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ハートレス

 カジノから謝礼をせびる気は無い。

 元より原因はケイジ達にある。変にせびって藪を突かれたら蛇が出ないで、拙いモノが出てくる。だからケイジは「礼は要らねぇぜ!」とクールに去ることにした。


「……そんなに上手く行く訳ないでしょ?」


 ここまでやっといてそれは無理だよ、肩にジオを担いだガララが隣でこれ見よがしに溜息を吐いた。


「わぁってるけどよ、こりゃ想定の中でも……ヤァ。控え目に言っても最悪の部類だ」


 愚痴位言わせてくれやとバンザイしながらケイジ。

 ジオが良く利用すると言う会員制のカジノは、単純に考えればジオと何らかの関係を持って居ると考えるのが妥当だろう。

 これはその中でも最悪。かなりの仲良しっぷりだ。ケイジは周囲を見渡しながら溜息を吐いた。

 二人を中心に、今更駆けつけて来たカジノ警備の本隊の皆様が円を造っていた。拍手と共に祝福と賛辞が述べられるようなことは勿論無く、連射と安定性に優れたARが向けられて居る。

 グリップに描かれた意匠は犬や猫。一応知っているメーカーだ。ペットショップ。ワンオフよりも量産に力を入れていることから『個人』よりも同じ装備を揃えたい『組織』が良く利用するメーカーで――


「……錬金術師アルケミストギルドと仲が良かったっけなぁ」

「ケイジ、金庫番」

「ヤァ、俺もあのガチョウの鳴き声を思い出した」

「もう少し優しくしてあげればよかったね」

「全くだ」


 せめてゴー・トゥ・ヘルと悪態を吐く為に親指くらいは残しといてやれば良かった。そうすれば沈んで行く時も多少は格好が付けられただろう。沈んだ先が溶鉱炉で無いのは残念だが、アイルビーバックと洒落込めた。


「あァ、ヒデェ荒れ具合だ。報告を受けては居たが、実際に見るとコイツはひとしおだな。泣きそうだ。ボスに何て報告すりゃいいんだよ、えェ?」


 円を崩しながら、一人の男が進み出る。一目で“良いモノだ”と理解できる質の良いスーツを纏い、白髪で褐色の肌を持つダークエルフだ。


「さて、随分と楽しんで頂けたみたいで嬉しいぜ、お客サマ?」


 ニィ、と歯を見せて笑う。全部金歯だった。「……」。趣味が宜しいことで。その言葉を口に出さなかったが、態度には出てしまった。

 笑顔のまま近づいて来た。近づいて来て、そのまま万歳するケイジの側頭部を指輪の嵌った手で殴りつけてきた。

 皮膚が裂ける。血が噴き出す。


「今、笑ったか?」

「……わりぃな。悪趣味なテメェの面見たらとっびきりのコメディを思い出しちまったんだよ、金歯野郎」

「そうかい。ソイツは悪かった。これで侘びになるかな?」


 二発目。それが勢いに乗る前に、ケイジはその拳を迎えに行き、頭を叩きつけた。額が割れて血が出る。それでも相手の指を砕いてみせた。


「ヘェイ、無理すんじゃねぇよひょろがり(スキニー)。日がな一日おクスリのラベル眺めてる錬金術師アルケミスト蛮賊バンデットに喧嘩を売るのは良くない(・・・・)ぜ?」

「吠えるじゃねぇか、ベイビィ? どうして耳がはみ出して付いてるかを知りたいのか(・・・・・・)?」

「知ってるさ。ぎやすいからだよ。――ヘイ。今度はコッチの質問だ。どうして耳が捥ぎやすいかは知ってるか、吊り眼野郎?」

「……」

「生きてくのにあんま影響がねぇからだよ。つまり、無くなっても、捥いだ奴の喉元噛み切るのに影響がねぇからだ」

「……犬みてぇに吼えるじゃねェか。あのな、威勢は買うが、勘違いは良くないぞ、ベイビィ? この街で俺達に逆らって楽しく過ごせると思ってるんなら早々に改めな」

「そっちこそ何か勘違いしてねぇか? テメェらが飼ってた狼をぶちのめしたのは俺達だ。暴力での話し合いがしたけりゃそれなり(・・・・)程度の覚悟はしてから来な」

「……飼い主が飼い犬よりも弱いと思ってるのか?」

愛玩犬トイプーなら兎も角、テメェらが飼ってたのは銀狼じゃねぇか。ヘィ、やりたきゃやろうぜひょろがり(スキニー)。取り敢えずさっき心配してたボスへの報告はしないですむ(・・・・・・)様に配慮させて貰うから安心しな」


 テメェだけは絶対に殺してやるよ。言いながらケイジが頭突きをする

金歯エルフがその痛みに苦悶の表情を浮かべる。浮かべてしまった。

「……」にぃ、とケイジが笑う。痛がりはこういう場では宜しくない。本質的に、向いていない。椅子の上で稼ぐ種類の人物であり、そうして上がって来た種類の人物だ。


「テメェんとこの銀狼は躾がなってねぇからこれから強制しつけ教室のお時間だ。店をこうしたのはコイツだ。テメェ等も落とし前つける気だったんだろ? だったら俺等がやってもいーだろうがよ?」

「勿論、料金はタダで良いよ」

「ヤァ、その通り。お手とお座りを仕込める自信はねぇが――無駄吠えは出来ねぇようにしてやるよ」


 まぁ、無駄吠えどころか、もう吠えなくなる可能性が高いので、多分番犬としては使えなくなるが。


「……面子がある」

「あぁ、それか」


 確かにソレは大事だ。それが潰されれば、今後ラスターでは玩具の様に扱われる様になるだろう。その度にブラッド・バスを用意すればその内元の様に扱われる様にはなるだろうが、それまでの損失が大きい。ボスとやらが優しく待ってくれれば良いが――まぁ、こう言う(・・・・)組織だ。その辺を期待する馬鹿は居ない。


「ケイジ。彼で良いんじゃないかな?」


 ちょいちょいと肩を叩くガララが指差す先を見てみれば、入り口でトムとジェリーに爆笑していた熊が居た。ケイジ達を入れた責任を問われたのか、既に顔は倍くらいに膨れ上がってた。


「あー……」


 少し同情した。

 ミスでこちらの予定を狂わしてくれたラプトルズの若僧とは違い、彼があぁなったのはケイジ達のせいだ。既に人間の熊の方は死んでいる。アレと合わせて漁礁にするとしたら、度重なるエサの過剰供給で魚たちが浄化しきれずに海が汚れてしまう。

 何と言ってもケイジのポリシーは『人に厳しく、自分と環境には優しく』だ。

 今決めた。

 そして多分、五分後には変わっている。


「兄さん、ちょいこっち来い」


 突然の指名に、門番熊が金歯を見る。金歯は「行け」と言葉にする代わりに顎をしゃくって見せた。おずおずと門番熊がやって来る。不安そうだ。そんな彼をケイジとガララは笑顔で出迎えて――


「ナイスファイト」

「うん。本当にナイスファイト」


 親し気にその肩や分厚い胸板を叩き出した。「へ?」と間の抜けた声をだす熊。ケイジとガララはやるだけやってもう興味を示さない。この場の頭である金歯に向き直る。


「っーわけだ。名誉も手柄もくれてやる。証拠が欲しけりゃ、そうだな……」

「尻尾で良いんじゃない?」

「ヤァ。それだ、ガララ。そこなら切っても問題ねぇ」


 さて、落としどころさんとしてはどうだい? 軽く肩を竦めながらケイジがそう提案する。「……」。金歯は何かを考える仕草。そのまま数十秒。


「――どこに雇われた」

「ラプトルズ」

「……それは、完全に飼われているのか?」


 ケイジとガララが見つめ合う。目はお互いに真ん丸だ。その発想は無かった。


「生憎とロックンローラーでね」

「そう。誰もガララ達に首輪を付けることは出来ないよ」


 つまりは放し飼い。そう言うことだ。


「ウチの犬の代わりをやる気は――」

「ねぇな。だが雇いたくなりゃ言ってくれ。代金はそれなりにお安くさせて貰うぜ?」

「……荒事屋を気取るかベイビィ」


 言いながら、金歯が「おい」と側近に声を掛ける。ガタイの良いドワーフがケイジに名刺を手渡してきた。

 ケイジは、どうも、と言う気持ちを込めてピラピラ振ってからスーツの胸ポケットに滑り込ませた。


「どういう報酬が欲しい? 金では無いだろ?」

「金は控え目に言って大好きだが……情報だ。旧文明の兵士に関するもんが特に欲しい」

「……あぁ、なんだ。お前らハートレスか」

「?」

「有名だぞ、ジャック。良心ハートを捨てて、心臓ハートを探すクソッタレども。随分と派手に色んな組織と揉めて――」

「色んな組織と顔を繋がせて貰ってる。ヤァ、どうだいミスタ? 仲良くしといた方が得になる様に動いてるつもりだがよ?」

「……仕事が有れば回す」

「そうかい。期待はしねぇで待ってるぜ」


 そんじゃご利用をお待ちしておりマス。と、ケイジが手を振り、歩きだす。ガララが肩に担いだジオに視線を送るでもなく、その後ろ姿に金歯が声を掛けてきた。


「……ウチの犬はどうなる?」

「さぁ? 生憎と俺は教えられてねぇ。つまりは知らなくても良いっーことだ。あぁ、ゲイポルノに出演でもさせられる羽目に成ったらここ(・・)にビデオをおくりゃ良いかい?」

「――」


 要らんとでも言う様に手が振られる。残念だと言う言葉の代わりに、ケイジは盛大な溜息を吐き出した。


皇族主人公による高貴な話し合い。

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