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あの気まぐれのツケが来てます?

「おーっすマサくん!」

「おう菜摘(なつみ)。すっかりマサくん定着したな」

「うん、なんかしっくりきた!」

 

 五影(いつかげ)蓮琉(はる)との接触から二日目。彼女からの連絡は特に無く、心の底からホッとしていた。

 菜摘は二日に一遍は必ず夕食を作りに来てくれて、もう百万がバイト代だと考えても、それ以上に働いてくれている気がする。

 彼女自身、週三回はバイトに行く。その足で保育園の悠太(ゆうた)を迎えに行き、直接ここに来る事も多いのだから、俺の体感的にはほとんど通い妻状態だ。

 

「学校始まって疲れたりしてないか?」

「全然平気だよー! 楽しいし!」

「あんまり無理しないでくれよ?

 かなりのハードスケジュールなんだから」

「だいじょぶだってー! あたしが来たいから来てるって言ったじゃん!」

 

 それでも今のように嫌な顔ひとつせず、むしろ幸せそうな笑顔を見せてくれるのは、俺としても嬉しい限りである。


 だが未だに付き合っているわけではない。やっぱり相手が高校生ともなると、お互いに好意を抱いていたところで、踏み切るのに時間がかかる。卒業までずっとこんな関係が続くのなら、いっそ腹を括るべきかとは思うが。これ続くのかなぁ。

 

「お、今日は食材めっちゃあるねー!」

「昨日仕込んでおいたからな」

「そかそか。これならなんでも作れるぞー」

 

 気合を入れてエプロンを着るギャルの姿も見慣れたが、出逢った当初は中々に異様な光景に映っていた。普段下ろしている髪もしっかり結って、(あら)わにななったうなじには自然と注意が引かれる。なんか悪い事してる気分だけど。

 

「ねーねー、あたしらそろそろ三ヶ月だよ」

「ん? あぁ、君を買った日からか」

「うん、助けてもらった日から!

 まだマサくんは後ろめたさあんの?」

「それはもう無いかな。むしろ美味い飯が食えるようになって得した気分だよ」

「なにそれー!

 あたしは料理にしか価値ないの?」

「いや、菜摘が(そば)に居てくれるのが一番幸せだと思ってるよ。もちろん料理の価値は高いけどな」

「……そっか」

 

 料理中の彼女との会話は多岐にわたるが、その多くはお互いの距離を確かめるような内容になる。たぶん告られるの待ってるんだろうなぁ。

 分かってはいるけど、やはりハッキリ言うのは気が引けてしまう。早く卒業してくれないかなぁとか思ってしまう俺は、相当バカなのだろう。このヘタレ野郎め。

 

「あー、今日も飯が美味いわぁ」

「しみじみ言うねー。もういっそのこと、ゆうちゃんとママ連れて来て一緒に住む?」

「ア、アホ言え! んなことできるか!」

「じょーだんだよ。

 今のままでも充分幸せだし!」

 

 それもいいかも、なんて思ってしまった。


 そんな日常のやり取りの真っ最中、けたたましい着信音が鳴り響き、俺らの目線はポケットへと移された。誰だよ邪魔する奴は。

 

「珍しいね、電話の音。明希乃(あきの)さん?」

「いや、あいつなら直接来るだろ」

「あー、ぽいね」

 

 取り出したスマホの画面を見て凍り付いてしまう。菜摘が負い目に感じないよう、先日の一件は黙っておいたのだ。相手は黒髪美少女だし。

 

「すまん、少し外す」

「えー、なんで? 聞かれたら困るの?」

「ごめん、ちょっと困るかも」

「……それなら仕方ないね」

 

 何か察したみたいに穏やかな顔をされると、やっぱギャルより成熟した女性として思えてしまう。信頼されてるようで嬉しくなるしな。


 そそくさと書斎に移動した俺は、鳴り止まないスマホにモヤモヤしながらも電話に出た。

 

「もしもし? どうしたの五影さん?」

「あ、玖我(くが)さん、突然すみません。

 今お電話大丈夫ですか?」

「手短に済ませてもらえれば問題無いよ」

「では率直に言います。

 今夜匿ってもらえませんか?」

 

 なに言ってんのか理解出来んこの子。匿うって、何者に追われてるんだよ。というか、なんで俺がそんな面倒なこと引き受けなきゃならんのだ。

 断ろうと口を開いたその時、電話越しに荒い息遣いが聞こえてくる。

 本当に追われてんのかよ……

 

「走りながら電話してんの?」

「家を飛び出したら、使用人に見付かりまして。玖我さんのビルの近くに居ます」

「は!? 近くまで来てんの!?

 捕まったらどうにかなっちゃうやつ?」

「……たぶん縁談を早められて、最悪そのまま結婚を強要されるかと」

「わかった。エントランスで隠れててくれ」

 

 この少女を助ける義理なんてない。だが彼女はきっと、俺が菜摘を救って仲睦まじくしている姿を見て、手を差し伸べてくれる存在に気付いてしまったんだ。あの気まぐれが元凶で期待を抱かせたのなら、このまま見捨てるのはさすがに後味が悪過ぎる。

 すぐにダイニングへと戻り、スマホをいじって待ってるギャルに声を掛けた。

 

「菜摘、ここに女の子連れて来ていいか?」

「えー、それはヤダ」

「だよな。だがちょっと事情があって、助けが必要らしいんだ」

「よく分かんないけど、今からその人を迎えに行くの?」

「もう下で待ってるはず。そこまで行くよ」

「じゃーあたしも行く」

 

 二人で玄関を出てエレベーターに乗ってる間に、菜摘にも軽く経緯を説明した。口をへの字にして嫌そうではあったが、諦めたように見逃してくれると言う。

 もし彼女に拒絶されれば、無理にでも五影さんを追い返すつもりだったのだが、それはさすがに忍びないか。

 

「あ、あの子?」

「間違いない。五影蓮琉だ」

「隠れてんのかなあれ?

 マジで追われてるっぽいね」

「くそ! 面倒事の予感しかしねぇ!」

 

 ガラス扉の向こう側に、大きな荷物の影で座り込む少女の姿があった。完全に家出スタイルで、ここまで来て踏み出す足が重くなる。俺はあの子をどうしてやろうと言うのか……

 

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