魔女種
シオミコーポレーション・ヴィレッジ。
その村の居住区画は六階建て二棟の本社ビルだった。
三階と六階に渡し廊下があるそのビルで人々は生活していた。壁の無いフロアを適度に区切り、個人や家族の居住スペースを造っていた。
ビル内部の施錠にはカードリーダーが使われており、ケイジ達に渡された『来客用』と書かれたカードキーであれば、Cゾーンまでなら入れると言うことだが、腕を態々発注する様な大物がCゾーンに居るわけもなく、村長秘書だと言う女性に連れられてBゾーンと呼ばれる区画を歩いていた。
――あぁ、そういやこの仕事。無名教絡みだったな。
その際にすれ違う人々からガララとリコに向けられる視線を見て、ケイジ。
侮蔑混じり。汚いものをみる様な眼。そもそも、この村には人間種しかいない。それでも一番数が多い人間種の多くが大なり小なり信仰する宗教だ。リザードマンとダークエルフはそんな目で見られることには慣れているようで、特に気にした様子も無さそう。
「皆さん遠くからご足労、ありがとうございます」
そんな訳だったので白いローブを着た村長だと名乗る男がそう言って出迎えた際、意図的にガララとリコを目に入れない様にしていたことも、気にしないことにした。ローブを見る限り、神父も兼ねているのだろう。信仰深い神父サマには何を言っても通じない。そう言うモノだ。
それよりもケイジが気に成ったのは、腕の依頼主だ。
てっきり戦闘用機械人形だと思って居たのだが、その予想は半分当たりで、半分外れ。戦闘用であり、機械ではあるが、人形ではない。
走破性で戦場を選ばない為の構造なのだろう。二腕八脚の多脚戦車が有った。サソリを模しているのだろう。背中でゆらりと尾をゆらすソレの足は細く、先端は鋭く尖っている。平べったい胴から伸びる一本だけの腕の先端は珍しいことに実弾銃ではなく、光学兵器になって居た。
高威力だが、高価で壊れやすいので開拓者はあまり使わないので珍しい。
「……」
何となく。本当に何となく、ケイジが指を差し出してみたら、ソイツは指ではなく尾を伸ばしてケイジの指の先に合わせて来た。
「……光らねぇのか」
「あ、それ知ってる。旧時代のムービーのネタでしょ?」
いきなり少女の声が聞こえていた。多脚戦車が喋ったのか? と思ったが、声はその後ろから聞こえて来た。ひょい、とケイジが覗き込んでみると。そこには檻に入れられた赤髪の少女が居た。小柄な少女だ。可愛らしい少女だ。アーモンドの様な円らな瞳は左右で色が違っていた。右目は紅玉を思わせる赤。対して左目は深い緑のオッドアイ。左右で瞳の色が違う女だけの種。それは――
「魔女ですよ。最近捕らえましてな」
「……へぇ?」一瞬、村長に視線を送るも、直ぐにケイジは少女に向き直る。「で、テメェ、何で檻に入れられてんだ?」
「決まってるでしょ? 魔女種だからよ」
「あぁ、アホ宗教のアホ信者のアホなアレか。何だっけ? 浄化?」
「そう。ソレ。明日辺りに屋上の特設ステージで、あたしの初めてはこのタヌキに奪われるのです!」
よよよ、と泣き真似をして崩れる少女。
「……」
余裕が有る様に見える。そう見える様に見せている。それでもその身体は震えていた。それにケイジでも気がついた。ならばケイジよりも注意深いガララが気がつかないはずがない。
「ケイジ、彼女は何をされるの? 困っているのなら、助けてあげたら?」
人間にはリザードマンの表情は慣れないと酷く読みにくい。
それでも一ヵ月の付き合いでケイジはガララが怒っていることが分かった。
「ヤァ! お前の男っぷりには頭が下がるぜ、ガララ。まな板ショーだ、まな板ショー。そこのタヌキ親父が村人の前でこの嬢ちゃんと『致す』。んで、男連中は次に『致す』為に行列造って並んで、女どもは汚れた嬢ちゃんを笑ってすっきりする。そう言うクソみたいなイベントだ」
「? 何で彼女にそんなことをする?」
「人間で無い穢れた身を浄化して下さるんだとよ」
「つまり、魔女種は汚れているからということ?」
「らしいな。このおっさんよりは嬢ちゃんの方がどう見ても綺麗だけどな」
「汚れているのに交わるの? 人間の宗教は少しおかしいね」
「まぁ、実際には『汚れてる』とは微塵も思っちゃいねぇからな。適当に異種族の女をヤる為に生臭坊主共が考えて、辺境のちっちゃえ権力者が利用してるだけだ」
そう、ガララは怒っている。そして――
「――なぁ、そうだろう、村長サン?」
ケイジも余り楽しくは無い。
瞳孔開き気味に、犬歯を剥き出しに、狂相の中に笑みを造っての問い掛け。
その様をリコは、ひゅー、と吹けもしない口笛で讃えていた。ベイブ達は『思い出し』、軽く下がっていた。そして村の権力者は――
「は、はははっ、騎士様たちのお仲間は随分と愉快でいらっしゃる。――老骨からの忠告です。こういう野良犬の様な輩とは付き合わぬ方が良いですぞ?」
満面の笑顔で青筋を浮かべながら、嫌みで返してきた。
「ヘイヘイヘーイ、失礼じゃねぇか、村長サン? 俺は一般的な都市に住まう善良な市民としての意見を言ってるだけだぜぇ? 都市法でも明確に禁止されてンだろーがよ、テメェらの教義にある『浄化』っー大層なお名前の付いた乱交はよ?」
その辺はどうお考えですか、くそジジィ?
「……」返って来たのは無言だった。口喧嘩をする気は無いらしい。
「人の造った法が認めずとも、神がそれを認めています」
だから、と言う訳では無いだろう。
敬虔な信徒であるミコトが一歩前に出て鈴の様な声でそう言った。
「神が認めている以上、その行いは正義です。どれ程悪辣で非道に見えても、それは正しい行いなのです」
「そうかよ、狂信者。出来れば嬢ちゃんと同じ年頃の同性としての意見が欲しかったぜ」
「魔女種に生まれた彼女が悪い。それだけですよ」
「……オーライ。そこまで徹底して言い切れるんなら俺はもう何も言わねぇよ。ヘイ、村長サン! さっさと受け取りのサインをくれ。お前ら信者の吐き出す清らかな息は、信者でねぇ俺には臭くて堪らねぇ!」
造りの良さそうな机に運んで来た腕を転がし、受け取り確認の書類を叩きつける。村長がそれにサインをして――
「騎士様。先程のアドバイス、良く考えて下され」
ベイブに渡そうとした。
当然、ベイブはそれを受取ろうと、手を伸ばし――
「受け取んな、ベイブ」
その言葉に、びくっ、と身体を竦めた。
「覚えときな、ベイブ。こう言う書類のやり取りはな、チームのリーダーがするモンだ。――言ってること、分かるよなベイブ?」
「……犬が、吠えておりますな。さ、騎士様、お受け取りを」
固まるベイブに書類を握らせようとする村長。
その後ろでケイジはベルトに仕込んでいた握り込み用の鉄の棒を見せびらかし、ガララは指の骨を鳴らす。「――ひぅ」。それを見たベイブの眼に涙が浮かんだ。
埒が明かないと思ったのだろう。ベイブの代わりにミコトが受け取ろうと手を伸ばし、「……だめだ」ベイブがその手を掴む。
「リ、リーダーは、こっ、このチームのリーダーはっ! 彼っ、です! 彼にっ! 彼に渡してくださいっ!」
「……ヤァ、テメェも男っぷりが上がったじゃねぇか、ベイブ。おら、さっさと寄越せ」
「……」
最後の抵抗なのだろう。くしゃっと握り潰して手の上に乗せられる。それをケイジは、ふっ、と鼻で笑い、更に丸めて乱雑にズボンのポケットに突っ込んで見せた。
その態度に真っ赤な顔で睨む村長に右手を振って『さようなら』部屋から出ようとする。
「あれ、お兄さん。あたしは助けてくれないの?」
「あー……やっぱ助けて欲しいよな?」
「そりゃぁねぇー」
「しんどそうだなぁー……」
ちぇー、とほっぺを膨らませる少女にも右手を振って『さようなら』。
何か言いたげなガララを蹴って部屋から出すと、ケイジもその後に続いて部屋を出た。
最近覚えた好きな言葉
『クリスマス男子シングル』
土鍋でアヒージョを造って堪能した自分はメダルが狙える逸材だと思う。
アヒージョと言うクリスマスっぽいメニュー(偏見)。
それを土鍋で造ると言う男子らしさ。
そして祝日だけど関係なく出社させられる社畜具合……。
お陰でクリスマス男子団体すらも無理だったよ!!
逸材ですよ! 多分! いや、きっといっぱい居るだろうけどな! 同士!
そう言う理由で酒を飲んでいたら、投稿を忘れて昨日は投稿が遅れたわけではない。無いったら無い。
ユダヤ教的にはもう手遅れだけど、皆さんメリークリスマス。