ディスカード
本日は二話投稿(2/2)
錆ヶ原における人類の拠点はキャラバンタウンだ。
だが、そこから物資をヴァッヘンへ運ぶ港町こそが本当の人類の拠点だと言う人も居る。頻繁に亡ぶ街など街ではない。そう言うことなのだろう。
船乗りや、その護衛の開拓者向けの海沿いの酒場、そこのオープンテラス席に人間種の男がいた。背中が痒いのか、掻いている。ここの海風が体質に合わないのか、中々ソレを止めない。そして痒みは手が届かない場所に行ったらしい。
彼は数瞬の思考の後――機械の右手を外してソレで背中を掻きだした。
「ケイジ、ガララは、ソレはそう言う風に使う物ではないと思う」
「――コレ、割と良いんだぜ?」
セルフサービスの為、注文していた揚げ物と飲み物は自分で取りに行かなければならない。じゃんけんに負けたガララが帰ってくるなり、呆れた様に言うのに肩を竦めながら、ケイジは右腕を戻した。ロックを掛けた。数秒。手が動く様になる。感覚は無い。だがソレにも、もうすっかりと慣れた。まだ三か月程の付き合いだが、これから一生を付き合うことになるのだ。慣れなければ成らない。
「……錆ヶ原には無かった」
「ポンコツが言ってただろ? 東部解放戦線ナンチャラァ――って。んで、俺の技術は東軍のモンらしい。そうなると――」
「東?」
「んで、研究施設を最前線に造る訳もねぇから――」
「更に東?」
「わりぃね、付き合わせて」
「良いよ、気にしないで」
そうかぃ。そんじゃ気にしねぇ。そう言ってから、ケイジがテーブルの下を覗き込む。
「わりぃね、付き合わせて」
そこにはレサトが居た。レサトは何やら鋏を上下に揺らし、わたわたした後、しらんわ、とでも言いたげに顔を逸らした。
「ヘェィ? レサトさん? こっちを選んだのはテメェだぜ? っーか、そろそろテメェも一歳だろ? 大人になろうぜ?」
威嚇された。ブーツに鋏パンチを喰らう。
「レサトはまたご機嫌斜め?」
「見てぇだな。ま、外に出りゃ何時も通りに動くだろ」
「うん。そうでないと、困る」
言いながらガララが揚げ物に手を伸ばしたので、ケイジも手を伸ばす。茶色くて軽い衣で包まれた白身魚のフライだ。サクサクした外と、ほくほくした中身が美味い。ビールに良く会う。
「そう言えば、さっき期待の新パーティの噂を聞いたよ」
「ヘェ? 錆ヶ原に来んの? 俺等以降、定着した新規パーティねぇんだけど、最近の若いもん、大丈夫なのかね?」
老害ムーブをかますケイジ。そろそろ開拓者になって一年だ。一年経てばベテランと呼ばれる世界だから、そろそろ、そう言うムーブをしても問題は無いのだ。
「さぁね。ガララには分からないよ。でも、五人中三人が錆ヶ原の経験者で、自律戦車持ちらしいから期待は出来るんじゃない?」
「……パーティ名」
「捨て札。共通点は同じ人物に捨てられたらしい」
「……ヘェィ? ちょいと人聞きが悪くねぇデスカー?」
っーか、五人も捨ててねぇですよ?
「一人はゼン」
「……テメェもじゃねぇか」
「もう一人は魔女種の狩人」
「あー……微妙に覚えがあるけどよ、捨てたと言うほどでもねぇし、名前も知らねぇわ」
「ガララは優しいから残りの三人の名前は言わない」
眼を細くして、声を出さずにガララが笑う。
クソが。吐き出したくなる悪態を呑み込んで頭をガリガリ掻く。右手での力加減にも慣れてきた。
「……食ったら行くか」
「会っても良いのでは?」
「『俺達は先に行く』。そう恰好つけたんだぜ? 錆ヶ原で別れて、錆ヶ原で再会はさみぃだろ?」
「ガララはこの前、ヴァッヘンでロイに会った」
「……俺はアリアーヌの酒場でめっちゃ笑顔のリコとアンナに接客されたぜ。すげぇ怖かった」
「……」
「……」
言って、見つめ合って、くっ、と笑う。
恰好なんてついていない。進む理由は結局は代わらずに死なない為だ。一年経ってもそこは代わらない。そう言うものだ。
それでもケイジとガララとレサトは――ジャックは先に行く。
カードを三枚、切り捨てて。
「銃と魔法とポストアポカリプス。」第二部「Blessing」にお付き合いありがとうございます。
皆さんのブクマ、評価、感想、レビューなどを糧に何とか走り抜けられました。
一部と比べると短めですが、アレです。
夏休みに読むのに最適な長さの前作Doggyの最終章からだらっ、と書く癖がついてしまったので、十五万字くらいで収めようと思ったのです。(恐ろしく自然な宣伝、俺で無けりゃ見逃しちゃうね!)。
まぁ、そんな茶番は兎も角。
引き続き、三部もお付き合い頂ければなぁ、と。
多分十月位から行けるかな? と。行きたいな? と。
リコルートに入ることになった、本作がどうなるか見て欲しいなぁ、と。
……えぇ、はい。リコルートです。パーティから切り捨てられちゃったけど。
あ、レサト日記は夏休み明けくらいにでも。
学生のか、社会人のかは明言しませんがね!!