表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/242

096: 性懲りもなく来たあの貴族①



 洞窟を出て森を歩いている私たちは、洞窟ダンジョンから町まで半分というところまで来ていた。


(うーん。誰も来ないなぁ)


 私は『探索』スキルで少しあたりを確認するも、応援が一人も来そうにないことに不思議に思う。

 ルイくん以外の孤児院パーティーに町へ戻ってもらったから、すぐ来るはずなのに……。

 まさか孤児院側は「弱い魔物しかいない超初級ダンジョンにAランクとCランクの人たちが入ったのだから、帰ってくるのをただ待とう」と思ったとか……? いや、まさか。


 あ、私たちがダンジョンを出るのが早すぎたということもあるか。

 ダンジョン内の魔物に一切邪魔されていないし、走って中に入ったからそれほど時間が経ってない。

 とりあえず、皆と周りを警戒しつつ森を抜けていこう。


「シャーロットって、こんないい剣持ってたんだね」


 ルイくんは私が貸した剣を、目の高さに上げながらまじまじと見て言った。彼にも剣を持たせたままにしている。

 それは、「周りに襲いかかってくる魔物がいないから剣を返して」とは言えないからだ。

 皆『探索』スキルを持ってないし、私は『探索』スキル持ちであることを秘密にしているので、コトちゃんに「なぜ魔物がいないのがわかるっすか、『探索』スキルも持ってるっすか!?」などと騒がれたら大変だ。


「ず~っと前に買った剣だよ。ルイくんくらい……いや、もう少し若い頃かな」

「えっ、ということは、以前は剣を使っていたってことっすか? そして、あるときから魔法を極め始めたってことっすか!」


 興奮ぎみのコトちゃんには悪いけど、そんなかっこいい経歴はない。


「ううん。最初っから剣は使えなかったよ。いつか使えるんじゃないかなぁって思って買ったんだ」

「……ええと、それって――かわいいスカート見つけて、でもサイズ合わなくて、いつか痩せて穿こう! と買っちゃうやつっすか」


 コトちゃん……若いうちからそんな経験があるのだろうか。

 いや、この感じは違うな。……彼女のお母さんとか、身内の方の話だろうか。言いえて妙だ。


「なぜ今になって練習し始めたんですか」


 自身も剣を使うシグナちゃんが聞いてきたので、少し考えてからこう答える。


「うーん……、やっぱり学園生の――シグナちゃんたちのがんばりを見たからじゃないかな。その年頃の私はどういうことをしたかったかな、もっと小さい頃は? ……なんて考えてね。きっと他の冒険者の人たちも、似たようなことを思っている人がいると思うなぁ」


 私が「力」上げをがんばろうかなと思い立ったのも、元はと言えば彼女たち三人の様子を数日間見て、新鮮な気持ちを覚えたからだ。

 一緒にごはんを食べたときに「こういうことをやりたい」と目をきらきらさせていたり、「将来はどんなふうになりたい」と前向きであったり、ギルドで他の生徒さんたちと「こういうのをすることができた」「こんな方法もある」と語り合っていたりと楽しそうだった。

 活気のある彼女たちに感化されたのだ。


「そういうもんですか……あれ? あそこにおるのギルドマスターさんちゃう?」


 魔物にも人にも会わず、森を抜けて城壁沿いを歩いていると、ワーシィちゃんがひときわ背の高い人物を見つけた。

 ここは城門から少し離れた静かな場所で、――ギルマスは誰かと二人でひそひそ話していた。


「よう。……何かあったのか」


 ギルマスが私たちに声をかけつつ、マーサちゃんが私の障壁内にいるのを見て不審がる。

 話をしていた人はギルマスに軽く挨拶をして、すぐここから離れていった。


「実は――」


 私はその様子をちらりと目で追って、ギルマスの質問に簡潔に説明する。

 マーサちゃんは昨晩、怖くて寝ることができなかったのだろう。洞窟を出てからうつらうつらとしてきたので、収納魔法から敷布団を出して底に敷き、タオルを丸めて簡易枕を作ってあげるとすぐ寝てしまったのだ。


(それでも障壁の中は固いから寝づらいはず。早く帰って心地よく寝かせてあげなきゃ)


 ちなみに、ダンジョン入り口に落ちていたボタンはすでに返している。帰ったら自分で縫うそうだ。

 まだ小さいのに、自分で何でもできてすごいなぁ。


「――ということなんで、通報して、とっちめてやります」

 私は捕まえる気満々で説明した。


「通報はともかくよ。とっちめるのはお前の仕事じゃないからな。首を突っ込みすぎるなよ。――ほれ。早く孤児院に戻れ。心配してるだろうからな」


「……はーい」


 何だか釘を刺された気がするけど、まぁいいや。

 ギルマスが私たちを急かしたのは、彼のもとにまた人がやってきたからだ。

 だから私たちはギルマスと別れて城門へ向かう。それでも私は一定距離離れてから、ちらりと振り返った。

 やはりさっきと同じように、こそこそと――真剣に話している。

 誰にも聞かせられない話なのだろう。


(たぶん、昨日のあのことで情報を集めているんじゃないかな……)


 そう予測したけど、今は皆で帰ることを優先した。


「そういえばシャーロットさん。ギルドマスターさんのスキルがどうとか言ってましたけど、どういうことっすか?」

 城壁沿いを歩きながら、コトちゃんにギルマスの『珍しいスキル』について聞かれたので首をひねる。


「あれ、知らない? スタンピードで戦うとき……あ、そっか、前回のマルデバードは空から来て、町中の戦闘だったもんね。そうだなぁ……、コトちゃんたちが帰る前にあと一度くらいスタンピードがあるだろうから、そのときわかるよ。――腰抜かさないようにね」


 ギルマスの珍しいスキルとは、見てすぐわかるものだ。どうせなら実際に見て驚いてもらおう。



「――通ってよし」


 城門前で並び、商人の馬車の検査のあと、私たちの順番が来た。

 アーリズの町は日常的に使う門が二つあって、ここはテーブル山ダンジョンから反対側――主に近隣の町や村へ行き来するときに使う門だ。近隣と言っても、他の町や村の人たちが言う『近隣』とは違い、それなりに遠くにある。

 なぜならこの町は、スタンピードが起きたときに、他の町に被害が及ばないよう足止めする場所だから、遠くに『近隣』の町があるのだ。


 さて私たちは身分証――冒険者の登録カードを出して身分を証明したけど、マーサちゃんは着の身着のままさらわれたので、身分を表す物は持ってない。

 事情を説明しようとしたけど、それは必要なかった。門番の人はすでに状況を知っていたからだ。


「無事でよかったな。……ところでだ」門番の人は、とある人物がやってきたことを教えてくれた。「騎士団から通達があったあの……えーと、モブーだかブモーだか言う貴族の息子、――性懲りもなくまた来たぜ」


「え、なっ、あのデブが!?」


 先日迷惑をこうむったルイくんがすぐ反応する。

 親切に教えてくれた門番の人は「孤児院と揉めたんだろ。気ぃつけろよ」と言ったのち、次に並んでいた人に向き合った。


 私はあのときのことを思い出して隣の彼女たち三人を見ると、案の定、三人とも目がすわっていた……。

 そういうことならと足早に孤児院を目指すと、前方から五人の子供たちが走ってくる。


「ルイ~! 大変だよ! あ、マーサ!」


 孤児院パーティーの子たちだ。

 彼らがマーサちゃんの無事(最初は障壁の中に寝ているものだから心配していたけど)を確認後、何が大変なのか早口で説明してくれた。

 ルイくんは赤い目をさらに赤くし、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』も憤慨する。

 私はマーサちゃんの入っている障壁を再度きっちり確認し、どこから攻撃されても大丈夫なようにして、皆と孤児院へ走って向かった。


 孤児院には、人だかりの中心に「これが目に入らんか! この孤児院はワタシが好きにさせてもらうと言っておる! ふぁーっはっはっは!」と高笑いしているあの丸い人物がいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コミカライズ6巻は電子のみにて発売しております。

コミカライズ6巻&書籍情報

コミカライズ5巻&書籍情報

コミカライズ4巻&書籍情報

お店で本を探す際、こちらの画像をご参考くださいませ。

――・――・――

コミカライズ1巻発売中!

書下ろしマンガも入ってますよ!

コミカライズ1巻&書籍情報

お店で本を探す際、こちらの画像をご参考くださいませ。

↓こちらは2~3巻

コミカライズ2巻&書籍情報

コミカライズ3巻&書籍情報

☆☆

☆☆

↓下の画像は小説1~2巻の情報です。

カバーイラスト&書籍情報

2巻のカバーイラスト帯付き&書籍情報

お店で本を探す際、こちらの画像をご参考くださいませ。

◆◆

↓ランキングに参加中です。

押していただければ幸いです。


小説家になろう 勝手にランキング

◆◆

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ