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“わたし”について

今日は二話同時更新(1/2)

「――」


 息を飲む。飲み込む。飲み下す。

 “彼”の吐いた血を見て、わたしは、リコと“彼”に呼ばれるわたしは吐き出す息に甘いモノが混じるのを感じてしまった。

 頬に血が巡る。涙腺が緩んで涙が滲む。動悸が、速くなる。

 とける。

 それはわたしの“らしさ”だ。

 それはわたしが持って生まれた特性で、性癖で、祝福で、呪いだ。

 どうしようも無い程に“死”に惹かれる。

 代々オルドムング教団の神職に就いていた影響だろうか? オルドムングを信仰するモノとしては極めて正しいその性質をわたしは信仰に依らずに持っていた。


「――」


 はぁ。

 と、甘い息が零れる。神父様も良かった。頭が半分になって尚、血を求める様に動くあの死に様は、とても、とても、とても、素敵で、素晴らしくて、興奮した。


 ――あぁ、でも。


 声に出さずに音を転がす。


 ――あぁ、それでも。


 “彼”には敵わない。“彼”には届かない。“彼”は最高だ。

 殺す為に造られた肉体。

 殺す為に調整された精神。

 “彼”の両親が、“彼”の師が、皆で削って、磨いて、尖らせた彼の才能。

 手。手を。手を伸ばす。優しさを意識して。

 “彼”を心配するアンナちゃん。

 前に一度見た、それ。

 “彼”を膝枕していたアンナちゃん。聖女の、わたしとは違う、本物の聖女の様に優しく、柔らかく、彼の髪を撫でていた綺麗な女の子。

 それを意識する。

 大丈夫。出来る。だから触りたい。わたしだって触りたかった。死にかけの彼に触りたかった。血管が動くのを感じたかった。鉄の匂いがする吐息が弱くなるのを感じたかった。装甲車に空けられた左肩の孔を見たかった。

 だけれど我慢した。ほっぺを突くだけで我慢をした。

 だって、わたしは死にかけの“彼”に触れたら笑ってしまう。嗤ってしまう。

 綺麗な、可愛いアンナちゃん。

 そんな彼女とは全く違う笑顔。戦闘でケイジくんが見せる貌。それに近い笑顔を浮かべてしまう。

 わたしは死が好きだ。

 血の匂いも、肉の焼ける匂いも、内出血で青く変色した皮膚も、焼け残った骨も好きだ。

 だけれど、“彼”のことも――好きだ。

 最初に好きになったのは“彼”の性能だった。目で追う内に異性として意識していた。そんなことになるとは思わなかった。だから本性は既に見せてしまっていた。手遅れだ。それでも隠したい。少しでも隠したい。そう思った。思ってしまった。

 だからわたしは“彼”に触りたくない。

 笑ってしまう。

 嗤ってしまう。

 そしたらきっと、引かれてしまう。わたしの性癖を知ってはいても、その深さはきっとまだバレていないから、引かれてしまう。

 でも。それでも――


「―――――――――――――――――――――」


 深い吐息。それが止められない。手が止まらない。引かれてしまう。嫌われてしまう。それでも今はチャンスだ。

 心配しているふりをする。しろ。私は私にそう言い聞かせ、“彼”の手を取る。跳ねる血管。強化された心臓に対応できるように造られた血管が太く、浮かび上がっている。振れる。鼓動早い。まるで小動物みたいなペースで脈打っている。“彼”が死に近づいているのが分かる。

 強い、強い、“彼”が死に向かっている。あぁ、それは、何て――。

 素敵なことなのだろう。


「――ケイジくん」


 だからわたしは心配そうに“彼”の手を握って口づけをした。

 嗤っている貌が、“彼”に、ケイジくんに見られない様に。

 鉄の匂い。血の味。それがケイジくんのモノだと理解した時――


「……」


 ふるっ、とわたしの身体は快感で震えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] お似合いのベストカップルなんじゃないの、コレ? そう思ったのは自分だけじゃないはず
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