アーデルベルトの思い Ⅰ
Side:アデル
『マスター、レーベル様寝たよ』
『ぐーすか』
『安眠。良い睡眠は美容にイイ』
『マスター夜這い禁止』
『寝顔とっても可愛い。けどマスター見に行っては駄目。ケダモノは駄目、絶対』
オイ!
と最後突っ込むと、配下達が一斉に『キャー』と布地に書いた文字を掲げてサササッと逃げて行く。
完全に配下達に遊ばれているな、コレ。
そう思うが、ここ最近まであまりこうした交流が無かった為に嬉しくなる。
何故だろうな。
レーベルが産まれてから何故か活性化された大地に眠る魔力が地表にも溢れ、周辺の黎明の森と深淵の森布巾では大地に力強い息吹の気配がする。
その証拠に配下達の話しでは、レーベルのダンジョンがある深淵の森では既に芽吹いており、一気に活性化されて元のような森が出来上がりつつある。恐らく明日辺りにはかなりの木々が生い茂っているだろう。
「所でお前、雌、雄どっち?」
レーベルの寝顔を見に行ったらしき配下を睨み付けると、文字を書いていた布をササッと仕舞ってダッシュで逃げ出した。物凄いスピードだ。
「てめぇ!まてこらぁ!」
速攻で下半身の蜘蛛の身体から強靭な糸を捻り出して投げつけると、『きゃああー!助けてー!』とか『つい出来心で―!』と弁解しだす。
どうでもいいが、よく糸でぐるぐる巻きの状態で文字が書けるな。そして此方に掲げるな。文字を見せ付けるな。余裕か?余裕だな?変な所で感心してしまうぞ。
そして俺。
明日レーベル達が町に向かう事になるのだけど、今の姿になってから数百年。今の所この姿が最終進化状態なんだよなぁ。
この先恐らくコレ以上の進化はしないだろうと思われる。多分だが。
人型に一番近い状態なのだが、残念ながらこの姿だと町へは入れない。所謂門前払いって奴だ。それ以前にこの姿で人族の住む街等に近寄ろうものなら、討伐騒ぎが起こってしまうだろう。人間如きにヤラレはしないが面倒事は避けておきたい。
やはりココはアガーテに頼んで、猫姿になるアイテム売って貰うしかないだろうな。
金貨は無駄に余っているから別に良いが、つい口から「俺が猫かよ…」と出てしまう。
オイ。
誰だ、今隅っこで『プ。マジで』と布に書いている奴。
更には別の配下が爛々とした目で『マスターがもっふもふ…』ってにじり寄って来るのは何故だ。微妙に薄気味が悪いぞ。
蜘蛛特有の8つの目が何故か欲に眩んだ状態で見詰めて来て、冷や汗が出る。
ヤメロ、その目で見るのは頼むから止めてくれ。
そんなに『モフモフしたい』ならヴァルヘルムを撫で倒してくれば良いだろう。アイツの鬣と尻尾はモフモフと触りがいがあるのではないか?
もふもふと言うより、シットリとツヤツヤな気もするが。
『アレとコレとは違うベクトルがあるのです!』
って文句を言うな。意味分からなくて怖いわっ!と言うより此方に詰め寄るな!まだ猫になっていない!と言うより成れるかどうか分からないのだぞ!
何時になく押しが強くて困る。
俺の配下、こんなに意思押し通す奴今まで居なかったぞ。何方かと言うと欲が無かったと記憶している。それだけ『モフ欲が強いのです!』と喚いているようだが、そうなのだろうか。コレはコレでまぁ、配下の新たな一面を見たことでヨシとすべきか?
確かに猫と馬では触り心地が違うだろう。
だが、配下に撫でられるのは諸々と示しがつかない気がするのだが。主に私、いや俺のプライドの問題で。
『そんな!配下のお願いより自身のプライドですか!マスター!そんなプライドは其処らに捨ててしまって下さい!』
おーい。
俺のコトより自分の欲望優先か。
この野郎と捕まえて頭をグリグリと撫で付けたら、
『マスター楽しそうです』
『まぜてー』
『いいなー、僕もー』
等といい、何時の間にか俺の周囲が配下だらけに!
「お前ら…」
今までこんなことに為ったこと等無かったぞ。
そう言いそうになった言葉を飲み込む。
『レーベル様が来てからマスターの感情が豊かになりましたので、僕らもその恩恵に預かっています』
『僕らはマスターの子供の様なモノですが、マスターの感情次第で能力が上がります』
『それにレーベル様の配下の子達は皆、とても感情豊かでした。僕らもマスターが『人らしく』あろうとするのに合わせて感情が発達するみたいです』
『多分~きっとそう~♪』
「人…」
どうでも良いが、最後何故音符。人みたいに、歌でも歌っている気分…あ。
そうか、俺は…
『マスターは人に為りたかったのでしょう?』
『忌々しい大蜥蜴であるドラゴンが来てから止めてしまったようで、僕ら心配していたんです』
『諦めちゃったのかなって』
『僕、マスターの歌聞けるのかなって楽しみにしていたのですよ~』
「そうだな…」
先程まで『モフモフしたい』と訴えていた配下の一人が過去『歌を聞いてみたいです』と強請り、蜘蛛の8つある目で訴えて来た。
とは言っても俺は歌を知らない。
過去アガーテに教えて貰おうとしたのだが、彼女は「困った状態に陥るのにゃ…」といって一応と断りを入れてから歌って貰った歌は………
配下とアデル、そしてアガーテの相方であるダンテでさえアガーテが紡いだ声を聞いた瞬間、気を失う様に眠りについた。
当人が音痴と言い張るが音痴というわけではない。単純に彼女、アガーテには持って生まれた『睡眠』と言うスキルがあり、歌うと周囲の人々が眠りに陥ってしまうのだとか。同時に歌が終わると目を覚ますため、アガーテ自身には特に困りはしないのだがアデルはお蔭で歌を覚えることが出来なかった。
ちなみにダンテは「無理」の一言で終わった。
理由はダンテの方が本当の意味での音痴で、一定調子の言葉が出ているだけであり、歌なのか話している状態なのか分からなかったと言う状態になる。
お蔭でアデルは音程というものが分からない。
今度レーベルに頼んでみよう。
産まれたばかりで歌を知らない可能性があるが、彼女なら何かしら歌を紡いでくれるかも知れない。それこそ、アデル達の糸のように。
『僕ら頑張りました』
『布に文字書いて~。アガーテ様達来るようになって、色々文字を教わった~』
『私達マスターに人間のように接するのは無理でも、文字なら書けます。人間って文字を書いて伝えることもあるって学びました』
『マスター。僕達、マスターが何時か人に進化するのを待っています。マスターの長年の夢でしたし』
長年の夢。
何百年前だったか。あの大迷惑なドラゴンが襲来するよりも前。
俺の居る黎明の森のダンジョンはまだ『開かれて』おり、今のように閉鎖空間では無かった頃。人族の冒険者とか探検者だとか、ハンターだとか。年代により呼び名は変わっていったが、あの嬉々としてダンジョンを見て回る熱量を持った者達を見て。
何よりも羨ましいと思った。




