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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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093: 超初級ダンジョン④ ~不審なおじちゃん~



「ぜーはー、ぜ~、は~……よかった。マーサちゃん、無事だね」


 やっと最深部にたどり着いた――と息を切らしている私は、ルイくんがマーサちゃんと一緒にいる様子を見て安心する。

 一緒に走ったワーシィちゃんとシグナちゃんは、少し息が上がっているものの私ほどではない。膝を抱えて小さくなっているリーダー・コトちゃんに近寄っていった。

 マーサちゃんは最深層の中央付近に縄で縛られていたらしく、切られた縄などが床に落とされている。ルイくんが私が貸した剣で切ったようだ。


「マーサ! よかった! けがは?」


 ルイくんはマーサちゃんが無事であることに喜び、マーサちゃんの頭をなで、怪我はないかよく確認している。


「おにいちゃん、おなかすいたぁ~……」


 マーサちゃんの顔には涙の跡があったけど、思ったより元気そうだった。

『鑑定』で見ると、軽いすり傷や打ち身があるようなので、私の体力回復と一緒に“きゅあ”と唱えて治しておく。

 ――それにしてもよかった……。

 いくらここが超初級ダンジョンでも、マーサちゃんのような小さい子供では魔物に対抗できない。縄で縛られていたならなおさらだ。


 それにここ――この一番下にある層は、ダンジョンでは定番となっている宝を守るボス的存在の魔物がいるのだ。

 通常であればそれ以外にも、ボスの取り巻きをしている魔物がいるはずだった。

 私はこのダンジョンに入ったことはないけど、ダンジョン情報くらいギルドの職員だから知っている。

 ――本当にこのダンジョン内に魔物が一匹もいなくて助かった。


「おにいちゃん、マーサね……こわかったの。ここはダンジョンの中だって思ってたんだもん。まものがたくさんいるって、食べられちゃうって思ってたの……。けどねっ、まものなんて一ぴきもいないの。おにいちゃん、――ここ、ただのどうくつなんでしょ? 町のちかくにあったんだね」


 マーサちゃんの声は明るい。

 魔物に食べられちゃうんじゃないかとずっと泣いていたけど、いくら待っても魔物は来ないし、唸り声も聞こえない。だからただの洞窟だと思い始め、定期的に声を出して呼びかけていたら、私たちが来たのだそうだ。

 しゃがんだコトちゃんは身体を固くしていたけど、それは後回しにしよう。

 ワーシィちゃんとシグナちゃんが合流したから任せておいてよさそうだ。

 コトちゃんの精神的な回復のために時間を置くとして、その間マーサちゃんのお腹を満たしてあげよう。


「マーサちゃん、……はい、まずは食べてね」


 朝から何も食べてないマーサちゃんのために、収納魔法に入れていたパンやスープなどを出した。

 嫌いな物があったら交換できると伝えたけど、そういったそぶりはなく、どんどん食べ始める。


「ありがとー! こんなにいいの(もぐ)? あのね夜ね(ごくごく)……びっくりしたの」


 このダンジョン内はしばらく魔物が出ないようだから、食べてから説明してもらってかまわなかったのだけど、マーサちゃんは食べながら話し始めた。

 彼女は夜中に目が覚めたそうで、小さな明かりを持ち、食堂に向かったらしい。そのときからお腹が空いていたのだそうだ……。

 ルイくんが「夜中に食べようとするな!」と叱ったけど、あとで話し合ってもらうことにする。


「それでね、いんちょう先生のへやをとおるときね、なにか音がきこえたの。まだおきてると思ったからね、しずかに早くいこうとしたの」


 そこで引き返さないところがすごいね……。

 マーサちゃんが一歩踏み出すと、突然そのドアが開いたそうだ。

 院長先生だと思って言い訳しようとするも、部屋から出てきたのは先生ではなく、口元を隠した『金髪のおじちゃん』だったそうだ。

 そしてそこから記憶がなく、気づいたら馬車のような揺れで目が覚めたらしい。

 しかし口も腕も縛られていたから助けを呼べず、途中からは担がれてこの場所に捨てられたそうだ。


「なっ、それじゃ、うちの孤児院に不審な男が入ってきて、マーサを攫ってここに置き去りにしたってこと……ひ、ひどいよ! 許せないよ……!」


 ルイくんの拳が震えていた。

 不審者に夜中忍び込まれて、院長さんの部屋で何かをされた可能性があり、目撃者であるマーサちゃんを連れ去った――。

 その場で事に及ばずダンジョンに置き去りにしたのは、良心が残っていたというより「証拠を残したくない」という意識のほうが強かったからだろうか?

 実はダンジョン内で命を落とした場合、一定時間経つと死体は残らないのだ。

 マーサちゃんを置き去りにしたろくでなしは、この最深部に置いておけば、完全犯罪ができると思ったのだろう。


 だとしたら、ここが薄暗いダンジョンでよかった。

 明るくて見通しがよければ、魔物がいないことに気づき、ろくでなし自身で口封じすることも考えられた。

 暗くても魔物と一度も戦闘にならなかったら、結局怪しまれるのでは……とも考えられるけど、この洞窟ダンジョンは魔物の数が少ないし、強い相手だと戦闘を避ける魔物もいるのだ。

 だから最深部までの道のりが無戦闘でも、変に思わなかったのかもしれない。


(ということは……、まぁまぁ手練れの犯行ってことかな?)


 マーサちゃんからさらに人相を聞くと、その『金髪のおじちゃん』は、顔はよくわからないけど目の色は青だった気がするとのことだった。

 金髪に青い目は珍しくない。比較的どの種族にもいる特徴だ。


「金髪に青い目、は絞りづらいなぁ。マーサちゃん『おじちゃん』って言うけど、どのくらいかな。バルカンさんくらいとか?」

「ううん。……んーとね、ゲイルちゃんくらいかな~。たぶんね~」


 ……聞いておいてよかった。

 おじちゃんと言うから『羊の闘志』のリーダー・バルカンさんを引き合いに出したけど、マーサちゃんくらいの子供にとっては、ゲイルさんがおじさんか……。彼、二十代前半なんだけど。

 そしてゲイル『ちゃん』。……彼の人柄ゆえかな。そういえば彼、そろそろ帰ってくるかな。ま、それより――。


「ルイくん、院長さんは何か盗まれたとか壊されたとか、その部屋については言ってなかったの?」

「マーサのことで皆忙しくなったから、俺はわからないよ」

「そっか……。よし、そろそろ帰ろっか。院長さんも待ってるよ。――あ、マーサちゃんはゆっくり食べてていいからね」


 マーサちゃんは帰ると聞いて、急いで食べ物を口に入れようとしたからそれを止めた。

 何も、歩き食べをしてねということではない。


「――はい。さ、マーサちゃんはこの中に入ってゆっくり食べてね」


「はい」で作ったのは障壁だ。それも、私がいつもお風呂を楽しむために作っている湯舟型障壁。六面体の上部分を外した箱状の障壁で、その中に入ってもらうのだ。


「よーいしょ!」


 私はマーサちゃんを、ルイくんと力を合わせて障壁の中に入れた。

 持ち上げている最中に、「もう一面外して、側面から入ってもらえば簡単だった……」と少し反省した。

 まぁでもこれで、私の「力」が上がったかも。……いや、上がってなかった。


 とにかく、マーサちゃんを私の障壁で運べば、彼女は食事をしながら移動ができるし、帰りを待つ孤児院の皆もその分早く会える。一石二鳥だ。

 魔物が襲いかかってきても、マーサちゃんの頭上に障壁を配置すれば、上からの攻撃もはじくことができる。……あ、このダンジョンには魔物がいなかったっけ。


「コトちゃんほら、いつまで沈んでるの、帰るよ! 聞いたよ、ここのダンジョンの魔物、全部倒したんだってね。……超初級ダンジョンの魔物を全部倒す人なんてすごく珍しいけど、今回はそれでマーサちゃんが無事だったんだから、よしとしようよ」


「シャーロットさん……」


 三人向き合ってしゃがんでいる中の、一番背中が丸い一人に帰りを促す。

『Cランクの冒険者が、超初級ダンジョンにわざわざ入ってしかも踏破する』――これだけでもなかなか恥ずかしいことなのに、さらに『中の魔物を一匹残らず倒していった』のだ。

 正直、そんなことする人なんて初めて見たし、発想からして普通の冒険者はまずやらない。

 面倒くさいし、周りに知られたら確実に笑い者か変人扱いされる案件だからだ。

 しかし昨日の午前にダンジョン内の魔物を一匹残らず葬り、結果的にマーサちゃんを助けたことになった英雄を、私は励ました。



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