表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/70

二人にとっての特別な日になる

 動物園に行った日からも特に変化は無く、まるで当たり前の様に、女子高生二人が我が家へと来る毎日。毎日と言うには語弊があるか。今週も二回は四十崎(あいさき)家に行って食事をしたし、厳密には毎日ではない。ほぼ毎日。なぜ二回なのかと言えば、母親の休日はそちらに行くからである。

 そして一週間が過ぎた、九月半ばの土曜日が今日。遊びに行った翌週に当たる。

 

「ねぇマサくん。あたしになんか隠してない?

 隠してるよね? 絶対隠してる!」

 

 ギャルから謎の剣幕で詰め寄られ、本気でたじろいでしまう。大きくて綺麗なつり目は、怒りを帯びると迫力が著しく上昇するのだ。

 しかし俺は何もした覚えがないんだけど……

 

蓮琉(はる)ちゃん、俺ってなんか隠してんの?」

「えっ!? えーっと、こっそり菜摘(なつみ)ちゃんのお菓子を食べちゃったとか……?」

「俺そんなことしてないよ!」

「えぇ!? なんで私が怒られるんですか?」

 

 わけが分からなくて、咄嗟に黒髪少女に救援要請を出し、そして八つ当たりに走っている。しかし誤魔化されない菜摘は、じっと俺を睨み続けていた。

 そんなに怖い顔をされても、本当に事実無根のはずなんだよなぁ。

 

「心当たりが無いんですけど……」

「今度は嘘までつくの!?」

「だって、本当に何も隠してないからさぁ」

「マサくんの誕生日って今月でしょ!?」

「はい!?」

 

 誕生日……? あー、俺の誕生日。そういや三日前に明希乃(あきの)を含めた数人から、祝いのメッセージがきてたわ。

 隠し事と言うか、自分でもどうでもよ過ぎて伝えてないだけなんだけど。

 もしかして、祝おうとしてくれてた?

 

「あたしと会ってすぐに、三ヶ月の猶予があるって言ってたじゃん! もう三ヶ月過ぎたんだけど、なんで教えてくれないの!?」

「それで今月だと気付いたのか」

「そーだし! で、いつなの!?」

「……三日前に二十七歳になってた」

「はぁあ!!? 過ぎてんじゃん!!!」

「いやだって、この歳になったらめでたくもなんともないし。更にオッサンになっ……」

 

 言いかけてる最中に、ギャルは肩を震わせて涙目になっていた。そんなに誕生日を大切に思っていたとは、さすがに罪悪感も湧いてくる。

 

「もういい!! あたし帰る!!!」

「ちょ、待ってくれ菜摘!」

 

 バタンと勢いよくドアを閉められ、残されたのは俺と蓮琉と、おもちゃで遊ぶ幼児。菜摘が弟を置いて飛び出すなんて、よっぽどショックだったのだろう。これは放置なんて出来ない。

 

「蓮琉ちゃん、悠太(ゆうた)任せてもいいかな?」

「はい。早く追ってあげて下さい」

 

 よく考えたら、カバンまで置きっぱなしだ。どうせすぐに戻る。それを頭では理解出来るが、今は彼女の気持ちを優先しないと。


 玄関を出てエレベーターに向かうと、タイミング悪く扉が閉まった。すぐに隣のエレベーターを呼ぶが、高層マンションだと片道でも時間が掛かる。無駄に足踏みをしながら到着を待っていた。

 ようやくエントランスに辿り着いた時には、すでにギャルの姿が見当たらない。もう外に出てしまったのだと、慌ててビルを飛び出した直後、大きな声で呼び止められる。

 

「マサくん!!」

「へ!? なんだ、そこに居たのか……」

 

 地下駐輪場の入り口付近に、涙を拭う菜摘が見えた。まだ気温はそこそこ高いし、この中を逃げられたら、追い付けるほど体力に自信が無い。待っていてくれて本当に助かった。

 

「ちょっと経ったら戻るつもりだったのに」

「そう思ったけど、ほっとけないからさ」

「……なんで教えてくれなかったの?」

「菜摘の誕生日は出逢った時には過ぎてたし、俺だけ祝ってもらうのも気が引けるだろ」

 

 これは一応、本心である。もちろん意識していなかったのもあるけど、ギャルは知り合った時点で十六歳になっていたのに、俺だけ今年から祝ってもらうのは悪い気がしていた。

 

「そんな気遣い、ちっとも嬉しくないし」

「ご、ごめん。逆に不安にさせたか」

「………なにが食べたい?」

「え? 好きな物作ってくれるの?」

「今日お祝いするし」

「んー、とりあえずケーキ買いに行くか。

 車出すから待ってて」

「うんっ!」

 

 蓮琉にそのまま留守番と子守りを頼み、菜摘だけを乗せて、大きめの街まで車を走らせる。そこならケーキ屋もあるし、食材だっていつもより選択肢が広がる。何より機嫌を直して祝おうとしてくれてる菜摘に、少しでも特別な時間を過ごして欲しかった。今更だけどな。

 

「六月三日だから」

「君の誕生日か。しっかり覚えたぞ」

「もう少し早く出逢えてたら、一緒にお祝い出来たのにね」

「早くに会ってたら、ただのギャルとしか見てないよ。百万で買う機会も無かっただろ」

「たしかに! クソ親父のせいだけど、それのおかげで、あたしこんなに幸せなんだ!」

 

 買い物を終えて帰宅したギャルは、それはもう幸せそうに料理に励んでいる。待たせてしまったお詫びにと、蓮琉や悠太の好きな物も買って帰ったが、文句ひとつ言わずに一緒になって祝ってくれた。俺はいつの間にか、こんなにも恵まれた環境に居たんだなぁ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ