物の価値 ~サイバー犯罪防止第6課~
2050年。警察任務をまかなう治安省公安局刑事部サイバー犯罪防止課。
その部署は6つに分けられ重大な案件順に1課から振られていく。
そんな最後の6課に与えられる任務は民間のゴタゴタから奇妙な犯罪まで。
サイバー犯罪防止第6課。通称「サボ6課」。
彼ら7人が今日も奇妙な事件に立ち向かう!
サイバー犯罪防止第6課 「物の価値」
<<<<S-01 公安局前路上>>>>
公安局の前にとめた一台の車。
そこには6課長である岩本と若い女性が立っていた。
岩本「君が新人さんだね?」
森下「今日からサイバー犯罪防止第六課に配属になりました森下です」
岩本「岩本だ。よろしく」
森下「よろしくお願いします」
岩本「早速で悪いが出動だ。事件概要は車で話す」
森下「はい」
<タイトル:サイバー犯罪防止第6課 第2話 物の価値>
<<<<S-02 車内>>>>
岩本「星はインターネットオークションで偽物を売り、違法に利益を得ている。サンダークイーンって知ってるか?」
車を運転しながら岩本は事件の概要を説明し始めた。
森下「サンダークイーン?いえ」
岩本「簡単にいうと食器だ。これが今回売られた商品」
カーナビの横にあるモニターには皿が映された。
森下「きれいな色のお皿ですね」
岩本「ガラス製で何百年だか前の代物だ。希少価値が高くマニアはコレクションしてただ飾っとくだけらしい。何が楽しいんだか」
森下はモニターをスワイプし、食器の詳しい説明に目を通し始めた。
森下「へー。ちょ、岩本さん!このお皿、一枚200万円もしますよ!?」
岩本「ああ、どうかしてるだろ?そりゃー眺めるだけになるわな」
森下「こんな高いお皿買う人いるですね」
岩本「正規ルートのオークションではその10倍はするらしい」
森下「え?じゃあこっちのネットオークションでみんな買うに決まってるじゃないですか」
岩本「殆どが偽物なんだってよ。9個買って当たりがありゃ良いけど全部偽物だったら初めっから正規ルートで確実なもの買うだろ」
森下「ええ、まあ」
岩本「それに本当の金持ちにとっちゃペアで4000万くらい何でもないらしい。一式セットで2億8000万なんていうのもあったな。俺には一生わからん感覚だわ」
森下「私も」
岩本「前にかなり取り締まりが入って、この手の詐欺は減ったから偽物自体が出回ることが珍しいんだけどな。それも2000万する物が200万て明らかに偽物だろ。よく引っかかったなこの女」
今度はモニターに一人の女性とその人物の情報が映し出される。
森下「この女性が被害届を出して来たんですか?」
岩本「いや、俺たち6課は出品者の情報を事前につかんでいた。ただ、商品が偽物だという証拠がなければあげられない。そこにこの商品の出品だ。この商品を手に入れれば偽物か本物の決着がつく。偽物ならば詐欺罪成立、即逮捕。本当は俺たちがその食器を落札する予定だった。けど、上の許可がもたもたしていたからどっかの誰かに落札されちまった。それが今向かっている大島という女だ。なんで偽物かもしれない200万もする食器を買っちゃうかな~」
森下「ご本人に送られてきた食器を見せてもらい、偽物と確定した時点で出品者を押さえるってことですね」
岩本「そうだ」
森下「でも、我々がその食器を見せてもらったところで偽物かどうかわからないと思うのですが」
岩本「それは心配いらない。食器をスキャンしてラボへ送れば菊川っていう先生が調べてくれる。分析や解析のスペシャリストだ」
別の場所は向かっていたメンバーから無線が入る。
篠崎「こちら篠崎。オークションログより以前購入していた落札者と接触。今、商品のマグカップをスキャンしています。それにしてもこれよくできてますよ。自分も何度か本物でコーヒーのんだけど重さや色、質感、肌触りじゃ、全くわかりませんよ。でも、これで結果出れば犯罪確定。岩本さんが向かっている先の証拠押収は必要なくなりますね」
また別の場所から無線が入る。
浜「先入観の決め付けは良くないわ。まだ偽物と決まった訳じゃない。こちら浜。私も過去の落札者と接触したけど、こっちは空振り。商品はもう手元に無かったわ」
篠崎「どういう事?」
浜「もう、ネットオークションで転売しちゃって誰の手に渡ったかわからないんだって。だから篠崎君の入手したマグカップといわもっちゃんと新人ちゃんの抑える食器だけが今ある数少ない証拠って事ね」
篠崎「偽物であってほしいな~」
浜「篠崎君!」
篠崎「いや、先入観じゃなくて希望です。だってこれがたまたま本物だったら、うちらのやってきた捜査は水の泡じゃないですか!出品者の奴、絶対裏の顔がありますよ。だって入手記録がないのにこいつのところからぽんぽん安値でサンダークイーンがオークションへ流れていくんですよ?おかしいでしょ」
岩本「確かに別の顔を持っていてもおかしくないな。ま、落ち着いて待て。菊川が真実を暴いてくれるさ」
菊川「はいはーい。こちら菊川。篠崎君、スキャンサンプル届いたわよ。これから分析に入るからちょっと待ってね」
岩本「こちら岩本。森下と今回の証拠を横取りしてった落札者の家の下についた。これから証拠押さえる」
菊川「いわもっちゃん。横取りじゃないからね。正式な落札。もたもたしていたこっちが悪いのよ」
岩本「はいはい」
菊川「スキャンサンプル待ってるわ。あ、落札者は若い女性だから接触は新人ちゃんがした方がいいかも。年も同じくらいだし」
森下「森下です。やってみます」
菊川「よろしくね。森下ちゃん」
森下「はい」
<<<<S-03 被害者宅>>>>
森下「突然おじゃましてすいません。サイバー犯罪防止第六課の森下です」
大島「あ、はい、大島です。いらっしゃることは事前にご連絡いただいておりました。さ、どうぞ。今お茶入れますからそこへ座ってお待ちください」
森下「いえ、あの、お構いなく。お時間は取らせませんので」
大島「どうぞゆっくりしていってください。コーヒーでいいかしら?」
森下「はい、すいません。ではお言葉に甘えて。・・・あの、それ何ですか?」
大島「ドリップ式のコーヒー見たことありません?」
森下「ええ、写真で見たことあるくらいで実際には・・・」
大島「そうですよね。今はできあがった状態で売られているから、この行程はレトロ喫茶にでも行かないと見ませんもんね」
森下「ええ。始めてみました。昔はこうやってコーヒー入れてたんですよね。いい香り~。なんかいいな~」
大島「(笑)最近のコーヒーはこの香りも容器に閉じこめてあるじゃないですか」
森下「いえ、この音もゆっくり出来上がるこの時間もいいな~って」
大島「あ、わかります?私もこの時間が好きでこのコーヒーメーカー捨てられないんですよ。それにこれはお婆ちゃんの大切にしていたものなんです」
森下「へ~お婆さまから譲り受けたものだったんですね」
大島「はい。どうぞ。お砂糖とミルクはこれを使ってくださいね」
森下「ありがとうございます」
大島「ところで森下さん、今日はどのようなご用で?」
森下「あ、そうだ。すいません。すっかり忘れておりました。先日ネットオークションでこのような商品をご購入なさったと思うのですが・・・」
森下はタブレットを見せた。
大島「ええ、確かに」
森下「そちらを見せていただけないでしょうか?」
大島「はい、かまいませんよ。お待ちください」
そう言うと、大島は食器棚からタブレットに映し出されていたのと同じ食器を持ってきた。
大島「どうぞ。サンダークイーンをご存じなのですか?」
森下「いえ、実はつい先ほど初めて知ったくらいで全く」
大島「そうですか。これと同じお皿でいつもお婆ちゃんがスープを出してくれていて。今はもう手元に無かったのですが、たまたまネットオークションで見つけてしまってどうしても欲しくなって・・・とても高かったけど買ってしまいました。このタイプのお皿がネットオークションに出品されるのはまれなんですよ」
森下「ええ、そうらしいですね。あの、できたらでいいんですがこちらのお皿をスキャニングしてラボで調べさせていただいてもよろしいでしょうか?」
大島「ええ、何かのお役に立つのならばどうぞ。とてもいい色だと思うんです」
この食器が偽物かもしれないと思うと嬉しそうにしているこの女性に対し、森下は心から微笑み返せずにいた。
森下「はい。私もとてもきれいだと思います」
<<<<S-04 本部>>>>
浜「え?森下ちゃん、その大島って人に偽物かもしれないって言わなかったの?」
森下「はい・・・とても言い出せなくなってしまって。話してみるとアンティーク物に興味があるわけでもなく、生活レベルも普通でしたし、やっぱり大島さんにとって200万円って大金だと思うんです。だからそれが偽物ですよなんてとても・・・」
岩本「気持ちは分からんでもないけどな。お婆ちゃんとの思い出まで語られたんじゃな~」
森下「そうなんですよ。どうかあれが本物であってくれ~って思っちゃって」
篠崎「本物だったら立件でき無いじゃん」
岩本「ま~状況からして偽物だろうな。被害届出してもらって犯人捕まえて終わりだ」
篠崎「そうですよね。あとはお金が返ってくるかどうか。使い込まれていたらと思うと心配ですね」
森下「そうですね。でも、やっぱりお婆ちゃんとの思い出と同じ本物のサンダークイーンなら良いなって思っちゃいます」
((((本部ドア開き))))
そこへ解析を済ませた菊川が入ってきた。
菊川「おまたせ~正真正銘の偽物でした~」
浜「あ~残念」
篠崎「じゃ、犯人逮捕権が成立するね」
岩本「犯人自宅にはには小川と神保が張り付いている。逮捕許可を出してくれ」
浜「は~い」
篠崎「で?その、大島さんって女性はどうする?俺から説明しようか?残念ながらこれは偽物だから被害届出してくださいって」
森下「いえ、私から話します」
浜「…そう。じゃあお願いね」
森下「はい」
<<<<S-05 大島宅>>>>
森下「ということで…まことに言いづらいんですけど、このお皿はサンダークイーンの偽物だったんです。だからこちらの被害届を出していただきまして…」
大島「やっぱり偽物だったんですね」
森下「…はい、残念ながら」
大島「(笑)それはなんとなくわかっていました」
森下「え?分かっていて購入されたんですか?」
大島「いや、購入するときは分かりませんでしたよ。でも、手に取って、音を聞いて。あ~これはお婆ちゃんが使っていたのとはちょっと違うな~って」
森下「…そうでしたか」
大島「森下さん」
森下「はい」
大島「被害届を出したらやっぱりこのお皿、回収されちゃいますよね?」
森下「え?ええ、まあ、証拠品ですので。あ、でもお金はそのうち戻ってくると思いますよ」
大島「被害届・・・・出さなくてもいいですか?」
森下「え?」
大島「どうしてもこのお皿、欲しいんです。転売とかはしないので安心してください。社会的にはサンダークイーンの偽物だって価値になるんでしょうけど、私にとってはお婆ちゃんを思い出せる大切なお皿なんです。被害届、どうしても出さないとダメですか?」
森下「いや、犯人は別件で既に逮捕状は出されているし、偽物の鑑定も出ているのでこちらとしては問題ありませんけど…お金は返ってきませんよ?」
大島「いいんです。私にとって・・・お婆ちゃんとの思い出に出した価値ですから」
森下「…わかりました」
大島「ありがとうございます」
<<<<S-06 大島宅前>>>>
岩本「で、被害届を出さなかったってことか」
森下「はい。大島さんにとってサンダークイーンが本物かどうかなんてどうでもよかったんです」
岩本「お婆ちゃんとの思い出が本物って事はゆるぎない事実だからな。戻るか」
((((岩本車ドア開け)))
森下「岩本さん」
岩本「ん?」
森下「私たちの定めている物の価値って、実はみんなバラバラなんじゃないですか?」
岩本「そりゃ~そうだろう。誰だってそれぞれの人生に付随する価値観でしか測れないんだから」
森下「そうですよね。私、基準が一瞬わからなくなっちゃって」
岩本「森下。その基準はお前が決めろ。お前の価値観で見極めろ。その人の人生を一生懸命聞いてお前が判断しろ。きっとそれしか、お前にとって正しい価値を測る方法はないよ。…行くぞ」
森下「…はいっ」
((((ドア閉め・車去る))))
何かが晴れた返事をした女性を乗せて、車は走り出した。
<<<<エンディング>>>>
サイバー犯罪防止第六課
第2話 物の価値(完)
(キャスト)
森下
岩本
浜
篠崎
分析班 菊川
大島
<<<<予告>>>>
病院で爆発が起きる。
その後始まる人質事件と残された時間。
次回、サイバー犯罪防止第六課
「タイムリミット」お楽しみに。
<<<<クレジット>>>>
この作品はフィクションです。
実在の人物、団体、事件などには一切、関係ありません。
ファンから「台本を見たい」のご要望によりこのサイトへ残すこととなりました。
読みづらいこともあるかと思いますが、変な小説として楽しんでいただけましたら幸いです。