都市軍
練度が高い。そして装備が統一されている。
恐らく、と言うか確実に全員が“あがり”だ。ただし、救いがあるとしたら大半はただ“あがり”を迎えただけの量産型“あがり”だろう。
ケイジやガララの様なタイプも居るには居るが、そう言うタイプはこの組織には入りたがらない。
都市軍。ヴァッヘンが飼う犬だ。
雑魚の質が良いのでやり合いたくない。それがケイジの認識だ。と、言うか……
「神父。説明はねぇのか? 相手が都市軍ってのは……ヤァ、流石に言いてぇことが出てくるぜ?」
真っ当な二等市民としてはあっちに付くべきだとすら思えてくる。
ケイジが真っ当かどうかは置いておいて。
「それは、重要ですかね?」
笑顔の神父。目線が一瞬リコを見た。
ケイジは軽く肩を竦めて返事の代わりにした。
「おィ、ジャックぅー、テメェ等、ソッチに付くのかぁ?」
そんなケイジに向かって都市軍側から鉛の弾丸に混じって言葉の弾丸が飛んできた。
「……」
「……」
ケイジとガララが無言で目を合わせる。ケイジが、すっ、と手を軽く上げるのに対し、ガララは肩を竦めてSMGを軽く叩くとカバーから攻撃を開始した。爆発音。投げられたグレネードが届く前に中間点で撃ち落としたのだろう。
SGと言う連射が効かない得物を持つケイジとは違い、こう言った戦場でもガララのSMGは出番がある。だからガララはじゃんけんに応じない。『やりたいならケイジがやってね』。そう言うことだ。「……」。ガリガリと頭を掻く。息を吸って、息を吐く。めんどくせぇー。そんな感情が湧き出そうになるのを見て見ないふりしてケイジは動くことにした。
「ヘェィ、コマンダー? お察しの通り、俺たちゃ巻き込まれただけだ。茶も飲んだし、茶菓子も食った。っーわけで帰る所だったんだがよ、このクラッカー、少し止めて貰うことは出来ねぇかなぁ?」
「勿論だぁ! 止めてやるさぁ! テメェ等とやり合いたくねェからなぁ、ジャックぅー」
「ヤァ、素敵な答えだぜ、コマンダー? 出世間違いなしだよ、テメェ。だがどう言うことだ? 一向に歓迎のクラッカーが鳴りやむ気配がねぇですよ? まさかとは思うがよ……部下が掌握出来ていないとか言うお粗末なオチは勘弁してくれよ?」
「先にソッチのガララとレサトを止めてくれぇー」
「わりぃな、掌握が出来てねぇわ」
「自動戦車は命令で止まるだろ」
「反抗期なんだよ」
な? とケイジが言えば、そうでも無いよ? とでも言いたげにレサトが鋏を振った。リロードに合わせたのだろう。空になった弾倉が吐き出されて地面に転がった。
「そうかィー。そんじゃオレも掌握が出来てねぇー」
「ヤァ、お互いに人望がねぇってのはつれぇな、コマンダー。テメェとは仲良く出来そうだ。そろそろディナーにでも誘いてぇんだが、どうよ?」
「良いな。今晩にでも行こうぜー良いエビを出す店を紹介してやるよ」
「はっはー、良いね。エビは好物だぜ? そんじゃ銃撃を止めな、コマンダー」
「ソッチが先だぜぇ、ジャックぅー」
「……」
「……」
鉛の弾丸は弱まらない。だったら言葉の弾丸だって弱まるはずがない。
「残念だ、ジャックぅー。どうやらオレ達の友情って奴はここまでみてぇだな?」
「ヤァ。その割には仲良しアピールが激しいじゃねぇかコマンダー? 俺もそう思うぜ?」
――は
と、乾いた笑い。
言葉とは違い、相手に届かせる気のない小さな笑い合。それがなぜだか銃弾の雨が降る戦場に奇妙に響く。そして――
「やれ――」
「――強襲」
ケイジ、参戦。
相手がグレネードを投げる。複数だ。撃ち落とせない。いや、多少は撃ち落とした。煙幕だ。個室にいるケイジ達は堪らない。視界が一気に悪くなる。その隙を付いて入ってくるつもりなのだろう。
良い手だ。そう思う。
馬鹿が。それ以上にそう思う。
入口が一つならどうとでもなる。穴だらけのソファーからケイジが転がり出る。両足、左手。二本と一本、合わせて三本で体重を支え、その低い体勢のまま、走り出す。一気に入り口へ。人の気配。それしかケイジには分からない。分からないので、それを頼りにSGを振り抜いた。
地面を撫でる様なフルスイング。
都市軍ご自慢の統一装備のレガースが打撃を受け止める。ダメージは無い。ダメージは無いが、それで転ばされる。先頭がこけた。だから次もつんのめった。多分、二人位巻き込まれた。転ぶソコに適当にケイジがSGを撃ち込む。雑に三発。一応、人数分。まぁ、一番上の奴が殆ど受けてお終いだ。
「止まっ、止まれ! ケイジだっ! ケイジが来てる! 騎士っ! 前に――」
手を伸ばす。適当に掴む。首だった。強襲で跳ね上げた身体能力を頼りに、握力に任せて締めあげてこっち側に引っ張り込む。ヘッドバッド。鼻骨を砕き、よろめかせたところで手を放す。髪の毛を掴み、そのまま壁に叩きつけた。
「――」
無言でずり落ち、鼻血で壁面に前衛芸術が描かれた。タイトルを付けるなら『赤い線』だろうか? まんま過ぎんな。そんな訳でアレンジ一つ。後頭部にSGの先端あてがい、引き金を引く。ぶちまけられた鮮血が赤い線の終端で爆ぜる。『赤い線~ピリオド~』。これは売れるな。いや売れねぇよ。
『ケイジ、逆側抑えたよ。けど……』
『ヤァ、連携とれてねぇな』
クソが。
パニック気味の教団員の皆さんが煙の向こうを必死に撃ち抜こうとしている。全弾が扉の先に行ってくれれば良いのだが、そんなことは不可能なのでケイジとガララが付いた扉側面にも来ている。お陰で攻め切れない。弾を避ける為に壁に背中を預けたケイジは座り込んでいた。ガララも似た様なモノだろう。
味方に足を引っ張られると言うのはこう言う状況なのだろう。
……いや元から味方じゃねぇな。
『ガララ攻撃止めとけ』
『良いの?』
『俺等の首を手土産に一時引いてくれ……って交渉は割と有りだぜ?』
『あぁ、うん。ガララもケイジも裏で首に賞金が掛かっているらしいからね……』
そう言うことだ。前も敵、後ろも敵。だから両方を気にしなくてはいけない。
やってられねぇな。そう思う。折角戦線を押し上げるのに必要な位置に立っても後方が信用できないので、ソレが出来ない。どうするかな。考えた。
「騎士で、壁を作ります。攻撃をお願いします」
そんな悩める子羊に悩む必要はありませんよ、と神父様。
「……」
「お願いしたいのはリコ様の身柄です。逃がし屋の手配は済ましておりますので――」
そこまでの道を造って下さい。
そんな勝利条件が提示された。ケイジはクソだと思った。思ったが、卑怯な神父様はリコを連れて来ていた。クソが。そう言いたい。言ってもどうにもならないから言わない。煙が薄くなって来た。なって来たが、必死に撃ち続けてくれた皆さんのお陰でガンスモークが立ち込めている。圧倒的に不利だ。どうやら生け捕り狙いの様だが、痺れを切らされて暗黒騎士を前に出されるとヤバい。室内でBBQパーティは勘弁して欲しい。
アンプル。RMD。打つか? 迷う。いや、止めておこう。前衛芸術の材料にした死体を担ぎ上げる。盾にして飛び出す。銃撃が来る。肉が抜かれる。使えない。放り投げ、一気に加速。SGの引き金を引く。二回。一人ころしてカバーを一つ奪う。
当然、そのケイジに対して銃撃が集中する。壁のポーションで造られたソレが集中攻撃にガリガリと削れる。拙いな。ケイジはそう思った。
だからガララもそう判断してくれた。
背後を取った利を余り生かせない銃撃。無音殺人術に持って行くのを諦めての援護射撃はそれでも挟み撃ちと言う状況を造り、一瞬の混乱を都市軍に与えた。
そこを、突く。
カバーに取り付き、こちら側を担当していたAR持ちの職業不明をカバーのこちら側に引き倒す。フォローに入っていたレサトが伸し掛かり腕を抑え、そのまま手首を鋏で切り飛ばした。
「いっ――!」
そんな鋭い叫び。ガララ側を見ていた視線が集まる。その視線の先には、銃撃が薄くなった隙を付いて部屋から出て来た教団員が居た。
そいつらが壁を造った。
乱戦だ。
割と好みの戦場だ。ケイジの口角が無意識に持ち上がる。キチ、と瞳孔が愉悦に広がる。だから攻めた。カバーを飛び越えるついでの蹴り足。バックストックで腹を打って、くの字に折り曲げた奴を盾に、カバーの内側をSGで蹂躙する。五発撃った。三人殺した。ジャムった。クソが。捨てる。盾にしてた奴が死にそうだ。かわいそうなので右手の杭を撃ち込み、止めを刺す。左手にゴブルバーを握った。
カバーの内側での対峙だ。長い銃身のARは余り有利ではない。向いたソレを踏み込んで払って、右。手刀。緩めに広げられた右が目を抉る。思わず痛みにARを手放し、後ろに下がった。腹を蹴り、後ろのSMG持ちにぶつける。一緒になって転んだ。ぞわり、と背中に悪寒。
同時に背後に気配が生まれた。腕を足で締められ、腕で首を絞められる。「ぐ」伸ばす様にしての締めにケイジから苦悶の声が漏れる。意識が遠くなる。なって堪るか。必死でゴブルバーに角度を付ける。そのまま引き金を引いてソイツの足を撃つ。三発だ。肉が吹き飛び、骨を抜いた。
それでも流石は都市軍所属の盗賊だ。その程度では外れない。
だが緩んだ。
右腕が抜けた。そのままソイツの腕を掴む。撃つ。腕を貫いて生えた杭がケイジの耳をかすめた。「……あ、ちょっと欠けた」。耳を触ったケイジが悲しそうにそんなことを言った。だが、やられた盗賊の方はそれ所ではない。見下ろす先には足と腕を吹き飛ばされた盗賊が居た。ネコ科の獣人だった。虎か猫かは知らない。鬣は無いのでライオンでは無いだろう。「……」。そして匂いがケイジ達よりだ。それに襟もとが少し豪華だ。
「……コマンダー?」
「……」
無言で睨まれた。それで十分に答えだった。
「美味いエビの店とやらを言う時間位ならくれてやるぜ?」
「……クソ喰らえ」
「そうかい。楽しみにしてたんだがな……残念だ」
微塵もそんなことを思って居ないだろう声音でケイジ。
言って、ゴブルバーの引き金を引いた。
それで相手の現場指揮官が終わった。後は好きにやってくれればいい。質は都市軍の方が良いが、量は本拠地だけあって教団の方が多くなっていた。助っ人の仕事としてはこの辺りで良いだろう。
指揮官死亡に動揺する都市軍を転がしてケイジとガララは出口を確保した。レサトとリコ、それと神父がやって来た。「……」来るなや。そんな感じで睨みつけるが、笑顔を返された。時間の無駄だ。そう判断し、外に出る。
角待ちのSG。
外に踏み出したケイジにソレが襲い掛かる。
「ケイジくん!」
リコの悲鳴。
「――」
それが響く中、にっ、とSG持ちが声なく笑う。
その口の端から赤い液体が零れて、落ちた。
一歩。
踏み込んで左手でSGを上に払って、右の掌打を腹打ち込み、杭も撃ち込んでおいた。
一瞬の判断。いや、反射。それでどうにかなったが――
「……死ぬかと思った」
「ガララは死んだと思ったよ。油断をしないでケイジ」
「……ガララ、俺のズボンが濡れてても気付かねぇふりしてくれや」
「……漏らしたの?」
「……多分、漏らしちゃいねぇけどよ、汗が一気に噴き出したせいか、ちょいびちょい」
でも、大丈夫だ、多分な、とケイジ。
多分なんだね、と呆れた様にガララが言った。
何か、普通に朝から働いて帰れるのがこれ位の時間って間違ってる気がする。
(訳・更新時間は暫くこの辺だと思います)