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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その33 責任の取らせ方

作者: 天城冴

新型肺炎ウイルスが蔓延する中、国際大運動大会を強行開催したニホン国。観戦を無理強いした子供たちやボランティア、選手にまで感染が広がり、死者、感染者を多数出し世界的非難を浴びるものの、誰一人責任をとろうとはしなかった。そんな中、大会の前会長モンリは奇妙な場所で目が覚めた…

突然、まぶしい光が顔に当たり、モンリは思わず顔を覆った。

「ここは…、どこだ?」

前をよくみると、目の前は教壇があり、その向こうには整然とならんだいくつもの机を前にして子供たちが座っていた。おおよそ30-40人ぐらいだろうか。向かって右に窓がいくつもある、どうやら学校の教室のようだ。窓からの日差しが強すぎるせいか教室の中がかえって暗く感じられ、生徒たちの顔がよくみえない。背格好から小学校3-4年生ぐらいだろうか。振り返ると壁に大きな黒板がかかっていて、白いチョークで“責任”と書いてある。

「あ、ああ、儂は小学校に責任の授業にきたのか、うん、うん。なんたって儂は新型肺炎ウイルスの蔓延の中、国際大運動大会を開催した組織委員会の前会長だからな。ハシボン・ゼイコが今の会長だとかいうが、なあに実質の会長は儂だし…。さあ、君たちモンリ先生がだな」

モンリが得意げに話しだそうとした途端

ガラガラ

教室の前のドアが不意に開いた。

眼鏡をかけた痩せた男がゆっくりと入ってきた。

“先生”

“先生、おはようございます”

“先生、会いたかったよ”

子供たちが嬉し気に口を開く。

『先生も会いたかったよ…』

男はよろめきながら、教壇に、モンリの法に近づいてきた。

「な、なんだね、君は。こ、この子たちの担任か」

『はい、そうですよ。授業で大事なことを話すために来ました』

「ん?今日は儂が責任について話すんじゃないのかね。ああ、そうか。君は質問とか、儂の紹介か。紹介ならいらん、自分でできる」

“そうだね、僕たちしってるもん、モンリさんでしょ”

“国際大運動大会開いた人だよね、僕らが応援させられた”

“暑くて、暑くて”

“倒れちゃっても手当てもしてもらえなかったんだよね、イリョーホーカイっていうヤツで”

“ただの熱中症ぐらいだと駄目だって、ママが泣きながらいってたなあ。私が死んじゃうって、何度も言ってたけど、あれからママどうしたのかな”

“ウイルスにもうつっちゃった。苦しかったよね”

“うん、すんごく、すんごく、苦しかった”

口々に訴える生徒たちを前に先生と呼ばれた男は涙交じりの声で答えた。

『皆、こんな目にあわせて、ごめんな。先生もすごく苦しかった、いっぱい後悔したんだ。だから、モンリさんたちを連れてきたんだ』

「ど、どういうことなんだ、わ、儂は授業に呼ばれたんじゃないのか。一体、なんで、こ、この子たちは」

『貴方方が強行開催した国際大運動大会を無理やり観戦させられた子供たちですよ。ほとんど死んでしまいましたがね』

「!」

『何を驚いてるんです?40度超えた気温で、しかもウイルスが蔓延する中、子供たちを観戦させれば、どうなるか予測はできたはずだ。我々教師も保護者も必死で止めたのに、貴方方は』

「わ、わしは、その、嫌なら断れば」

『でなければ、欠席扱い、子供たちは留年させる。反対教師はやめさせろ、次の就職口もつぶせ、そんなお達しを回されたら、参加させざるをえないでしょう』

「や、やめた子供たちだっているだろ、親と教師が、その」

『そうですね、子供たちの命のために無職や子供の学業を犠牲にしてでも止めればよかったと、反省してますよ。親御さんたちも僕も。言ったでしょ、だから貴方方を呼んだんです』

「じゅ、授業にか、なんで」

『いったでしょ、責任を取らせるためです』

「?」

『国際大運動大会を開催したために、観客のみならず、選手もボランティアも医療スタッフもウイルスの感染者が出た。ニホン固有の変異株がいくつも生まれたあげく、世界中が大パニックだ。当然、貴方方委員会やニホン政府が責任をとるべきだったのに』

“なんもしてないんだよね、いいわけばっかで”

“謝罪―とか言ってるのに、僕らの親に謝りにも来ないって、お父さんが僕のイハイの前ですんごく怒ってた”

“予想できませんでしたー、危険だと思うのなら参加させなければよかったんですーだってさ。学校やめさせられるかもってなったら行っちゃうよ、だって怖いモン。死ぬ方がずっと痛くて怖かったけど”

“ホショー金っていうの?みんなの税金から払うのは反対されたから決まらないんだって。でもさ、それって開催したいっていった人だけはらえばいいじゃん。お母さんもお父さんもおじいちゃんもおばさんも皆反対してたんだからね”

“そうだよ、危ないから止めろって皆いってたのにさ、むりにやっちゃって、酷いことになって。自分のせいじゃないもんなんて言うのズルい”

“ズルい大人がいっぱいいるのって変だよ。私たち、道徳とかでそんなことしちゃいけないって言われてるのに”

“自分の言動に責任を持てとかさあ、大人が破ってんじゃん”

子供たちの怒りの声が矢のようにモンリに突き刺さる。モンリは思わず後ずさる。

パンパン

先生が手をたたき

『皆、静かに。モンリさんたちは悪い例として来てもらったんだよ。自分で責任取ろうとしない悪い大人がどうなるかってね』

モンリのほうを向いた。唇の端が少し上がり、笑っているようだ。眼鏡越しに見える両目には…白目がなかった。アーモンド形の窪みに広がる黒曜石のような黒い瞳。いや、石なら光を反射するだろう。それはどこまでも光を吸い込む深淵なる闇。

「ひ、ひいいい。お、お前も死んでるのか!」

『ええ、そうなりました。子供たちが死んでも、僕は何とか回復したんですけどね。あんなに死者がでちゃ、学校も潰れますよ。おまけに後遺症がひどくて仕事もできない。後遺症がある患者への支援を調べてるうちに、貴方方の酷い言動も目についた。あれだけのことをしたのに、国民に希望が、ウイルスの中でも開催できたからなどと反省もせず、責任も取らず、言い訳ばかり。儲けた関連団体の奴等も口をつぐんでる。犠牲になった子供やボランティア、医療従事者などのことはお構いなし。いや、被害は大会関係者だけじゃない全国民だ、実質ニホンが駄目になったんだから。それなのに、貴方方は自己保身の言い訳ばかり。ものすごく腹が立ちましたよ』

「そ、そんなに言うなら反対…」

『皆、反対してたじゃないですか。それなのに政府も開催都市の首長も、委員会も無理に開催した。反対したら失職だの、単位やらないだの、いろいろ脅してたじゃないですか。開催しないと放映利権や関連団体利権が駄目になるんでしたよね。しかも大会費用の大半は何に使ったか不明、税金でやったのにね。そのうえ、開催したせいで、子供たちやボランティアに熱中症やウイルスによる死者が出て、世界中にウイルスの感染拡大という結果になったんですよ。無理に開催して大失敗して責任追及される立場なのに開き直って逃げ回り、大手新聞社も大会のスポンサーだからお茶を濁す。そんなオカシナ世の中で何を教えればいいんです』

“そだね、立派な大人なんかにならないほうがいいみたいだよ”

“誤魔化しして、お金を偉い人におくればいいんだよね”

“不正とか、悪いことした方がいいんだね”

“道徳とかとハンターイ。宿題とか誰かにやってもらえばいいんだよね、前のソーリみたいにさ”

『ごらんなさい。貴方方のせいで、子供たちは死んでしまって、すっかりおかしくなってしまった。だから、この授業をすることにしたんですよ、死んでまで』

先生はモンリの方に腕を伸ばし、黒い手で頭をつかんだ。鋭い爪が頭皮を破り、頭蓋骨に突き刺さる。

「ぎゃあああああ」

『どうです、神の国の裁き、責任の取らせ方は。貴方はこの国が神の国だと常々いってましたよね。そうですよ、神の国には不正をやったもの、責任をとらない卑怯者を処罰する方法がちゃーんとあったんです。呪いとか呪法とかね。まあ、それをやるために、私や親御さんたちも死ななきゃいけなかったんですけど、それは仕方ないですね。何しろ何十人も呪わなきゃいけない』

先生はいいながら、モンリの頭を振り回す。モンリの白髪頭が血で染まっていく。

“ワー痛そう”

“すごい、先生。やっぱりおバカな悪い大人はやっつけられるんだね”

“四組の授業もすごかったって。運動大会大臣のマンマルと、会長のハシボンとが、ウイルスで重症患者になってえ、校庭1000周させられたって”

“校長先生たちが追い立てたんだってね。すんごい怖い顔で。追いつくと皮を剥いだってさ。マンマルとか顔半分はがれながら走ってたんだって、いい気味。大会なんて見たくなかったのに、見てくださいって見なきゃダメです、って先生や私たちを脅してたんだよ、あいつ等”

“あ、みてみて開催都市の首長が校庭で血を抜かれてるよ。あの人さ、先生やお父さんたちが子供の観戦はやめさせてくれっていったのに、無視したんだってさ、ひどいよね”

“あの首長は子供のことなんてどうでもいいんだ、ヒトの血が流れてない緑の化け物だって、おばあちゃんが言ってたよ。緑がシンボルカラーだから、血も緑にしちゃえってことなんだよ、きっと。二組の先生は図工が得意だから緑の絵の具をたくさんもってるんだね”

『ほら、モンリさん、お仲間のリリィ・オオイケさんですよ』

先生はモンリの頭を握りしめたまま窓の外が見えるように持ち上げた。窓越しに見える校庭では、大人たちが首長を地面に押さえつけていた。両腕に針の刺さったチューブがつながっていて、一方に赤い液体が、もう一方に緑の液体が流れていた。首長の顔はすでに血の気がなく、トレードマークの濃いマスカラが滲み、口紅は乱れ醜く歪んでいた。

ガクッ

モンリの首から力が抜けた。

『ああ、もう死んでしまいましたが、モンリさん。また、すぐ、この地獄で目が覚めるでしょうけど。今日の授業はこれで終わり、でも責任の取らせ方の授業はまだ続くから』

“わーい、また先生に会える”

“ねえ、ねえ、首長押さえつけてるの○○ちゃんのお母さんだよ”

“ほんとだ、いいなあ、来てくれたんだ。僕のお母さんもくるかなあ”

“△〇くんとこはお父さんも死んじゃったんだっけ。来てるかもしれないけど、私んとこは妹とかもいるし、来てくれなくてもいいかな”

“そだね、来るの大変だしね。でもさ、責任取らせなきゃいけない人いっぱいいるんでしょ。ソーリたちにい、開催、開催っていってたユーシキシャとか、芸人さんとか”

“反省とか、間違ってたって謝ったりした人はいいんでしょ。仏の道とかにいったとか。全財産寄付したとか、治療ボランティアとか”

“そーだよね。謝ったふりだけとか、口だけゴメンナサイは駄目だよ。誠意ってのみせる行動が大事なんだって”

『そう、言葉も大事だけど、きちんとした行動も大事なんだよ。次の授業の予定は…、[校長先生より通達。校庭で全校死者生徒、死者教職員が集まった特別授業です。前アベノ総理とガース総理が参加、拒否されても強制的に参加してもらうことになります…]。責任の取らせ方に協力していただいた保護者の方々もご参加いただく予定だそうだ。みんな、楽しみに』

“はーい”

生徒たちは異口同音に答えた。


どこぞの国では親や教師が反対するにもかかわらず、開催が危ぶまれるようなスポーツイベントに子供や青年たちを強制的に観戦させる計画があるそうですが、観戦が感染になりそうで恐ろしいですね。平和と人権尊重の祭典がイベントの趣旨のはずですが、やりたい人達のエゴと利権が目的と化した商業イベントを強行して責任を誰がとるか、誰もとらないとなると、やはり古来のやり方で強制的に取らせるしかないんですかねえ。なるべく避けたいと思いますが。

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