう意味だったんだ。


「父上と母上は、幼いころから愛し合って婚約していた。

 そろそろ結婚をと考えていたころ、

 当時の第一王子が事故死して、第一王女が女王になることが決まった。

 議会で選ばれた王配が父上だったんだ。仕方なかった。


 女王が第一王子を産んだ後、俺が母上から産まれた。

 公妾から産まれても、一応は王籍に入ることになる。

 第一王子とは異母兄弟になるからね。

 成人するまで王子で、成人したら公爵になる。」


「そうだったんだ。じゃあ、十八歳になったら、公爵になるの?」


「そう。だから俺はリリーと結婚したら、他を娶る必要はないよ。

 それに…俺自身リリー以外は無理だと思うんだ。」


「無理?」


「女王が第一王子を産んだ後、何度も流産した。

 子は産まれなかったけど、それは父上が女王を抱いた証拠でもある。

 ある日、父上が閨に呼ばれている間に、

 母上は耐えきれなくなり死を選んでしまった。

 手紙には、帰ってきた貴方に笑顔を見せることができそうにない、

 ごめんなさいと。」


そんなことがあったなんて。

愛する人が女王を抱いているのを認められない、

そんなレオのお母様の気持ちがわかってしまうのがつらい。

つらいのはレオなのに、涙がとまらない。


「泣かないで?リリー。

 俺は父上のつらさもわかるんだ。

 女王とは子どもが三人産まれたら、

 王配の仕事をやめていい約束をしていたらしい。

 結果として第一王子しか生まれなかったし、母上は死んでしまって、

 愛している母上を失った父上は絶望した。


 俺は何があってもリリーを悲しませたりしない。

 だから、十五歳になるのと同時に結婚したいんだ。」


「十五歳で?」


「そう。王家の血が入っていなくても、政略結婚の話はくるかもしれない。

 婚約じゃいつ邪魔されてもおかしくない。父上と母上のように。

 だから、すぐに結婚したいんだ。

 準備は半年あれば間に合う。

 急がせたくないけど、俺はどうしてもリリーと結婚したい。」


「絶対に私だけ?」


「もちろん。」


「裏切ったら逃げるかもしれないよ?」


「わかった。そんなことは無いけど、もし裏切ったら逃げてもいいよ。

 それでも俺にはリリーだけだから、すぐに迎えに行くと思うけど。」


何てことないように言って、私の頬の涙をぬぐってくれる。

そうか、この人は王子でいたくないんだ。

おそらく王家に対して、恨みのような気持ちを持っているんだろう。

貴族でいたくない私と似ているのかもしれない。


「もし、私たちの仲を引き裂こうとする人が現れたら?」


「その時は、一緒に逃げよう?

 俺ら魔術師だろう。どこに行っても大丈夫だよ。」









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ