事実だけに!
黒猫姿のアガーテが頑張った?せいでアデルから無事に『相方が拵えたお裁縫道具』を取り戻し、安堵の吐息を付きながら床に女の子座りをして半泣きして居た。
「そんなに泣くなら最初から妙なことをするな」
と呆れたアデルに言われたが、
「女としてあんな綺麗な娘の肌はつい触りたく為るものー!」
と言う謎の言葉を叫んでいた。
結果。
『女の子はそんな事しません』
『貴女だけです』
『この変態』
『痴女』
『これ以上やらかすと大蜥蜴の餌に差し出すよ』
…大蜥蜴ってのはあのドラゴンさんの事かな。
と言うか、アデルの配下である蜘蛛達がアガーテの足先で脅迫めいた文字を書き始めて来た。
「なんつーかこー…俺の配下がレーベルに懐き過ぎて居る件」
「ぱぱ、ちゃう。この、こ達、ぱぱ、だいちゅき、だから、ぱぱ、困ることする、こ、め!ちてゆ」
何だか「お前達!」と言って感動しているアデルには申し訳無いけど、一匹だけアデルに見えないようにディスってるのが居るんだけど。
『あの様な痴態を繰り広げたらマスターが喜ぶんでヤメて下さい』
…。
見なかった事にしよう、そうしよう。
そして喜ぶのかアデル。
無意識に数歩後ろに後退してしまったのは、防御本能が出た為だろうなぁ。
* * *
「所でアデル。この黒猫なアガーテさん、何で普通にアデルのダンジョンで更に奥地に隠されている温泉に来れたの?」
驚きすぎてすっかり質問するの忘れていたけど、何処からどう見てもアデルの配下で無さそうな(蜘蛛ダンジョンって名前のダンジョンだし)、黒い毛が艷やかでお腹の毛がフワフワモコモコなアガーテ。
「うふふにゃぁ~この魅惑ボディに悩殺されたかにゃ?にゃ?」
とか言った瞬間ルクレツィアによってアガーテのお腹に頭突き食らって仰け反って居た。
正確にはルクレツィアはお腹の毛に突進しただけらしいけど。もこもこしているからコレぐらいは平気だろうと思ったと当人が言っていたが、恐らくワザとだろうなぁ。口角が上がっていたし、悪戯っ子が笑む時の様に見えたし。
ルクレツィア、グッジョブ!
そしてヴァルヘルム。
徐にアガーテの背後に何時の間にか潜んで居て、バリンッと……
「ぴぎゃあああー!髪、髪ィィィー!」
ヴァルヘルム、あの黒い毛猫の毛を食い千切り、モグモグしていたと思ったらぺぺペッと吐き出して『不味い』って苦虫を噛んだ様な顔をし始めた。
「ひ、ひのい」
「あー…うん、なんか御免。これ多分ヴァルヘルム怒ってるわ」
「怒ってるってにゃんでー!?」
「だってアガーテ、貴女猫じゃないでしょ」
はぃ!?
って感じで此方を見たアガーテに、私は再度『鑑定』をして見る。
名前:アガーテ
種族:人族(指輪効果:擬態)
職種:旅商人
レベル:判別不能
スキル:鑑定Lv5
称号:黎明の森の旅商人
この黒猫アガーテ、種族が人族なんだよね~。
しかも上記には記して無いけど、彼方此方判定不明の文字。かなり高レベルなんじゃなかろうか?そうで無いとこうも気安くアデルのダンジョンに出入りは出来ないだろうし、何より称号が物語って居るよね?『黎明の森の旅商人』と。
しかもヴァルヘルムに毟り取られた際に「髪」って言ってたし。
猫なら「毛」じゃない?
「にゃはーバレたにゃん。って、この格好してるのには深い訳があるにゃぁ~…」
尚「にゃあ」って言うのは趣味だそうだ。癖でなく趣味。なんだそれは。
異世界の「趣味」は訳わからんけど、ちょっと面白そ…いや、私はにゃんは言わないよ?言わないんだから何故そこでジーと此方を見てるかな、アデル。
「レーベルが「にゃん」って言ったら可愛いだろうな…」
ナニこの黎明の森の太古の魔王、煩悩ダダ漏れしてるよこの美人さん。
違った、この蜘蛛。いや蜘蛛男。
面倒い。
「ぱぱ、ままが、目、怖いから、正気、もどて」
ルクレツィア………
事実だけど、言わんで欲しい。
事実だけに!




