はじめまして、独り
ざわざわと多くの人達が話している声が聞こえる。私はどうなったんだっけ。恐る恐る閉じていた目を開けて見る。すると、視界に飛び込んできたのは見知らぬ外国人達。RPGの世界かな、というような鎧や服装を纏っている。ぽかんと間抜けにも口を開けて座り込んでいると、一際豪華な衣装に身を包んだ男性が近づいてくる。
『貴殿が聖女だろうか?』
何か話しかけられているのは分かるが、言葉が分からない。英語ではないし、聞いたことない言葉だ。返答に困っていると、背筋がぞくっとする。
『殿下、鑑定の結果なのですが……』
『どうだった?』
『弾かれたのか、見えません。少なくとも高レベルの存在ではあるかと』
『ふむ』
一体、なにを話しているのだろう。こわい、ここどこ。界人、界人……。祈るように心の中で呼ぶ。しかし、当然返事などはない。見知らぬ場所、知らない大勢の人達、ひとりぼっち。心細さに涙が滲む。
『では、当初の予定通り』
『ええ、魔法陣を発動致します』
嫌な予感に震えが止まらない。気がつけば体が動き出していた。一瞬の隙をついて人の輪から抜け出す。その勢いのまま、出口らしき場所へと向かう。後ろから何か驚いた声が聞こえたが、構うものか。こんな界人のいない所から早く離れたい。
走り出す。見たことのない場所、例えるなら西洋のお城とでもいうべき場所だろうか。もし、界人がいる世界とは違うところだったら、どうやって戻ればいいんだろう。背後からは怒号と追いかけてくる複数人の足音。このままだといずれ追いつかれる。
ちらりと外を見やる。大体20メートル程かな、この高さなら大丈夫。テラスになっているところの柵に手をかけて飛び降りる。日本にいた頃の私が同じことをすれば、ただの自殺もいいところ。だが、今の私は違う。この程度の高さから飛び降りるなんてわけもない。それは、長い間異世界で生きてきて培われたもの。
すとん、と無事に着地する。自分が飛び降りたテラスを見てみれば、唖然とした外国人達。ちょっと、訳の分からない状況に巻き込まれた憤りがその間抜けな表情を見て溜飲が下がる。面白くて笑ってしまった。しかし、悠長にもしていられない。ここから完全に離れる為に走り出した。
走りながら、辺りの様子を伺う。ドレスを着た女性、槍を持った甲冑の男性。どう見ても現代日本ではない。界人と暮らしていた世界は人間が存在しないはずだから、そことも違う。だとすれば、新しい異世界。もしくは、地球の西洋の過去、とか。どちらにせよ、困った事態であることには違いない。その証拠に神との連絡が一切取れない。
「どうしよう……」
頼みの綱である神にすら連絡が取れないのは困る。が、それよりも今は目の前の城壁を超えるのが先だ。門番だろうか、何事かこちらに向かって叫んでいるが、やはり言葉は分からない。それでも、どうやら通してはくれなさそうというのは分かる。立ちふさがるかのように門の前にいるからだ。
「仕方ない、よねっ!」
さらにスピードを上げて走る。そのままの勢いで壁を駆け上る。まるで棒高跳びをするかのように、綺麗な背面ジャンプを決めて無事に乗り越えられた。それにしても、困った、本当に困った。一体ここからどう界人の元に帰ったらいいんだろう。何とかして帰る方法を見つけなきゃ。この場から逃げつつも不安がよぎる。
「でも……」
もしも、戻る方法がない、その時は。この世界壊してでも出て行けばいいよね。界人のいない世界なんて私にはいらないもん。
次回はまた界人視点です。