二人にとっての特別な日になる
動物園に行った日からも特に変化は無く、まるで当たり前の様に、女子高生二人が我が家へと来る毎日。毎日と言うには語弊があるか。今週も二回は四十崎家に行って食事をしたし、厳密には毎日ではない。ほぼ毎日。なぜ二回なのかと言えば、母親の休日はそちらに行くからである。
そして一週間が過ぎた、九月半ばの土曜日が今日。遊びに行った翌週に当たる。
「ねぇマサくん。あたしになんか隠してない?
隠してるよね? 絶対隠してる!」
ギャルから謎の剣幕で詰め寄られ、本気でたじろいでしまう。大きくて綺麗なつり目は、怒りを帯びると迫力が著しく上昇するのだ。
しかし俺は何もした覚えがないんだけど……
「蓮琉ちゃん、俺ってなんか隠してんの?」
「えっ!? えーっと、こっそり菜摘ちゃんのお菓子を食べちゃったとか……?」
「俺そんなことしてないよ!」
「えぇ!? なんで私が怒られるんですか?」
わけが分からなくて、咄嗟に黒髪少女に救援要請を出し、そして八つ当たりに走っている。しかし誤魔化されない菜摘は、じっと俺を睨み続けていた。
そんなに怖い顔をされても、本当に事実無根のはずなんだよなぁ。
「心当たりが無いんですけど……」
「今度は嘘までつくの!?」
「だって、本当に何も隠してないからさぁ」
「マサくんの誕生日って今月でしょ!?」
「はい!?」
誕生日……? あー、俺の誕生日。そういや三日前に明希乃を含めた数人から、祝いのメッセージがきてたわ。
隠し事と言うか、自分でもどうでもよ過ぎて伝えてないだけなんだけど。
もしかして、祝おうとしてくれてた?
「あたしと会ってすぐに、三ヶ月の猶予があるって言ってたじゃん! もう三ヶ月過ぎたんだけど、なんで教えてくれないの!?」
「それで今月だと気付いたのか」
「そーだし! で、いつなの!?」
「……三日前に二十七歳になってた」
「はぁあ!!? 過ぎてんじゃん!!!」
「いやだって、この歳になったらめでたくもなんともないし。更にオッサンになっ……」
言いかけてる最中に、ギャルは肩を震わせて涙目になっていた。そんなに誕生日を大切に思っていたとは、さすがに罪悪感も湧いてくる。
「もういい!! あたし帰る!!!」
「ちょ、待ってくれ菜摘!」
バタンと勢いよくドアを閉められ、残されたのは俺と蓮琉と、おもちゃで遊ぶ幼児。菜摘が弟を置いて飛び出すなんて、よっぽどショックだったのだろう。これは放置なんて出来ない。
「蓮琉ちゃん、悠太任せてもいいかな?」
「はい。早く追ってあげて下さい」
よく考えたら、カバンまで置きっぱなしだ。どうせすぐに戻る。それを頭では理解出来るが、今は彼女の気持ちを優先しないと。
玄関を出てエレベーターに向かうと、タイミング悪く扉が閉まった。すぐに隣のエレベーターを呼ぶが、高層マンションだと片道でも時間が掛かる。無駄に足踏みをしながら到着を待っていた。
ようやくエントランスに辿り着いた時には、すでにギャルの姿が見当たらない。もう外に出てしまったのだと、慌ててビルを飛び出した直後、大きな声で呼び止められる。
「マサくん!!」
「へ!? なんだ、そこに居たのか……」
地下駐輪場の入り口付近に、涙を拭う菜摘が見えた。まだ気温はそこそこ高いし、この中を逃げられたら、追い付けるほど体力に自信が無い。待っていてくれて本当に助かった。
「ちょっと経ったら戻るつもりだったのに」
「そう思ったけど、ほっとけないからさ」
「……なんで教えてくれなかったの?」
「菜摘の誕生日は出逢った時には過ぎてたし、俺だけ祝ってもらうのも気が引けるだろ」
これは一応、本心である。もちろん意識していなかったのもあるけど、ギャルは知り合った時点で十六歳になっていたのに、俺だけ今年から祝ってもらうのは悪い気がしていた。
「そんな気遣い、ちっとも嬉しくないし」
「ご、ごめん。逆に不安にさせたか」
「………なにが食べたい?」
「え? 好きな物作ってくれるの?」
「今日お祝いするし」
「んー、とりあえずケーキ買いに行くか。
車出すから待ってて」
「うんっ!」
蓮琉にそのまま留守番と子守りを頼み、菜摘だけを乗せて、大きめの街まで車を走らせる。そこならケーキ屋もあるし、食材だっていつもより選択肢が広がる。何より機嫌を直して祝おうとしてくれてる菜摘に、少しでも特別な時間を過ごして欲しかった。今更だけどな。
「六月三日だから」
「君の誕生日か。しっかり覚えたぞ」
「もう少し早く出逢えてたら、一緒にお祝い出来たのにね」
「早くに会ってたら、ただのギャルとしか見てないよ。百万で買う機会も無かっただろ」
「たしかに! クソ親父のせいだけど、それのおかげで、あたしこんなに幸せなんだ!」
買い物を終えて帰宅したギャルは、それはもう幸せそうに料理に励んでいる。待たせてしまったお詫びにと、蓮琉や悠太の好きな物も買って帰ったが、文句ひとつ言わずに一緒になって祝ってくれた。俺はいつの間にか、こんなにも恵まれた環境に居たんだなぁ。




