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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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094: 超初級ダンジョン⑤ ~更新~



 地上に戻る道中、ルイくんとマーサちゃん兄妹二人の大きな声が響く。

「え、コトねーちゃんが全部倒したの?」

「ここ本当にダンジョンだったんだね~」


 通常ならばこの声で魔物が寄ってくるけれど、今はもちろん心配する必要はない。

 ルイくんは冒険者の立場から「なぜこんなことをしてしまったのか」と疑問を顔に表し、妹のマーサちゃんは「強いねー」と純粋に目を輝かせていた。二人の反応の差が面白い。


「ボクだけじゃないもん! 二人もやったもん!」


 コトちゃんは「三人でこのダンジョンの魔物を一掃していった」と主張したけど、その二人は、


「最初だけや」

「そのくらいでやめようって言っても、やめなかったのはコトでしょ。一緒にしないで」


 と、にべもなかった……。

 そもそもコトちゃんは――というか『キラキラ・ストロゥベル・リボン』はなぜこのダンジョンに来ようと思ったのか。


 それはとある事情により、感情的になっていたからだそうだ。

 実は一昨日、彼女たちはテーブル山ダンジョンへ出かけ、あろうことか中に入ろうとし、しかし入れてもらえずふてくされて帰ってきたそうだ。


 テーブル山ダンジョンは、中ランクの冒険者ならば入ることができる。

 ただし難易度が高いダンジョンなので、学園生は在学中に入れないと決まっていた。学園にて学んでいるということは、まだ「半人前」ということだからだ。危険が多いテーブル山ダンジョン内部に入るには、まだ早いとされていた。

 それに強引に入ろうとしても、入り口には見張りの騎士がいるので難しい。


 私は当日、彼女たちがテーブル山に行くというのを聞いていたけど「せっかくこの町に来たのだから近くで見たいのだろうなぁ」とだけ思って、普通に見送った。

 別にダンジョンに入れなくとも、外から見学したいと思う人はわりといる。一般人でも近くで見たい人がいるくらいだ。

 私も入らなかったけど、テーブル山ダンジョンの入り口付近に行って、山の高さ、威圧感などを堪能したことがある。


 だから三人も、山の風景を近くで見学したいのだろうと思ったのだ。

 ところが実際に行った彼女たちは、テーブル山ダンジョンに着くなり、見張りの目を盗んで入ろうとしたようだ。

 それを聞いて私は呆れた。


「学園でも、あそこのダンジョンは入れないって教えられてたんじゃなかったっけ?」


「そうっすけど、ボクはせっかくこの町に来たから、テーブル山ダンジョンにちょっと入って、魔物を一匹くらい倒したかったっす! ちょっとくらい入れさせてほしかったっす~!」


 私の質問に答えたコトちゃんは悔しそうに地団太を踏むけど、こういうことは規則らしいので仕方ない。

 見張りは当然、コトちゃんがかわいくお願いしても入れなかったし、食いつかれても相手にせず、三人で涙を浮かべて訴えても(笑)全く対応を変えなかったそうだ。


「だからあの日の夕食、少し怒ってたんだね。ははは」


 私はその日家に帰ってきたコトちゃんたちの様子を思い出して、笑った。

 むすっとしていたコトちゃんたちからは確かに「テーブル山ダンジョンに行った」とは聞いたけど、そこまでしていたとは知らなかったのだ。


 そして昨日の朝は「真剣な顔で家から出ていったなぁ」と思うだけだった。まさか、ここビギヌー洞窟ダンジョンで怒りを発散していたなんて。

 勢いあまって、踏破どころか片っ端から中の魔物を倒していったのもまた面白い。


「ボ、ボクもやりすぎかなぁとは思ったっす。でもぉ、つい……」


 その「つい」全部倒してしまったことによって、今現在、魔物と一匹も遭遇することなく平穏に歩いている。

 さて、ここで考えられるのは「ということは、もうこのダンジョンには魔物が現れず、ただの洞窟になってしまったのではないか」ということだけど、――そうはならない。

 あと四~五日で元に戻るそうだ。


 実はダンジョンには『更新』という現象が存在する。

 どういうことかというと、ダンジョンの内部では、一定周期で魔物が増える、または倒された分の魔物の数が元に戻る、宝が新しく現れる、減った分の宝がまた新たに追加される、宝の位置が変わるなどの現象が起きるのだ。

 ここビギヌー洞窟ダンジョンに限らず、世界中に点在するダンジョンのほとんどに、そういう現象があるとされ、それを『更新』と呼ぶ。


 それは、ダンジョンをよく使う冒険者だけではなく一般人にも知られている。

 大昔に、一度ダンジョン内の魔物を一掃し、それでもまた現れたという記録があるからだ。

 当時、ダンジョンから魔物が溢れ出て生活を乱された人々が「じゃあダンジョン内の魔物をすべて狩りつくせばいいじゃないか」と考えた。

 冒険者など、戦える人々を集めてダンジョン内の魔物をこれでもかと倒していったそうだ。


 しかし魔物を狩りつくしても、結局は元に戻ってしまった。

 ダンジョン内の財宝も同じで、すべて取りつくしたと思われた宝が、一定期間を過ぎれば元の位置にまた出現するなどの現象が起きたのだ。


 このことからダンジョンには「魔物を倒しても時間が経てば増え、宝もまた出現する」と人々に広く知られることになった。

 コトちゃんたちが学園で教えられたダンジョン学では、超初級ダンジョンでは大体四~五日くらいの間隔で更新現象が起きる、と教えられたらしい。


 つまり『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人は、まだ魔物は新しく出てこない、マーサちゃんは襲われていない――とわかっていたらしい。

 そしてダンジョン内の魔物を全部倒してしまったという事実がバレないように、三人だけでマーサちゃんを助けに行きたかったそうだ。

 どうせなら素知らぬ顔して私たちについてきて、延々としらを切り通せばよかったのに……。

 三人ともそういうのは苦手だよね。


「てかさー、なーんで魔物を一匹残らず倒したんだよ? 変なの~。もちろんマーサが助かったから、それでよかったけど」


 ルイくんが不思議そうに聞いた。

 確かにテーブル山ダンジョンに入れなかったから、町のもう一つのダンジョンに来たことは、まぁわかる……かもしれない。だとしても、魔物をすべて倒す必要はない。

 これではコトちゃんが奇行に走る女の子みたいだ。


「え~、何と言うか……、どうしても全部倒したほうがいいと思って。――あ! でも、ダンジョンの魔物を全部倒すことに、生きがいを感じているわけではないっすからね! 今回だけっす! どうしてかわからないけど……全部倒したほうがいいような気がして……」


 コトちゃんはルイくんの質問に答えつつ、私をチラッチラッと見る。

 彼女のパーティーメンバーの二人は「たまにこういう奇行に走ることがあるけど、そういうときは決まって何かの前触れである。長年の付き合いでわかる」として、今回もその奇行を見守ったということだった。


「マルデバードのスタンピードのときも、コトが『あっちが気になる!』って孤児院方面に向かったんや」

「そういえばこの町に来たときも、やたら時間をかけたせいで宿探しに困ったけど、結局はシャーロットさんの住む家の一階を借りることができたのよね」


 孤児院方面に行かなかったら指名依頼には繋がっていなかっただろうし、アーリズに早く来ていたら宿に泊まっていただろう、とワーシィちゃんとシグナちゃんは振り返る。

 彼女たち二人の話や、今回のテーブル山ダンジョンから洞窟ダンジョンの流れ……。理解に苦しむかもしれないけど、これらの奇行は私にとって容易に説明できる。


 実は、これらの奇行はコトちゃんのスキルによるものなのだ。

 ――そうだ! こういうときこそ『鑑定』スキル持ちの私が、コトちゃんの将来のためになるようなことを言ってみるといいのでは?


「コトちゃん、もしかしたらだけど……コトちゃんには何かスキルがあるんだよ。そう、例えば何かを予想するような、未来を見通せるようなスキルだったりするんじゃないかな。うん、きっとそうだよ~。魔物を一掃したのは、こういう事件があると予知みたいなものが働いたんじゃないかな?」


 スキルというのは、本人に自覚させると、そのあとの伸びがとてもよくなる。なので彼女にそういったスキルがあることを、いつもどおりごまかしながら伝えてみた。

 能力を測定する魔道具が開発中ということもあるから、さすがに「コトちゃんには『閃き』というスキルがあるよ」とはっきり伝えることはよしておく。


(機会を見つけて、他の二人にも、スキルとか能力値で伸ばすとよい点を自覚させてみるのはどうだろ)


 と頭の中で計画し始めたところ、コトちゃんはそれを聞いてパッと晴れやかな表情になり、私の予想外のことを言ってきた。


「あ、前に教えてくれたことっすね! ボクに『閃き』ってスキルがあるって話っすよね!」


 …………。


「…………え?」


 私は耳を疑った。



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