砦を進む
「反抗しようとしたら殺す。逃げようとしたら殺す。質問の答え以外を口にしたら殺す。分かったか? 理解できたか? イエスなら目を閉じろ」
ケイジの言葉に――
「――」
ノームは睨みつけることで返事をした。反抗した。ならば話は早い。ケイジは右ひじを踏みつけ、固定をすると、その先に有る手の平にSGの銃口を近づける。引き金を引いた。ノームの手の平が無くなった。
「俺の本気はコレで分かって貰えたと思うんだが……どうだい、ボクちゃん? まだ分かんねぇっーんなら続きをやるけどよ?」
痛みでもだえるノームの左肘を踏みつけながらケイジ。ノームは脂汗を流しながら目をつぶったまま、必死でケイジに顔を見せてくる。
「ケー。良い子だ、ベィビィ。言葉が通じるんだ。紳士的に行こうぜ」
――レサト。
ケイジの合図を受けてレサトが鋏で器用にノームの猿轡を外す。すると――
「コレは差別だ! アナタはボクがノームであると理由で一切の自由を奪い、言葉を奪った!ボクはこの不当な差別に断固として――ッっぁ!!」
左手が無くなった。
「ヘイ、ヘイヘイヘイ。確認させてくれや、言葉は通じてんだよな? 命令違反はコレでもう二度目だぜ? もしかして利用価値があるから殺されねぇとでも思ってんのか? だったら今すぐヤメロ。手が無くなった。次は足だ――って言ってやりてぇ所だがよ。わりぃが次は頭に行くぜ」
ごりっ、と仰向けになったノームの眉間を銃口が押す。
ノームの両目が寄り目になって銃口を見た後、すっ、とケイジの眼を見てから、ぎゅっ、と瞑ってみせた。
「……」
何も言わない。
「ヤァ、漸く理解して貰えたみてぇで嬉しいぜ、チビ助。それで良い。俺が許可した行動以外はとらねぇようにしな。理解が出来たか?」
一度開かれた眼が再びしっかりと閉じられる。
「良い子だ。そんじゃ軽く質問だ。クスリを用意したのはテメェか? イエス、ノーで答えろ」
「イエス」
「ブラーゼン協同組合の目的を知ってるか? イエス、ノーで答えろ」
「……ノー」
「そうかよ、テメェバカなんだな。目的も知らねぇ相手に協力するとかどうかしてんな」
「……」
「はっ、何てな。安心しろや。俺はテメェが馬鹿だとは思ってねぇ……覚えたぜ。ソレがテメェが嘘を吐く時の『反応』だな」
余談だが、ケイジにそんな観察眼は無い。
つまり、これは嘘だ。
だが、そんなことを知らないノームには多少の効果があった。有り得ない。そんなものは無い。そう確信しながらも、堂々と言い放たれた言葉はどうしたってトゲの様に残る。
ソレを相手は気にする。そうすれば本来の目的に気づかれ難くなる。――かもしれない。その程度。だが、ケイジはその程度が欲しかった。頭の良いノームに警戒して欲しかった。
「ま、時間もねぇ。次に行こうぜ。――テメェの目的はなんだ。簡潔に答えろ」
「……」
「ダンマリは許可しねぇぜ? 三秒だ」
「……命令で動いただけだ」
微妙に外れた答。だが、ケイジはソレを気にしない。
「誰からの? 何処からの?」
「所属組織の、長からの」
「その組織の目的は?」
「……」
「ヘイ、二度目だ。ソレは許可してねぇぜ?」
「……」
「……ケー。死んでも言えねぇ部類の命令って訳だ。そんじゃ最後に答えが簡単な質問だ。間違うなよ? 間違えたら殺すぜ? テメェの種族と、テメェがクスリを造るのに協力した組織を言え」
「? 種族はノームで、協力した組織はブラーゼン協同組合だ」
分かり切った質問に、不思議そうな顔をしながらも答えるノーム。
「馬鹿が」
それを聞いてケイジが酷薄に嗤う。すっ、と構えるショットガンの銃口がノームの眉間から離れて喉へと移る。
「?」
「不正解だ。『答えが簡単』な質問だっつっただろうがよ。『答え』は『簡単』だ」
「っ、そんな、子供の言葉遊びみたいな――」
「ヘェイ、発言も許可してねぇぜ?」
引き金を引く。銃声が響く。弾は出ない。空撃ちだ。だが、ソレに合わせる様にして強く叩きつけられた銃口が、ノームに死を錯覚させた。白目を剥き、意識を手放している。
「……ケイジ」
「あン?」
「クソッタレだね」
びっ、とサムズアップして見せるガララ。
「……ありがとよ」
びっ、とケイジはそれにゴー・トゥ・ヘルで答えた。
「レサト、録音」ケイジの呼びかけに、両鋏を掲げて『ばっちりだ』と言う様な仕草をするレサト。「オーケイ」。ケイジはそれに満足気に頷く。最後の質問以外はどうでも良かった。その答えが録音出来たのなら――。
「レサト。テメェならいざと成ったら逃げれるだろ? 交渉が割れてヤバく成ったら逃げてソレをキティにでも渡してくれや」
レサトとの勝負の『勝ち』は正直、拾い物だとケイジは思っている。
旧時代の軍用兵器など、本来なら勝てるはずも無い相手だ。碌なメンテもせずに弱体化したレサトをけしかけ、こちらに譲ってくれた村長には感謝してもし足りない位だろう。今度、墓に花を持って行くのも悪くない。
ノームを背負い、砦の中を先導するレサトを見て、ケイジはそんなことを思った。
レサトはカサカサと天井に張りついて動き回った結果、既に砦の凡その構造を把握し、指令室の様な場所も把握していた。実に有能だ。
所詮は先遣隊であり、もう既にあまり戦力は残っていないのだろう。六人一組のちゃんとしたパーティに出会うことは既に無くなっていた。何か事件があったのか、ケイジ達のルートには余りおらず、離れた場所に集まっている。いても二、三人が精々だ。物陰でやり過ごしたり、稀に『処理』したりしながらケイジとレサトの一人と一機は砦の中を進んで行く。
「……」
既にガララの姿はケイジ達の周囲には無い。レサト同様に既にある程度の砦の構造を把握したガララは盗賊『らしさ』を発揮して別ルートから回っている。
まぁ、あのデカい図体が消えるわけでは無い。そこまで深くまで潜れるわけでは無いだろうが、浅い所でこそこそと『仕掛ける』のであれば十分なのだろう。ケイジ達から離れた場所で『どうして』騒ぎが起こったのか? それを考えるのは中々に愉快だ。
階段を登り切り、最上階へ。誰かが走ってくる気配と音に、咄嗟に戻り、窺う様に外を覗く。
慌てた様子で走る女エルフが見えた。その背後から染み出す様に、大柄なリザードマンが現れた。流れる様な、水の様な動作。あるべき場所にある様に、その太い腕が女エルフの首に掛かる。裸締め。体格差から浮き上がったエルフはもがきながらもナイフを取り出し、そのリザードマンの太い腕に突き刺そうとするも、呪印のガードに弾かれ、不発に終わる。逆に彼女の方が折れた。足の動きが遅くなり、手が垂れ下がる。だが、リザードマンは容赦しない。ジャムの瓶の蓋にするのと同じことを彼女の首にもした。
かくして緊急事態を知らせに来た女エルフは終わることになった。
「んだよ、この砦、ゴブから徴収したから電話線ねぇのか?」
おつー、とケイジが手を挙げると――
「ううん。鋏の様なモノで切断されたらしいよ」
かれー、とガララも手を挙げた。
「成程な。この嬢ちゃんもついてねぇことで」
何となく足元を見ると、レサトがわざと、しゃきん、と音を鳴らして鋏を閉じて見せた。まぁ、犯人の特定は容易だ。
「さて、ケイジ? 異常事態が発生した場合、情報が集まるのはどこだと思う?」
「そりゃ頭に決まってんだろ?」
「そう。それじゃそこが頭だよ」
女エルフが目指していた扉をガララが指差した。
ストックが回復したぞー。少しだけど!!
前回のあとがきが修正されます。
こんな世の中はポイズン。
いや、別に言いたいことではないから、どうでも良いんですけどね。
尚、このあとがきの一部もその内消します。