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「荒ぶる白い少女」



 突然態度を豹変させてベンチに手を引き、座らせる私に、ただならぬ気配を感じたのか、白い少女は怪訝そうにしながらも、素直に従う。

 私はどこから考えるべきかと一寸思案し、迂遠だが、一つずつ埋めていくことにする。私の思い違いの可能性があるもの。


「あー、おとめ座超銀河団・局部銀河群・銀河系・太陽系・第三惑星の名前は?」

「ガイアです」

「太陽系に於いて、太陽を軸に、金星と火星の間にある星は?」

「それも、ガイアです」

「太陽系の惑星を順に述べよ」

「ソル・メル・ウェヌス・ルナ・ガイア・マル・ケレス・ユピテル・クロノス・ウラノス・ネプチューン・プルート・ハウメア・マケマケ・エリス」

「日本語の語呂合わせで」

日水金月火木土天海冥にっすいげっかもくどってんかいめー

「……地球、という言葉に聞き覚えはあるかの?」

「え。……し、下ネタです?」


 何故恥丘は通じるんだ。 あんなもん前提があってこそだろう。

 惑星の定義と、語呂合わせに、太陽を抜くのではなく、地球を抜いた方式を採用している点に、私の常識との食い違いがある。

 そう言えば、幼いながら太陽の位置を見失ったことがある。水金地火木略なので、太陽がどこに付くかわからなかったのだ。所詮、子供の目から見た星など、絵本で見た太陽と月しかない。地球と同じ位置なのか、水星の先なのか、冥王星の先なのか。土台となる“常識"が欠如していたので致し方なかろう。

 しかし、向こう方式だと今度は地球の位置が迷子だな。太陽と月に挟まれているので、水の星がガイアに思えるのかも知れない。私はその常識を持っていないのでわからないが。


 私が黙ってしまうと、流石に白い少女も事態に気付いたのか、頭の中の仮説を組み立て、私に向けて口にする。


「ま、まさかーー別の惑星の人でしたか?」


 違わい。貴様の世界では異星体の存在を確認しているのか? あり得ないと言い切れないのが怖い。

 ことここに到っては間違いあるまい。私と白い少女がいた世界は別物だ。所謂可能世界、ifによって分岐した別の地球だと考えられる。白い少女に言わせれば、別のガイアか。もう面倒だからテラとでも呼ぼうか?


「それだったらぼくはアースを推します。時系列の違う同じ世界、という可能性もあるんじゃないです? ぼくは、この世界では300歳ですし」

「呼び方なんぞどうでもいいのじゃ。貴様は日本人なのに、地球という呼び名を知らんかった。わらわも同様に、日本人がガイア呼ばわりしているのも聞いたことがない。

 歴史から隠匿されたと考えるよりかは、はじめから“無かった"と考えた方が自然なのじゃ」

「そうですね……おかしいと思いました。現代日本に吸血鬼なんて。違う世界だったんですね」

「こだわるのう貴様。流石に存在そのものを否定されると、わらわちょっと悲しい」

「ご、ごめんなさい。でも、科学全盛期の現代社会にUFOとか吸血鬼だなんて、もうお伽噺の領域ですよね?」

「……。もしかしたら、文明の進みに差があるのかの? 貴様の世界だと、携帯する電話はどんなものじゃ?」

「電話って。またまた骨董的なものを~。接着型のポータブルデバイスがあれば、埋め込んだICチップから骨伝導で通話は出来ますよね?」

「わらわの知ってる現代と違う!」


 なんてこった。私の知ってる人類は、ガラケーからスマホに移動するにも大騒ぎで、地デ鹿やら穴熊やらの電波整理に苦心していたというに。白い少女の世界では一足飛びで、携帯小説では異世界に携帯電話を持ち込むこともないらしい。

 白い少女の話によると、びっくりするような突飛もない話もないが、順当に技術が進み、AR投影(拡張現実)や、VRMMOなど、私の知ってる地球より少しだけ進んでいる様子が見て取れる。


「昔はトラック転生なんて言われてましたけど、今はもっぱら貨物輸送ドローンの墜落事故ですねー。いわゆるドローン転生ってやつなのです」

「白バイの代わりにドローンに乗り、個人ジェットで空を飛ぶ? と、なんとも賑やかな空だね」

「流石にジェットは一般人には手が出ませんけどね。航空法も見直し真っ只中です」

「どうだ、そろそろ人類は宇宙に版図を拡げられたか」

「まだまだ難航してますね。火星のテラフォーミングなんて夢の先です。雪と氷の死の星、火星ってそろそろ変えるべきでは?」

「赤土の砂と風、それから磁気嵐の世界でもある。そう簡単には変えられんのじゃ」

「そんなもんですかー」

「人類というやつは、技術が進歩してもそうそう変わらんの。今度はヴァーチャルに新たな世界でも創造して、版図を拡げねばな」

「あはは。それも異世界転移ですねー。ああ、VRと言えば、面白い話があるんですよ。ぼくがやってた、市井には出回っていないVRMMOの世界観と、この世界で調べたお伽噺、いわゆる神話に符合する点がーー」


 突然口を開け、言葉を区切る白い少女。私が疑問の声をぶつけると、返って来たのは意外な言葉だった。


「朝は街で食べようって、ごはん抜いてきたの忘れてたです。お腹空きましたー」

「そうか。では、名残り惜しいがここでお開きかの」

「はい! お話しの続きはまた今度しましょう。……あの、気になりませんか? 今の話」

「ならんのう。どうでもいいのじゃ」

「むう。虎の子だったんですけどね。手強い人です」


 白い少女はそう言うが、会話の中で何かに気付いたのやも知れん。そういう誤魔化しがあってもおかしくはない間であった。

 相変わらず白い少女からは汗や鼓動で感情を判断出来ず、人懐っこい顔を崩してはいない。然りとて、あれだけ面と向かえばデータは取れる。声質の固さからは、少しばかりの緊張が見て取れ、私の予測はそう外れてはいないことを裏付けていた。

 まあ、白い少女がこの世界の何を察したのかはわからんが、私にはどうでもいい。人から与えられたものなど、所詮宝にはなり得ない。価値あるものを手にしたくば、自らの手で獲得せねばな。


 二人並んでベンチから立ち、白い少女から得た情報を反映し、私自身のことを省みてふとそれを思い出す。

 ……ああ、そう言えば。知識も豊富で、アイテムインベントリも持っているなら、頼るならうってつけかも知れん。


「のうのう、頼みがあるんじゃが、聞いては貰えんかの」

「……頼み、ですか? なんでしょう。ぼくにできることならなんでもしますよ」

「大したことはないのじゃ。これ、なんだか知っておるか?」


 私は腰の巾着袋から、小さな種を取り出す。私が人里に辿り着き、冒険者登録をする一歩手前で立ち寄った、人の手が加えられた洞窟らしき場所で拾ったものだ。

 その花は妙に心地良かった。私が棲み家に戻った際、近くにそれの花畑を作れたらと、年甲斐もなく考えている程度には気に入っているのだが、街で読んだ本では何の花かわからなかったのだ。


「んー……。ふぇ、これ、月華の種ですよ。どこで手に入れたんですか?」

「洞窟……で、いいんじゃろか。そこの花畑での。珍しいものなのかの?」

「ですよー。この世界、MP回復手段がオンゲ並みに乏しいんですけど、その貴重な回復手段の一つが、月華を調合して作れる薬なんです。薬の現品はエリクサー並みのレア物ですね」

「ふむ。エリキシル剤があるのか。効能は?」

「怪我、病気の完全回復っていう感じです」

「流石に不老不死とはいかんか。ホムンクルスも作れそうにないのじゃ」

「エリクサーからホムンクルス作れたら、流石の異世界もびっくりですよ。

 その月華ですが、まー調合の仕方や他の触媒なんかは、竜の記録にも残ってないんですけど。花自体もレアなんですよね。なんでも、『月の光を百日浴びて咲き、一度(ひとたび)日光を浴びれば枯れてしまう』……だとか」


 むう。やはり植物はデリケートだな。私には荷が勝ち過ぎている。花畑でも育てようかと思ったが、どうにも柄ではないな。私は質実剛健な方が性に合う。肉が裂くお花畑とか作れないだろうか。裂いたー、裂いたー。あかしろくーろ。

 花ではないが、種の状態でも、野晒しにして良いことはないだろう。


「わらわの方でも育てられないか調べてみる。この種は貴様に預かって貰えんかの? 時間経過のしない倉庫を持っとるんじゃろ?」

「いいんですか? 貴重なものですよ?」

「構わん。わらわが持ってても腐らせるだけじゃ」


 「では失礼して」と、白い少女は法衣のようなものの裾に手を入れ、胸の辺りをごそごそする。そこに荷物を持っているらしい。つまりーー


「上げ底して、その有り様なのか……焼け野原じゃないか」

「違います! アイテムボックスです! 異次元に通じているんです!」

「胸が抉れているとはよく聞くが、ブラックホールははじめて聞いた。光すら呑まれて平らにされるとは……」

「ちーがーいーまーすー! ちょっとはあります! 膨らみかけです! まだまだまだまだ成長過程なんです! この300年ばっかし助走をつけたスロースターターなんですー! 大体そっちなんてまな板どころか凹凸すらない絶壁じゃないですか! いーや手をかけるとこすらないぬりかべですよもう!」

「わかったわかった。成長期成長期、夢を見るのは自由じゃ」

「その余裕がッ!!!!」


 子供でも気にするんだなそういうの。いや、私も気持ちがわからなくはないんだ。

 拾った赤子を育てる際に、私に乳頭があればお乳でも飲ませてやれたかも知れん。まあ、私から出たもので、子供に感染(うつ)っても困るので、どの道口をつけさせはしなかっただろうが。同様の理由で口付けもしていない。虫歯は感染ると言うし、虫歯のない私の、もっと厄介なものが感染って困る。お陰で、愛の知らない子に育ってやしないかと心配だ。

 私が死んで、どうなったかな。白い少女を見ていると、少しだけ前世を思い出す。だから、もう少し付き合うことにする。


 白い少女に引かれるがまま、ミルクアイスやミルクレープなどの乳製品、からあげ焼き鳥の鶏肉、キャベツたっぷりのお好み焼きなど食べ歩きに付き合わされた。タピオカミルクティーももっちもっちした。タピオカチャレンジを話したら、容器を地面にぱーんし、衛兵にぽい捨てかと勘違いされそうになって、慌ててアイテムボックスで証拠隠滅を図っていた。

 当たり前だが、ミル・クレープはミルクではない。入ってないこともないが。

 どれも胸に効くとされる食品だが、科学的な根拠は、ひじきやワカメに含まれる育毛効果くらいに薄いぞ。


 

 現在公開可能な情報


◆???(アルマ/白い少女)

 竜族 女性 308歳(+前世)

 ・厚ぼったい服、無臭、「ぼく」という一人称から、男の娘の可能性もあったが普通に女の子。現在(いま)前世(むかし)も胸は成長途上。


『銀竜の御子』『Cランク冒険者、青眼(ブルーアイズ)

 ・メンバー3人とも青い目をした女性。特別なことがなければ最高位であるCランクということもあって人気が高い。白龍じゃなくて白銀竜だけどセーフ。


所持スキル

 ・現在公開不能な情報です

 ・竜化/人化

 ・アイテムボックス

  └タグ付け

   └タグ付け収納

 ・魔力感知

  └敵意感知

  └熱源感知

 ・竜の知恵

  └鑑定

   └鑑定感知

 ・現在公開不能な情報です

 ・現在公開不能な情報です

 ・現在公開不能な情報です


備考

 異世界からの転生者。アイテム収納、レーダー、鑑定など、異世界転生者の三種の神器は全て持っている。

 魔力感知は惑星全土を大雑把に俯瞰出来るため、巨大な存在の動静や魔物の大発生など、即座に気が付くことが出来る。

 範囲を自分の周囲に狭めることも可能で、魔物や人間は基本的に魔力を持っているので、細かく感知が可能。魔力の大きさで大体の目星はつくほど熟練しているが、熱源感知と敵意を持つものを選り分けられる派生能力によって精度を増す。これらは《現在公開不能な情報です》

 鑑定は自身の知識にないものは調べられない。その代わり、竜に連綿と伝わる知識を参照することによって、情報を引き出すことが出来る。「これ見たことあるけどなんだっけ」とド忘れしても、一度竜の知恵と化せば引き出せるので、読書やおしゃべりなどは欠かせない。


 戦闘スタイルは《現在公開不能な情報です》で、武器は《現在公開不能な情報です》。

 そのため、《現在公開不能な情報です》。実質的に《現在公開不能な情報です》で《現在公開不能な情報です》。《現在公開不能な情報です》だが、《現在公開不能な情報です》。まさしく《現在公開不能な情報です》と言える。


 幼いながも、神秘的な容姿と、耳が溶けるようなウィスパーヴォイスを持つ白い少女。竜族にとって、御子は大神官や聖女に近しく、竜族からの信奉も厚い。

 見た目に反し、中身は普通の少女……なのだが、前世ではむしろ引っ込み思案で、現在の容姿通りのキャラクターだった。

 身体が強くなり、開き直って元気に振る舞えるようになったのも異世界マジックと言えるだろう。私、普通の女の子になります。御子だけど。

 軽くて人懐っこい態度だが、その実臆病で慎重な性格。


 エノレフに対しては《現在公開不能な情報です》。しかし《現在公開不能な情報です》して、《現在公開不能な情報です》じゃないかと思っている。

 気になるので、これからも絡みに来るかも知れない。

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