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ブラック・バック・ストリート

 ヴァッヘン西区を『港』と表すのならば、東区は『雑多』だった。

 石畳で舗装された道は車や馬車の行き来を考慮したものであり、道幅もそれ相応に広く造られている。

 道に沿う様にして様々な店が並び、その軒先を借りる屋台からは美味そうな匂いに混じって硝煙の香りも届く。売り文句が「白いの、あるよ」の店は……まぁ、何の店だかは考えない方向で行こう。だが、『盗品あります』の看板は何だ? あんな堂々としていて良いものなのか?

 道端にヤク中(ジャンキー)。角には娼婦フッカー

 退廃と淫乱の香りは道端でケタケタ笑いながら男が吐き出す白い煙のせいだろうか?

 ブラック・バック・ストリート。

 ヴァッヘンに存在する暗い部分を集めたそこは、後ろ暗い部分を持つ職業ギルドの縄張りだ。

 その一角、ストリップバーの入り口にケイジは立っていた。

 店の入り口がある地下への階段は薄暗い。奥を覗き込んでみれば、ボーイ兼ガードなのだろう。タキシードを着せられた戦闘用機械人形バトル・オートマタが佇んでいた。


「オ客様、デスカ? 入場料ハ、銀貨、一枚デス」


 ぎゆぃ、と機械音が響き、カメラアイがケイジを捉える。「……」同時、銃器と同化している両腕を向けられた。


「や、や、違ぇ。コレ絡みだ」


 敵意が無いことを示す様に、両手を上に。右手に持った紹介状を見える様にする。再度、ぎゅぃ、とカメラアイの中が動く。恐らく紹介状を読み込んでいるのだろう。


 ――随分とキレイに直してやがるなぁ。


 解体屋ばらしやと言う経験から、ケイジは一般人よりもオートマタの『役に立たなさ』を知っている。複雑すぎて修理が難しいのだ。

 腕利きの機械技師メカニックがいるシェルターではこうして再利用して有効活用できるらしいが、そんな腕利きは少ない。大抵はスクラップにして廃材利用が精々だ。

 そんな訳で倒すのが難しい癖に大した金にならないのが暴走機械と言うモノだったのだが……


 ――見た感じ、コイツはそれ程大事にされてねぇ。


 つまりはそれ程、珍しく無く、暴走機械を利用できる環境があると言うことだ。

 ケイジは改めて開拓都市ヴァッヘンの発展具合を認識した。


「ヴァッヘン市長ノ印ヲ確認シマシタ。入会希望者ト認定シマス、コチラヘ」

「仕事中に悪いね、ジャンクマン」


 ギギ、と言う音を立てながらも、人と遜色の無い二足歩行で歩き出すオートマタに促される様に歩き出す。

 表から見える扉を潜り更に地下へ。その先には分厚い鉄製の扉があった。店内で流れる音楽が漏れ聞こえるその扉の前には、オートマタでは無く、獣人の従業員がいた。

 狼の顔を持つ大柄な獣人は、オートマタと、その後ろを歩くケイジをギロリとねめつけると、ケイジがヒラヒラと見せびらかす様にして振った紹介状に視線を止めた。


「人間種か……」


 ちっ、と舌打ち混じりの言葉がケイジの耳に届いた。


「……」すっ、とケイジの目が細くなる。「毛深い方がお好みですか、ミスター?」

「……そうだな。毛が薄い奴は根性が無い。正直、神官クレリックにでもなって意味の無い寝言を神に捧げていて欲しいな」

「オーケイ、だったらアンタが気合い入れる為に使ってる育毛剤の銘柄でも教えてくれや」


 明日にはもじゃもじゃになってやるよ、と軽口を叩くケイジに、獣人が、少し驚いた様にパチパチと瞬きをした。


「人間にしては根性はありそうだな、助言者メンターの所に案内してやる。来い」

「……何だ、アンタ、試験官か何かだったのか?」

「趣味でな、自主的にやってる」

「そりゃぁ良い趣味をお持ちで……」


 すーてーきー。

 へっ、と吐き捨てる様に嗤いながらケイジ。そんなケイジの様子に楽し気に笑いながら狼は鉄の扉をおす。押し込まれていた空気が爆音と共に噴き出す。「……」。先程、道端でケタケタ笑っていた男の周りと同じ様な匂いがした。

 思わず顔をしかめるケイジ。ふと、横を見ると同じように顔をしかめる狼が居た。


「……」

「……」


 目が合い、どちらからともなく笑いだす。


「ルイ」

「ケイジだ」

「ケイジ、カウンターの横の席にいる虎の獣人に紹介状を見せろ」

「親切にどうも、ルイ先輩」


 ぴっ、と敬礼しながらのケイジの軽口に気にするなとでも言う様にルイが肩を竦める。


蛮賊バンデットギルドへようこそ、後輩」


 その言葉に背中を押される様に、ケイジはストリップバーへと踏み入れた。


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